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第十六話  アグニエスカの魔法

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 魔法は想像力だ!とかなんとか、なにかの漫画で言っていなかったっけ?


 前世の記憶だから確かじゃないけれど、想像力が優れた者ほど上級の魔法が操れるとかなんとか、そんな事を魔法使いのお爺さんが言っていたわよね?


 だったら前世のチートを使って私だって!私だって!なんてことを思っていたんだけど、

「アグニエスカはこの世の理から外れているからね」

 と、大魔法使いのひいおじいちゃんが言う通り、私はこちらで言うところの火魔法とか水魔法とか風魔法とか氷魔法とか全く使えないんですよ。


 前世の知識が影響して、という事なのかどうかは分からないけれど、私は生まれた時から『痛みを操作する』という事しか出来ない。


「初めまして、パヴェウ・スコリモフスキのひ孫のアグニエスカです」


 イエジー殿下の寝室へと招かれた私は、部屋に入るなりそう言ってカーテシーをしたわけだけど、

「堅苦しい挨拶は必要ないよ」

 ベッドの上に居る真っ黒な人が、ため息交じりに言い出した。


「こんな状態なもんだから、あんまり人に気を使いたくないし、気を使っても欲しくないんだよね。だから、貴女も普段通りで接してくれたら助かるかな」


 イエジー殿下はとにかく真っ黒だった。

 髪の先から爪の先まで、まるで墨を塗りたくったかのように真っ黒で、白目だけが白い。あ、口の中も赤いわね。


「隣国の姫君に呪われてからこんな調子なんだけど、最近は関節痛も酷くなってきてね。体の節々が痛くて眠れない事が続いていて、そこのところをなんとかしてくれると本当に助かる」


「痛みの中では関節痛の他に、どんな痛みがあるんですか?」


 私の質問に、私をここまで連れてきた治癒魔法師が不快な表情を浮かべると、

「無礼者、そなたのような者が気軽に口をきいて良い方ではないのだぞ!」

と言って私の頭を鷲掴みにして、床に押し付けるのかっていうくらいの低さまで押し下げる。


「頭が高い、頭を垂れろ、お前ごときがこのような場で」

「ゲンリフ、お前もう帰っていいよ」

 本当にうんざり、という感じで殿下は手を振りながら、

「もう来なくていいから」 

 と言い出した。


 その時の魔法師のおじさんの顔ときたら、顎が外れるんじゃないかって程まで口を開けている。


「わ・・わ・・私は王国一の治癒師として・・・」

「その治癒師が呪いの一つも外せないわけだろ?今の私にお前は必要ないよ」

「そ・・そんな・・・」


 おじさんがワナワナと震えていると、部屋の中に入ってきた衛兵二人が魔法師のおじさんを抱えて出て行ってしまった。


 そのおじさんの後ろ姿を見送っていると、

「アグニエスカ嬢、疲れるから近くに来て座って話してくれないかな?」

 と、殿下は言い出した。


 白目しか真っ白じゃない殿下は全てが真っ黒に染まりきっているけれど、死ぬほど症状が悪化しているという感じには見えない。


 私がベッドサイドに置かれた椅子に座ると、侍女が殿下と私の為に紅茶とケーキをセッティングする。


「ベッドの上で失礼するよ」

 殿下はそう言って、ベッドテーブルの上に置かれたリンゴのタルトケーキにフォークを入れると、モグモグと食べながら、

「君はリンゴが好きか?好まないようだったら違うケーキを用意するから言ってくれ」

 と、言い出した。


 食欲もあるし、具合はそんなに悪いようにはやっぱり見えない。


「リンゴのタルトで大丈夫です。ところで、先ほども質問したんですけど、関節痛の他に、どんな痛みが症状としてあるのでしょうか?」


「そうだね、肩とか腰とか、首回りとかかな。筋肉が凝ってるって感じで痛むんだよ」


「それって、ずっとベッドに寝ているからじゃないですかね?」

 呪いとか関係ないように思うんだけど。


「全身真っ黒ですけど、食欲もあるようですし、体調自体はそれほど悪くはないと思うんですよね?真っ黒だから安静にして寝ていろっていう事になって、安静にして寝ていたら腰とか首とか関節とかが痛くなる。若いのにいつまでも寝ているのは良くないですよ」


