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第十話  悪女キャラ爆誕

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「ねえ、聞いた?あの方がポズナンに舞い戻ってからというもの、婚約を破棄するとか言い出す殿方がそりゃあたくさん増えたのですって」


「嘘!なんで?」


「だって、あの方と結婚できれば、大魔法使いが後ろ盾となるわけですもの。今となってはスコリモフスキ家の恩恵は大変なものでしょう?」


「私の婚約者も取られちゃったらどうしよう!」

「気をつけた方がいいわよ、少しでも色目を遣われたら私たちにはどうにも出来ないのだから」


 なんなの?色目なんかつかった事ないわよ!

 婚約破棄した奴が居るとか居ないとか言うけど、私が率先して婚約者と別れて頂戴とか、恋人と別れて頂戴なんて言った事は一度もないのよ?


 あーーー、婦人会の手伝いなんか来るべきじゃなかったあ。おばあちゃんの口車に乗るんじゃなかったああああ。


 王家が施す結界の力が弱まり、武力での侵入を阻止する力が弱くなっている為、我が国の西方に位置するルテニア公国だけでなく、南方に位置するコロア王国までもが不穏な動きを見せている。


 東方には魔獣が住み着く魔の森があり、北方領域には古代竜が移り住んだと噂されるカルパティア山脈が連なっているため、西と南と北に最大限の警戒をしなくちゃいけないらしい。


 ルテニアとの国境線では敵軍との衝突も始まっているため、各都市の婦人会では医療品や包帯、ガーゼなど戦地で必要となる物を用意して、送る事を義務付けられていた。


 腰を痛めてしまったひいおじいちゃんの面倒を見なくてはいけないマリアおばあちゃんが参加出来ない為、代理として私が婦人会に参加する事となったんだけど、とにかく滅茶苦茶居心地が悪い。


「ねえ、アグニエスカちゃん、うちの息子が調度、アグニエスカちゃんと同じ歳なのよ?今度うちにお食事に来ない?」

「あら、あなたの家の息子さん、確か婚約者がいたんじゃなかったの?浮気になるんじゃないかしら?」


「あの子は確かに仲良くしている娘が居たには居たんだけど、最近、仲がこじれて別れたの!フリーなのよ!」

「あらっ!だったらうちの息子もフリーよ!背も高くって、私が言うのもなんだけど、とってもハンサム!アグニエスカちゃんにお似合いだと思うわあ!」

「まあ!よくもそんな事を言えたわね!あんたの所の息子はへちゃむくれじゃないのよ!」

「なんですって!」


 皆さん、包帯とガーゼ作りはどうなったんですか?

 戦地で怪我をしている兵士たちに送るんじゃないんですか?

 皆さん、手が止まっていますよお!


 心の中で叫びながら、ひたすら反織のガーゼをハサミで切っていると、シスターが私の事を手招きして、廊下の方へと呼び出した。


「アグニエスカさん、どうしても貴女が居ると、他の人が仕事にならなくなっちゃうみたいだから、貴女はお家で内職をしてくれるかしら?」

「ですよね」


 確かに、ひいおじいちゃんは凄い魔法使いだと思う。


 投下された爆弾は、結界の幕の上を滑るように広がり、消えていってしまったし、飛んできた飛空艇の侵入を許すような事はなかったもの。

 ヴォルイーニ王国の西の平野に広がる穀倉地帯では、爆弾を弾ききれずに落してしまったため、複数の被害が出ているとも聞いている。今年の麦の収穫にも懸念が広がっているのもまた事実だ。


 大魔法使いパヴェウのひ孫である私の事を、好ましく思うかどうかはまた別として、私と結婚する為に恋人や婚約者と別れてきました、なんて無茶苦茶な事を言い出す男の数もやたらと増えているのも事実なのよ。


「まあ!アグニエスカさん!来たばかりなのにもうお帰りなの?」


 裁縫道具を片付けていた私の近くまでやってきた町長の娘であるナタリアとその取り巻きが、さも驚いたといった様子で言い出した。

「スコリモフスキ家の人間だから、義務だと言われている婦人会への参加も免除されるのね!」


「小さな子供さんを抱えているご婦人も、年取ったご両親を抱えているご婦人方だって、家の用事を置いてでもお国のために教会へ集まっているというのに!あなたは何もしないでも帰れるのね!」


