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直接的ではないですが、残酷なシーンを連想される描写があります。



父さま?


母さま?


ねぇ。

どうしたの?


ねぇ!

目を開けてよ!





闇に揺らめく無数の松明。

鬼の形相で迫りくる村の人々。

いつも優しく笑いかけてくれた人や、いい子だと頭を撫でてくれた人の顔もある。

大きくなってもうちの子と仲良くしてねと言っていた友だちのお母さんやお父さんの顔もあった。

まだ幼い子供に向けられた視線は、棘刺すように鋭く痛い。





殺セ


殺シテシマエ


コノ子供ハ、鬼ノ子ダ


人ノ死ヲ言イアテタ


大雨ヲ呼ビ寄セタ


村ヲ滅ボスゾ


殺セ!


殺シテシマエ!





呪文のように響く声。

キラリと光るのは斧や鎌。

燃える炎が泣き叫ぶ子供を追い詰めていく。





何故?


どうして?


何もしてないよ


何もしてないのに





明日になったら死んじゃうの?

そう聞いた時も


雨が降ったら川が溢れて畑が流されちゃうよ

そう教えてあげた時も


みんな、子供の戯言だって笑っていた。

心配しなくても大丈夫だって抱きしめてくれた。

収穫できるものは収穫してしまおうって村のみんなで頑張った。


いつの頃からか大きくなったら神様に仕えるんだよって言われるようになった。

その資格があるんだよって。

立派になって村へ帰ってきておくれって言われるようになった。


でも。

山の木々が赤く色づき始めた頃、ひとりの男が新しく村の住人になった時から少しづつ少しづつ何かが変わっていった。

何故かわからないけれど、その男の人がとても怖かったのだ。

他にも怖いといった子供がいたけれど、自分の事を祈祷師だと言った男の人は村の誰よりも大きな体をしているから子供には怖がられてしまうと顔をくしゃくしゃにして笑っていた。

笑っていたけど、目の奥が笑っていなかった。

父さまも母さまも村の人たちの誰もが気のせいだと言っていたけど、その男の人からはいつもいつも腐った泥沼のような変な匂いがしていた。

だから怖かった。


そして、男の人が来て最初の夏を迎えたあの日。

隣の村が盗賊に襲われて全滅したと、ボロボロの着物と血だらけの足で女の人が助けを求めに来て、そのまま息を引き取ってしまったあの日。

男の人が、こちらを見てニヤッと嗤ったのだ。



お前は何故、この事を言わなかったか。と


予知していたのに何故、隣村に知らせなかったのだ。と



男のその言葉に一斉にこちらを向いた村の人たちの顔が、ザワリと蠢いた風が、とても怖かった。

喉が詰まりそうに怖かった。



この子は身近なことしか予知できません!


皆も知っているはずだ!


隣村のことなど、とても無理だ!



父さまと母さま、他にも誰かがそう叫んでいた。

男の人に何故そんな嘘を言うのだと詰め寄っていた。

小さな子供たちが男の人は噓つきだと、本当は怖い人なのだと言っていた。

でも。



村に無数の松明が灯り、その灯りに照らされた斧や鎌が鋭く光ったのはそれから数日後。

月が枝のように細い夜だった。









どうしてそんなに怖い顔をしているの?



どうして殺そうとするの?



ねぇ。

どうして?



ねぇ・・・



いやだよ



いやだ



・・・いやだ!



助けて!



父さま!!



母さま!!



助けて!!!










* * * * * * * * * * *












「・・で。おい! 楓!!」


大声で肩を揺り動かされ、楓は弾かれたように目を覚ます。


「・・・嵐・・・?」


真剣な眼差しで楓の顔を覗き込んでいるのは、着流しの姿の男。

ここ、楓神社を守護している龍の化身。


「大丈夫か? ひどく魘されていたぞ」


「魘されて・・・? 私がですか?」


「ああ。何か悪い夢でも見たのか」


「夢、ですか? さぁ。どうなのでしょう」


心配する嵐に、楓は深い哀しみを滲ませた顔を隠すように静かに両腕で顔を覆うのだった。












さぁ

今日からここが君の家だよ



たまにいるんだよな

人として生まれながら、人ならざる者が



今は眠りなさい

君の心が全てを受け止められるその日まで



こいつがくたばるまでには起きてこいよ


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