表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創造主が星を育てる話  作者: 森 千
第一章 チュートリアル
5/34

5話 残念無念なの

 これは戦争だ。

 神という圧倒的権力を手にするための、神候補たちの戦いだ。

 他の創造主達の星を奪い、尊厳を踏みにじり、自らの糧とする。

 ククク、上等じゃないか。

 やってやろう。

 神になるのは、俺だ。


「……クリア……ねえクリア!

 …………ていやっ!!」


 腰のあたりに衝撃。

 後ろからイリスが突進してきたようだ。


「おおっと!」


 一瞬エビぞりにされて、振り返る。


「なんだ?」


 イリスはついーっと視線を横にそらす。


「あ、あたしを無視するのか悪いんたもん」


 呼んでいたのか。

 それは悪かったな。

 と言うのも、突進がわりと痛かったので違う気がした。

 代わりに、こう言ってみた。


「イリス、濁点と言ってみてくれ」


「? ……たくてん」


「よし。

 それじゃあ、モンスターについて教えてくれ」


「え? なに? なんなの?」


 戸惑うイリスは無視して説明を促す。

 この遊びは少し癖になりそうだ。


 イリスは首をかしげていたが、しばらくして気にするのを止めたのか、説明に入った。

 モンスターのことは好きらしく、幾分かテンションが高い気がする。

 もちろん、腰に手を当て指を立てる教師ポーズも健在だ。


「モンスターは、自由星の住民てもあって、同時に、星を守る兵士てもあるの。

 たから、戦うのに適した身体や能力、スキルを持っているの」


 これは予想通りだ。

 俺が思うに、自由星の育成の最重要要素がモンスター同士による戦いになる。

 より強いモンスターがいる自由星が、より神に近いと言っていいだろう。


「戦闘に適した身体や能力は分かるが、スキルとはなんだ?」


「スキルとは!

 えーと、……超能力、みたいなものなの。

 手から炎を出したり、体を硬くしたり、スキルがないとできないようなことを可能にするのかスキルなの」


 ふむ。超能力か。


「よくは分からんが、大体わかったような気がする」


「大丈夫。あたしもよくわからな――実際に見たほうが早いから!

 ひゃくぶんはいっけんにしかず、なの」


 ……こいつ大丈夫だろうか?

 まあ、俺のサポート役はイリスしかいない。

 こいつに教わるしかないのだが。


「てね、モンスターっていうのはそれそれの自由星の象徴てもあるの。

 というのも、モンスターの特徴はその自由星と創造主の性質によって決定されるから」


「モンスターの特徴?」


「そう。それそれの自由星には、モンスターの特徴を決める三つの『星印』があるの」


 イリスが指を三本立て、説明に熱を入れる。

『それそれ』が少し気になったが、今は茶化す時ではない。


「――星印。

 これこそか、自由星のモンスターを決定つける一番大切な要素!

 モンスターの強さも、星印によって決まるの。

 星印こそか、この自由星クリエイトの命運を握っていると言っても過言てはないの!」


 ほう、そこまで言うか。

 少し楽しみになってきたぞ。


「星印には二つの種類かあるの。

【系統印】と【特性印】」


 イリスの説明をまとめると、こういうことだった。

【星印】

 これはその星固有のモンスターを生み出すための、制約と付与。

【系統印】と【特性印】の二つに分けられる。


【系統印】

 自由星に生まれるモンスターの系統を制限する星印。

 例えば、〈系統印:スライム〉であれば、その自由星に生まれるモンスターはスライム系に縛られ、スライム系のモンスターしか生まれることはない。


【特性印】

 自由星に生まれるモンスターに特性を付与する星印。

 例えば、〈特性印:炎〉であれば、その自由星のモンスターは炎属性のスキルを得やすくなる。

 特性印の幅は広く、オーソドックスな属性系の他にも、〈特性印:魔眼〉〈特性印:鉄壁〉など様々な特性印が存在し、モンスターはそれぞれの特性に関わるスキルを得る。


 系統印はモンスターの種類を決めるもので、特性印はモンスターのスキルを決めるもの、というわけだ。


「――てね、星印は一つの星に三つあるんたけと、星印の種類は二つしかないてしょ?」


 モンスターの説明をするイリスは楽しそうだ。

 俺もつられて引き込まれていく。


「系統印と特性印のどちらかが二つになるということか」


「そう! 系統印が二つあれば、モンスターの種類が増えて、特性印が二つあれば、モンスターのスキルが増えるの!」


 なるほど。

 種類とスキルか。

 それなら、スキルが増えたほうがいいんじゃないか?