 輝くようなブロンドを緩く結いあげたナタリアはポズナン一の美人と言われるような娘であり、同じ年という事もあってか、幼い時から変な対抗心を燃やしてくるような奴だった。


 ナタリアの言葉に一部のご婦人たちがざわめき出した為、間に入ったシスターが、

「アグニエスカさんはご自宅でお仕事をして頂くことになっています、私がそのようにして欲しいとお願いしたのです!」

と慌てたように言い出すと、


「まあ!だったら同じように家で仕事をしたいと言っていた人が他にも居るではないですか!何故シスターは彼女だけ特別扱いするのですか?」

と、ナタリアが疑問の声をあげる。


「アグニエスカさんだけずるいわ!」

「教会に集まって作業するのは国から言われていることではないのですか!」

「特別扱いなんですね!」

 すると、周りのご婦人たちも加わって大騒ぎとなった。


 シスターは困り果てた様子で頭を抱えたけど、ナタリアは蔑むように私を見ながら、

「男の方と遊びたくて仕方がないのでしょうけど、アグニエスカさんも、少しは皆さんの迷惑を考えて、弁えて行動した方が宜しいのではなくて?」

 と言って、彼女の口元に嘲笑が浮かぶのを見過ごす事が出来なかった。


 いつの間にか男好きというレッテルを貼り付けられた私は、はっきり言って、疲れ果てていた。


「やあ!アグニエスカ!俺と遊びに行こうよ!」

「アグニエスカ!美味しいレストランを見つけたんだ!」

「なあ!アグニエスカ!俺といいことしに行こうぜ!」


 車のドアが開き、腰と肩に腕を回してきた、見知らぬ男が、素早い動きで車の中へと引きずり込もうとしてきた為、

「・・・・」

腕を掴み返し、その腕の痛覚を消失させた上で、ポケットに隠していたフォークをグサリと突き刺した。


「へっ!」


 自分の手の甲に突き刺さるフォークに驚き、目を丸くする男の手から逃れると、車のドアを閉めながら、指を鳴らして男の痛覚を再び戻す。


「ぎゃあああっ!痛い!痛い!痛い!」


 マリアおばあちゃんの魔法で鋭さを増したフォークはズブッと刺しこまれているので、痛みは相当ひどいはずだ。


 落ちこぼれの私は結界も張れないし、炎も出せない。氷も水も出せなければ、土塁も築けないし、植物を生い茂らせる事も出来ない。魔法という分野で教えられている事は何も出来ないけれども、人の痛覚だけは魔力を使ってコントロールする事が出来るのだ。


「痛い!痛い!痛い!」


 車の中で叫ぶ男を放置したまま走り出した私は、家まで続く何重にもかけられた結界の中を走り抜けると、見た事がない車が家の前に停車している事に気がついた。


「アグニエスカ!話は聞いたわよ!」


 私が帰って来た事を察知したマリアおばあちゃんは玄関から飛び出してくると、私の手を握りしめながら、

「こんな田舎町、出て行っちゃいましょう」

と、言い出した。


「婦人会の仕事だかなんだか知らないけど、あんまり偉そうな事を言うのだったら協力する必要なんて一つもないのよ!結界も解いちゃいましょう、ね!」


 おばあちゃんがそう言うと、上空を覆う結界がパッと弾けるように消えて、何重にも施された家の周囲の結界だけが残された。


「これまさか、ブラス州全体を覆っていた結界を解いちゃった感じ?」

「そうよ!何か問題でも?」

「大問題でしょ!」

「なんで?今まで結界を張っているからって事でお金を貰っていたわけではないの、あくまで慈善事業としてやっていたのよ?こちらの善意を踏み躙るような行為をされて、なんで我が家が大人しく言うことを聞くと思うのかしら?」


「アグニエスカ!」


 家から飛び出して来たのは幼馴染のマルツェルで、私の肩を掴んで前後に揺さぶりながら、

「王都に行くなら僕の家に来なよ!僕の家!2階は全然使ってないし!ここより厳重な結界を施しているから安全だよ!ね!いいでしょ!いいでしょ!」

と、言い出した。


 何を寝ぼけたことをこの男は言っているのだろうか。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

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