「まあね、確かに呪いは魔力回路のへの障害に限定しているようにも思えるしね」


 殿下はじろりと私の方へ目を向けると、

「それじゃあ、アグニエスカ嬢は何も僕にしてくれないって事になるわけ?」

と、言い出した。


「いや、痛みは取りますよ?でも、完全に取るという事はやめておきます」

 と答えて、殿下の腕に手を触れた。


 私がこの痛みを取る魔法が出来るようになったのは五歳の時で、庭で雑草を抜いていたひいおじいちゃんが腰を痛めたのがきっかけだった。


 あんまり痛くて動けなくなってしまったので、

「ひいおじいちゃんの痛いの痛いの飛んでいけーーー」

 と言って撫でると、腰の痛みが無くなった。長年続いた肩凝りの痛みも無くなった。


「・・・・」


 ペーパーナイフで指を傷つけて、真っ赤な血がぽたぽたと落ちても痛みがこない。痛覚というものの一切が失われている事に気がついたひいおじいちゃんは驚愕し、私に対する特訓が始まったのだった。


 この世界には治癒魔法なるものもあるんだけど、せいぜいが切り傷を治す程度のもので、病を完全に治したりとか、骨折を治したりとか、そういう事は出来ないらしい。


 私の場合は、病を治せないし、骨折も治せないけど、痛みを取るという事だけは出来るみたい。


 ただ、何も考えずに行うと『痛覚』というものが消失してしまうので気をつけなくてはいけない。


 痛みを感じない生活を送ると、怪我をしても気がつかずにそのまま放置して、下手をすれば命の危険を伴うということもあるからだ。


 だから、痛覚を操作する術を学ばなければならないという事で、既存にない魔法ゆえに、ひいおじいちゃんと一緒になって四苦八苦する事となるのだった。


「君の魔法は変わってるな」

 真っ黒殿下は私を金褐色の瞳でじっと見つめながら言い出した。


「一気に痛みが無くなった、しかし完全に無くなったわけではなく僅かにだけ残っている」

「完全に取ることも出来るんですけど、完全に痛覚を取ると後が色々と大変ですから」


「どういう事だ?」


「痛みというのは防御作用の一つであり、防御作用の一つが働かないとなると、命の危険にも繋がることもあるんです。例えば、私、この前男の人に車の中に引っ張り込まれて誘拐されそうになったんですけど、そいつの痛覚を一時的に完全喪失してやったんです」


 誘拐というワードにちょっと驚いた様子を見せた殿下は、黙ったまま話を促してきた。


「痛覚を完全喪失したところで、おばあちゃんが鋭利の魔法をかけておいたフォークでぐすーっと刺したんです。普通、痛みを感じられれば、フォークで刺された時点で飛び上がって逃げるんですけど、痛みが感じられないから刺されないように抵抗もしないし、気がつきもしないんです。それで、刺した後に痛みを倍増して逃げたんですけど」


「痛みは消す事も出来るし、倍増する事も出来るのか?」

「出来ます」

 私は一つ頷くと、

「設定すれば期間は自由です」

と答えたので、殿下はギョッとしたように目を見開いた。


「驚くほど使えない魔法ですよね」


 そりゃ、異世界転生したわけですし、私だって魔法には憧れがありますよ。炎の魔法やら氷の魔法やらやってみたいもんです。だけど、出来るのが痛みの操作だけ。しょぼ。


「いや、それは使えない魔法なのか?」

「ええ?」

「使いようによっては呪いになるじゃないか?」

「呪いですか?」

「頭痛が一生続くとかされたら、ある意味地獄だろ?」


 確かに、頭痛が一生続いたら嫌かもしれない。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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