 その俺の心を読んだように、イリスが鋭い目を俺に向けてきた。


「スキルが多い方がいいって思ったてしょ?

 ても、それかそうとも言えないの。

 系統印が二つあるとね、モンスターの種類が増えるたけじゃなくて、二つの系統の混種が生まれることかあるの。

 混種は普通のモンスターよりも強いことか多いの」


「なるほど。なかなか奥が深いな」


「てしょ! 面白いてしょ!」


「ああ、イリスが熱くなるのも分かる気がする。

 じゃあ、早速クリエイトの星印を確認するとするか」


「その言葉を待ってたの!

 あ、モンスターに関することは左上のアイコンなの!」


 イリスがスター・パネルの前に身を乗り出してくる。

 俺はイリスの後ろから操作する形になるが、イリスは小さいので問題なくスター・パネルが見える。

 それに、些細なことは気にならないほどに、俺は星印とやらが楽しみだった。

 この星の、ひいては俺の運命を決める星印。


 ふぅーー。

 ゆっくり息を吐きだす。

 ガラにもなく緊張しているようだ。

 だが、心配はいらない。

 他でもないこの俺の星印だ。

 優秀なものに決まっている。


 持ち前の根拠のない自信を胸に、俺はそのアイコンに触れた。


 画面が切り替わる。


 すると、画面上部に、星印が二つ記されていた。


 ほお! これがクリエイトの星印――


「ん? …………ん?」


 見間違いかと思い、俺はスクリーンを上下させ、拡大してもう一度見た。

 が、結果は同じ。


「……おい。星印、ふたつしかないぞ」


「…………」


 イリスは黙りこくっている。


「おい、イリス、どういうことだ。

 なぜ二つしかない? それともどこか違う場所にあるのか?」


「…………」


「おい! イリス! イリス!」


「はっ。……あ、危ない危ない。白昼夢を見たの」


「どういう病気だ、それは。

 で、どうして二つしかないんだ?」


 三つあると聞いていた星印が、二つしかなかった。

 それには、きっと何か深い意味があるのだろう。

 そう思って尋ねた。


 しかし、イリスは頭痛に耐えるように手を額に当てながら、


「白昼夢じゃ、なかったの……

 たまにあるの。三つあるはずの星印か二つしかないことが。

 残念無念なの」


 と言った。


「…………は?」


 え?

 ちょっと待て。整理しよう。

 星印は、その自由星の未来を決めると言っても過言ではない重要要素だ。

 最重要、といってもいい。

 その星印は、三つある。

 系統印が二つか、特性印が二つか、その違いによっても、戦いの戦略が変わってくる。

 そんなことを考えていた。

 で、だ。

 星印は、二つしかなかった。

 整理完了。


 俺は非常に動揺していた。

 目が覚めたら宇宙のど真ん中で小さな星に立っていた時よりも動揺していた。


 だって、楽しみにしていたのだ。

 創造主同士の戦いだあ、とテンションあげあげで。

 さて、どうして奪い取ってやろうか、と内心舌なめずりして。

 まずはモンスターの星印の確認だあ。

 ここで凄い星印引き当てちゃうぜ! と涼しい顔しながら内心わっくわくだったのだ。

 わっくわくだったのだ。

 生まれて間もない俺だが、これだけは分かる。

 俺がわっくわくになることなんてそうそうあるもんじゃない。

 それなのに。

 それなのに――


「ざ、残念だったの! てもまあ、こういうこともあるの。

 楽じゃないの、生きるってことは!」


 イリスに生きることの厳しさを諭されてしまった。

 実は、イリスって女神だから何百年も生きていたりするんだろうか?

