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第二十五話  元婚約者との再会

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 マルツェルのお姫様抱っこを見送った私は、とりあえず家に帰ろうと思い、離宮から王宮の方へと向かって歩いていると、


「本当にお似合いの二人!」

「マルツェル様とクリスティーナ様の結婚も近いかもね!」

「クリスティーナ様の献身ぶりはすごかったもの!マルツェル様も他の秘書官とは違う、クリスティーナ様の働きぶりを好きになったのかもしれないわね」


 と言ってはしゃいだ声を上げている女性事務官のグループと遭遇した。


 従弟のヤンに確認した所、魔法省の幹部は各自、一人の女性秘書官が割り当てられるそうなのです。仕事や私生活のサポートを受けるらしい。その為、独身幹部は秘書官と結婚することが多いため『身分の高い方専属の花嫁候補』と呼ばれるそうなのです。


 スケジュールを調整したり、面会をセッティングしたり、必要書類を用意したり、書類作成業務を請け負ったりという仕事の他に、担当上司の私生活に問題がないように配慮するのも仕事らしい。


『クリスティーナ様の献身ぶりはすごかったもの!マルツェル様も他の秘書官とは違うクリスティーナ様の働きぶりを好きになったのかもしれないわね』


 とはその通りの事で、彼女の献身ぶりたるや、裸でベッドに入っているくらいだから相当なものだろう。働きぶりを好きになったという事だから、テクニックも相当なもので、そりゃあ夢中になるだろうし、お姫様抱っこしながら何処かへ連れて行ってしまうのも良く分かる。


「はーーーー、意味が分からないわ」


 私は思わず首を横に振りながらため息を吐き出してしまった。


 何故、彼はポズナンまでやってきて、

「僕にはアグニエスカだけだよ、アグニエスカが居なかったら死んじゃうよ」

 なんてことを言い出したのか理解できない。


 マリアおばあちゃんも、ヘンリク叔父様も、従弟のヤンも、

「マルツェルにはアグニエスカしか見えてないじゃない!」

 と言うのだけれど、何をどう判断したらそういう意見になるのだろうか。


「はーー〜、鬱陶しい、秘書官だか何だか知らないけど、結婚するならさっさとすればいいじゃない」


 気がつけば、頬を涙が一粒流れ落ちた。

 これはあれだ、唾だ、唾、心の唾がちょっぴり流れ落ちただけよ。


 人通りが多い宮殿内ではなく、庭園の方をまわりながら表門の方へと向かおうとした私は、すこし歩いた所で、

「きゃっ!」

 何かに蹴つまずいて転びそうになってしまった。


「なっ・・あっ・・すみません!」


 どうしてこんな所にしゃがんでいるのか全くわからないけれど、男性が一人、苦しそうに身悶えていた。


「あの・・大丈夫ですか?余所見していたんです、ごめんなさい」

「い・・いいえ・・大丈夫です」


 どこかで聞いたような声、と、不審に思いながらしゃがみ込む男の人を覗き込むと、

「ええええ?サイモン様?どうしたんですか?」

 中性的な美丈夫が脂汗をかきながらこちらの方を振り返った。


 サイモン様は背は高いんだけどひょろりと細身の体型で、女性的な柔らかい面立ちをした金髪碧眼の美丈夫です。この国は本当に、金髪碧眼の人が多いんです。だから、私みたいな赤髪は嫌に目立つし、嫌われてしまうのね。


「アグニエスカ嬢、どうしてこんな所に?」


 婚約破棄されてから、サイモン・パデレフスキ様と顔を合わせるのは始めてで、思わず説明を入れてしまう。


「いや、あの、最近私、殿下の専属の治癒師に選ばれて、毎日登城する事を義務付けられているんですよね」

「そ・・そのことは知っているよ?」


 サイモン様は財務部門に務めているエリートだから、王宮内の人事については耳にするか。


「今日は殿下から早く帰っていいと言われたので、自宅に帰るために表門へ移動している所だったんです」


 顔色が青から紫へと変わり、脂汗をかくサイモン様を見下ろした私は、

「ちょっと痛みを取りますね」

 と言って、彼の腹部にそっと手を置いた。


 正直に言って私は彼とあまり関わりたくはないし、早くここを抜けて家へと帰ってしまいたい。


 私は王宮内で様々な噂をされているので、ここで元婚約者と一緒に居るところを誰かに見られたら、また憶測と推測ばかりの噂を増やすという事態になるだろう。嫌だな〜、本当に嫌よ、女の噂は際限がないし、嘘とか本当とか、面白ければどうでも良いんだからさ。


「どうでしょうか?胃が痛かったみたいなので、少し痛みを取ったんですけど?」

「う・・嘘だろう!」


 私は一ヶ月に一回、この人とお茶会をして過ごしていたわけだけど、こんなに喜んだ姿は見たことがない。顔を薔薇色に染めたサイモン様は、私の手を取ると、

「ありがとう!アグニエスカ嬢!ありがとう!」

 と、言いながら大粒の涙をこぼし始めたのだった。大袈裟すぎるにも程がある。


「大丈夫ですか?ちょっとは気分が落ち着きましたか?」


 他人の涙の心配をしている場合ではないのだけれど、七転八倒するほどの胃の痛みを感じながら、ストレスで号泣する人を置いていくほど私も鬼じゃない。

 

 近くのベンチに座らせて涙をハンカチで拭いてあげていると、

「わ・・あの・・すみません・・・」

 と、言いながら、ヒック、ヒックと子供みたいに言っている。哀れだわ。


「こんな・・こと・・してもらえる・・義理もないのに・・・」

「いいえ、困った時にはお互い様ですよ」


 ハンカチを受け取ったサイモン様は、自分の涙を私のハンカチで拭きながら、

「本当に、婚約破棄などとアグニエスカ嬢には大変失礼なことをしてしまって・・本当に・・申し訳なく・・・」

 と、言い出した。


「婚約破棄が失礼なことだっていうのは理解していたんですね?」 

 私が思わずため息を吐き出すと、サイモン様は改まった様子で、

「あの、もしかして、アグニエスカ嬢はエヴァへ虐めや嫌がらせなんて事はしていないんじゃないですか?」

 と、問いかけて来た。


「してないですよ、逆に嫌がらせはしょっちゅう受けていましたけどね」

 と、答えて私は唇を尖らせた。


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