第三十話 アグニエスカのおでかけ
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
マリアおばあちゃんに良く似たヘンリク叔父さんは42歳、顔立ちが整った男前だ。家柄目当ての女性と一回結婚したんだけど、性格の不一致から離婚して、その後に再婚したのがジョアンナおばさんという事になる。
3歳の時に母を亡くした私は、後妻を迎えたパスカ家でネグレクト状態になったのだけど、叔父さんが一人目の奥さんと結婚していた為、おばあちゃんは叔父さんの所に私を預けても碌なことにならないだろうと判断した。
そんな訳で、ポズナンの自分の家に私を引き取ったという経緯があります。
現在の奥さんであるジョアンナおばさんは38歳、栗色の髪を結いあげた琥珀色の瞳の、なかなかの美人と言えるでしょう。
今日は晴れているので日傘を持っているのですが、金属の柄の部分に電気を走らせてナタリアへの威嚇を続けています。おばさんは雷を専門に扱う魔法使いなのです。
「ちょっと、アグニエスカのおばさん、本気で怖いんだけど?」
「そりゃそうだよ、おばさん元々は軍部で働いていたんだから」
「えええ?」
現在、魔の森から帰ってきたヘンリーおじさんは西の国境へと派遣されています。本当は雷魔法を使うおばさんが行く予定だったのですが、妻を戦地になど行かせたくない叔父さんは自ら立候補したのです。この事実を言うとおばさんはきっとヘソを曲げるので、息子の代わりに行ったという事にしています。
「戦争になってからスコリモフスキ家に注目が集まっているのは何も大魔法使いの力だけじゃないんだよね。ヘンリーおじさんは炎使い、おばさんは雷使い、ヤンは氷と結界が得意だから、一家全員戦地送りにしようっていう意見もあるくらいだし」
「えええ!そうなの!」
ナタリーは驚いた顔をすると、
「ああ・・だから殺したいほど憎い的な・・・」
と、不穏な事を言い出した。
「ねえ、殺したいほど憎いって何なの?」
「はあ?私そんな事言っていないけど?」
「言っていたでしょ?」
「言ってないわよ!」
バチバチバチッと電気が弾ける音がすると、
「ユレック殿下の事を言っているのでしょ?」
と、おばさんが言い出した。
「王家の結界術を継承し、膨大な魔力を持つ第一王子イエジー殿下は王位継承を約束されているもの。魔力も平民並、頭の中身も平民並の第二王子は、とにかく魔力持ちが活躍しない世界を求めているの。だからこそ、我がスコリモフスキ家が大嫌いなのよ」
ええーーー、今まで第一王子にしか会った事がないけど、第二王子ってそんなしみったれた奴なわけーー?
「おばさん!侮辱罪で逮捕されるわよ!」
電気に怯えながらナタリアがそれでも文句を言うと、
「私が侮辱罪を適応して貴女を丸焦げにしてやろうかしら?」
と、おばさんが言い出した。
おばさんは美人だけど怖い、怖いけど美人なのだ。
「そ・・そ・・それは・・単なる殺人になるわよ!」
「単なるで済まさないわ、何とかするわよ」
「大魔法使いの権力を使って?」
「そんなものを使わなくても、軍部の力を使ってヤルわよ。ところでナタリア・ネグリ、あなたは私たちをどこに連れて行くつもり?」
「はい?」
王都は中央公園という巨大な公園を中心にブティック街や商業施設が広がっている。この中心街が流行の発信地となり、カフェや人気のレストランも軒を連ねているのだった。
私たちは貴族が居を構える貴族街から坂道を下って中心街の方へと向かわずに、途中で馬車も通らない細い道の手前で降りて、そこから左に曲がって坂道を登り始めていたのです。
歩いてすぐのカフェと言いながら、10分以上坂道を登り続けている。
「まあ!おばさまは最近流行のカフェが貴族街の中にも出来ているのを知らないのですか?」
「丘から街を一望する所でしょ?だったら逆の方向に向かうはずなのだけど」
「別の場所に新しいカフェが出来たんですよ、そろそろ見えてきました」
高級住宅地といった様相の洒落た石畳の道を見上げると、小さな森の中からテラスが突き出ているような形となって、パラソルや椅子が並んでいる姿が少しだけ見えた。
「あともうちょっとですから、こっちが近道になりますから」
塀と塀に挟まれた細い小道の方へと入っていくと、奥の方から見知った男が歩いてくる。
「アグニエスカ!会いたかった!アマンダなんかに気移りしちゃってごめん!」
男は手を振りながらこちらの方へと近づいてくる。
新聞社の元上司で、妻子がいるのに職場の女性に手を出し続けているクズみたいな男。妻とはうまくいっていないと言いながら、私の愚痴をいつも笑顔で聞いてくれた男。最後には、君は一人でも大丈夫とかよく分からない事を言って私を切り捨てた男。
「アグニエスカ、こちらにいらっしゃい」
私の手を掴んで抱き締めたおばさんは、全身に電気を纏うようにして走らせ出す。私はこの電気をいつも感じる事が出来ない。ただ、金色に弾ける光が綺麗だなと思うだけ。
「おばさん、そんな事をしたって無駄だよ?」
ナタリアがニコニコしながら振り返ると、大きなビニールシートのような布が後ろから被せられて、地面へ押さえ込まれるようにして倒れ込む。
布の上から何度も、何度も、木の棒のようなもので叩かれて、そこから意識が遠のいた。
おばさんは私を庇うようにして抱き締めていたから、ひどい怪我を負ったかもしれない。せめて痛みだけでも取れるようにと、手に力をこめた。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!