 いや、そんなことはどうでもいいのだ。

 イリスのわざとらしい明るさ。

 それが、本当にハズレだったことを俺に強く認識させる。


 えええ。

 二つ? 

 みんな三つ持ってるのに二つ?

 それ、不利なんてもんじゃないよな。

 半ば詰んでるんじゃないの、これ。


「ちょ、ちょっとクリア。そんなに落ち込まないて。大丈夫なの。あたしかいるの。

 あ、あー! それに、クリアってとことなく賢そうな感じかするの。

 きっとその手腕てクリエイトを勝利に導いてくれるの」


 放心する俺を、イリスが慰めにかかる。

 それがかえって、惨めさを誘う。

 でも、そうだな。

 俺は優秀だ。

 たとえ不運でも、能力はピカイチだ。

 そうだ。

 多少のハンデくらい背負ってやろうじゃないか。


 ふぅ、立ち直ってきた。


「よし。じゃあ星印を確認するか」


「おおー!」


 イリスが大げさに拳を振り上げた。

 ……元気な奴だ。


 俺は半壊した心からなんとか目を逸らしながら、星印の確認に移った。


 一つ目の星印に触れると、それが画面上に拡大されて、説明が浮かび上がった。


 〈系統印:悪魔〉

 生まれるモンスターは悪魔系となる。


 ほお、悪魔か。

 強そうじゃないか。

 いいんじゃないか?


「当たりなの!

 悪魔は、数ある系統の中ても個体戦闘能力が高いモンスターなの」


 イリスもそう言って明るく笑っている。

 これは不幸中の幸いだ。

 そう思ったが……


「ても……」


 イリスが何か言いかけた。


 ん?


「でも、なんだ? イリス」


「な、何てもないの。悪魔は優秀なモンスターなの」


 イリスは両手を顔の前でブンブン振り、なぜかそれを後ろに隠した。

 目が泳ぎまくっている。


「お、おい。不安になるだろうが。

 問題があるなら今のうちに言ってくれ。

 後から厄介なことになってはかなわん」


 イリスは苦虫を嚙み潰したような顔で本音を明かした。


「悪魔は、確かに強いモンスターなの。

 ても、星に緑が育たないの……」


 緑? 

 植物のことか?

 まったく意味が分からない。


「ちゃんと説明しろ」


「うん。

 普通、生態系が落ち着くまでは、モンスターの食糧は創造主が創造するの。

 それは、植物たったり、肉たったり。

 ても、それだけじゃなくて、植物を星に植えて自生するようにするの。

 そうすると、たんたん星に緑が育っていって、食物連鎖のサイクルが生まれるの」


 なるほど。

 普通は星に緑が育つには気が遠くなるほどの時間が必要なはずだが、そこを創造主の力でショートカットできるのか。


「ても、悪魔の食糧は魂やエネルギー体なの。

 悪魔しかいない自由星の創造主は、エネルギー体は作れても植物は作れないの。

 たから、クリエイトに緑豊かな自然は訪れないの」


 そういうことか。

 確かに、緑豊かな自然がいつまでも訪れないのは、星として悲しい事実だ。

 だが、


「大したことではないな」


 俺は言った。


「う、うん。あたしも我慢てきるの」


「ん? 違うぞ。我慢など必要ない。

 この星でできないなら、他の星から奪えばいい。

 簡単なことだ」


「!?」


 当たり前のことを言ったつもりだったが、イリスはショックを受けたらしい。

 え?

 だってそういうことだろ?

 星の環境のページで、わざわざ【資源】なんて表記がある。

 鉱石にはレア度なんてものがある。

 これは、資源を取引に使ったり奪い取ることを前提に作られた表記ではないのか。


「ということで、次の星印の確認といこうか」


 俺はニッコリと笑った。

 イリスは、「何かを得るには、何かを犠牲にしなければならないの……」などと神妙な顔で頷いている。


 気を取り直して、二つ目の星印。

 こちらは特性印だ。

 いいのが出ろよ!


 そうして星印に触れると、拡大されて説明が表示された。


 〈特性印:ЮΦЩ⊇〉

 ※Щ◆ΞЖЯД‰Ю€≫⇔∀∇∝∬






「「…………え?」」


 俺とイリスの声が重なった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