第三十七話 裁判の結果
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裁判の結果、ジョアンナとその息子のヤン、そして姪のアグニエスカは罰として一年間、兵役につく事を命じられた。
場所はルテニアとの国境であり、すでに戦地に配備されているスコリモフスキ家の当主ヘンリクと共に力を合わせ、国に尽くすように、と、重々しく裁判長は述べることになった。
爆発と巨大な氷で破壊された邸宅はコロア王国の公爵家所有の別荘地だったため、隣国ルテニアと衝突を繰り返す中、南のコロア王国への警戒も高めなければならない状況に陥ってしまったのだ。
そのため、ルテニアとの国境線にスコリモフスキ家を送り、国境に配備された一部兵士を南に派遣する事を決定。
別荘地の破壊に対してはスコリモフスキ家が賠償するように命じられており、戦地での功績によって得た報奨金を当てる事になっている。
王家は厄介なスコリモフスキ家を無料で戦地に配備し、戦闘力として当てることに成功した。余った戦力は緊張状態となっている南の国境へ配備し、大魔法使いの最後の弟子であるマルツェル・ヴァウェンサは、東の森を守る事を命じられる。
全てはスコリモフスキ家の名誉を回復するためと言っているが、全てが茶番なのは言うまでもない。
「ねえ!元上司を前にした時のお姉様の顔ったらなかったわよねえ!すっごくびっくりしていて!あれこそ間抜け面って感じで!」
アグニエスカの異母妹であるエヴァは楽しそうに言い出した。
「でも、クリスティーナったら可愛そう、意中の上司はまたまた東の森に行くのでしょう?離ればなれになっちゃうって事だもんねえ?」
スコリモフスキ家に下される裁判を傍聴しにやって来たクリスティーナは、興奮状態のエヴァを若干呆れながら見つめる。
エヴァは腹違いの姉であるアグニエスカに対して、物心ついた時から強烈なライバル心のようなものを持っている。エヴァは何処まで行っても下位身分となる男爵家の娘だというのに、アグニエスカの後には常に『大魔法使いパヴェウ』の名前が後ろ盾となって燦然と輝いているのだ。
鼻持ちならない異母姉をギャフンと言わせて、とにかくご機嫌でご機嫌で仕方がないらしい。ご機嫌状態でありながら、クリスティーナを見下そうとするエヴァに笑顔を向けて、
「最近、マルツェル様ったら、毎日のように家に呼んで一緒に食事までとるようになったの!流石に好きだった相手が裁判沙汰を起こしてショックだったみたいで、私に慰めて欲しい・・なんて上目使いで言ってこられてしまったら・・ねえ・・」
東の森に配属予定の上司と良好な関係を作っているとアピールすると、エヴァはギリギリと歯軋りをした後に、気を取り直すようにして瞳をうるうると潤ませた。
「だけど、クリスティーナの意中の方って、生きて帰れるかどうかもわからないなんて可愛そう!」
私は憂いを含んだ眼差しを向けた。
「彼も色々と不安みたいで、なかなか私を離してくれないの」
「まあ!離してくれないだなんて!」
エヴァは大きな目を見開きながら、
「私だって!跡継ぎ問題とか色々とあるし!サイモン様ともっとイチャイチャしなくちゃかしら!」
と、興奮の声をあげた。
結局、エヴァの婚活はうまくいかなかったようで、婚約者であるサイモンの元へ落ち着くことを決めたようだった。
華やかな容姿のエヴァに興味本位で話しかけてくる男性が多いけれど、爵位は男爵だし、家の事業は落ち目だし、本気で付き合おうという奇特な人間などまずいない。そもそも、アグニエスカを虐げたとされているパスカ家の人間なのだから、遊びや興味本位で近づく人間しかいないのだ。
「サイモン様とは最近会っていなかったんじゃないの?」
「そうね、だけどサイモン様は私に夢中だから!」
エヴァは自信たっぷりに答えると、
「今日はサイモン様と久しぶりに自宅で会う予定なのよ!だから、ここで失礼するわね!」
と言って、さっさと出口の方へ向かってしまった。
スコリモフスキ家の魔力暴走は大きな話題となり、しかも壊した邸宅がコロア王国の貴族所有のものであったとして、問題を迅速に解決するためにその後の動きは早かった。
多くの関係者が裁判所に訪れる事となったため、クリスティーナはアグニエスカの異母妹であるエヴァを使って裁判所に潜り込むことに成功。
クリスティーナが人数制限もかけられる人気の裁判に潜り込んだのには理由がある。
「ああ、君も来ていたのか・・・」
傷心のマルツェルはクリスティーナを見つけると、縋り付くようにして抱きしめてきた。
元上司への好意を募らせたアグニエスカ嬢による付き纏いを証言する人間は複数おり、アグニエスカ嬢に謝罪しようとして毎日のように訪れる幼馴染のナタリアの姿を見かけた人間はかなりの数にのぼる
姪っ子可愛さに暴走したスコリモフスキ家は、貴族街の邸宅をひとつ破壊し、無数の氷の柱を発生させることによって甚大な被害をもたらした。
「マルツェル様、お可哀想に、スコリモフスキ家の為に尻拭いのように東の森へ行かなくちゃならないなんて」
クリスティーナがぎゅっと抱きしめ返すと、マルツェル様の体がビクリと動いた。
「大魔法使いパヴェウの最後の弟子であるマルツェル様が、スコリモフスキ家の贖罪を行うために、たった一人で戦わなくちゃならないだなんて、私、とっても悲しいです」
魔法で守られているヴォルイーニ王国だけに、戦える魔法使いの数は他国に抜きん出て多いとしても、兵士の数はかなり心許ない状況だ。
南のコロア王国が不穏な動きを見せている中で、どうしても南に割く兵力を捻出出来ない状況の中で、スコリモフスキ家がやらかしたヘマは天の采配と言っても過言ではないような出来事だった。
西にスコリモフスキ、南に王国軍、落ち着いた東にはマルツェルをあてて、王国の守りを厚くする。
「クリスティーナ、今日は僕の家に来てくれるかい?」
最近、常に一緒に居るマルツェル様が、初めて名前で呼んでくれた。
『勝った、ついに勝ったわ!』
クリスティーナは心の中で、あの赤髪の女に向かって勝利宣言をした。
いつでも距離があった二人が、ようやっとお互いの気持ちに気が付くのよ!
「僕が食事を用意するから、君は何も気にせずに来てくれたらいいんだよ」
マルツェルはクリスティーナの体を離すと、頬を指先で撫でながら、しっとりとした声で言いだした。
ああ、長い戦いだったけれど、遂に勝利をしたのね。
「本当に、私がお食事を用意しなくて良いのですか?」
「うん、僕が用意するからいいよ」
モサモサ髪の上司は、はにかむような笑みを浮かべた。
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