4話 邪悪な笑い声
「イリス、今、他の自由星から見えないようにって言ったな?」
「言ったけと……」
「つまり、やっぱり他の自由星は敵なのか?」
イリスは答えに窮するように首を傾げた。
「うーん……確かに、基本的には敵なことか多いの。
ても、仲良くなることもあるの」
「ふむ。では、基本的には敵である理由は?」
「それは、星を成長させる一番簡単て、主な方法が、他の自由星を乗っ取ることたからなの」
なに?
他の星を乗っ取るだと?
面白そうな話じゃないか。
「詳しく」
「な、なんたかクリアの目か怖いの……
えっと、二つの自由星か近つくと、橋を架けることかてきるようになるの。
橋といっても、実際に橋がかかるわけじゃ無くて、両方の星に、相手の星に行き来できる扉が出現するということなの。
ともかく、近くに来た自由星には、モンスターを送り込めるということなの。
それて、星を乗っ取るの」
星の乗っ取りにはモンスターを使うらしい。
「具体的にはどうやって乗っ取るんだ?
いや、そもそも乗っ取るとはどういうことだ?」
星に攻め込んで相手のモンスターを殲滅するのだろうか?
もっと単純に、創造主を倒せばいいとか?
「乗っ取る方法は三つあるの。
一つ目、相手の星の創造主を殺すこと。
二つ目、相手の自由星のモンスターを半分以上殲滅し、さらに相手の星のモンスター量以上のモンスターを送り込むこと。
三つ目、相手の星のスター・パネルを操作して、コアの所有権を奪い取ること。
このどれかの条件を満たしたら、スター・パネルが反応して、自動的にコアの所有権が勝った方に移るの」
なるほど。
一つ目の方法は単純明快。
相手の創造主を殺せばいい。
が、これは一番手っ取り早い方法だ。
当然対策され、創造主の防備は堅くなるだろう。
二つ目の方法は、一見難しそうに見えるが、実は創造主を殺すより簡単かもしれない。
「なあ、モンスター量とはなんだ? モンスターの数ではないのか?」
「そこは難しいところなの」
イリスが腰に手を当てて指をピンとたてる。
「例えば、一匹一匹は小さいけと、数が多いアリとか蜘蛛のモンスターかいたとするの。
そのモンスターを群れで相手の星に送れば、相手の星のモンスターの数を超えるのは簡単たけと、それて乗っ取ることがてきたら、ずるいの。有利すぎるの。
スライムとか、とこからとこまでが一匹なのか分からないモンスターもいる。
たから、モンスターの数で計算すると、うまくいかないの。
そこて、モンスター量を使うの。
正確な計算方法は知らないけと、大きいモンスターほとモンスター量が多いの。
星にいる全部のモンスターのモンスター量を足したものが、星のモンスター量になるの
実際の数値はスター・パネルで確認できるの」
なるほどな。
確かに、モンスター量というのは公平な単位だ。
さて、次に三つ目の方法だが、これはほとんどあり得ない。
というか、降伏でしかありえないだろう、普通。
スター・パネルを操作できるのは創造主だけだから、三つ目の方法で乗っ取るなら相手の星に創造主自ら乗り込まなければならない。
その時点でも難しいが、通常、創造主はスター・パネルのすぐそばで守りを固めるだろう。
スター・パネルに触れるときというのは、最大の防衛線を突破した時ということだ。
それはすなわち、創造主に手が届くという意味でもある。
「二つ聞きたいんだが」
「なんても聞くと言いの」
「一つ目、創造主に戦闘能力はあるのか?
星の成長とともに強くなるとか?」
「ないの。普通、創造主は戦わない。モンスターに戦わせるの。
ごく一部、戦う創造主もいるけと、それは例外なの。
それと、星の成長に従って創造主にできることは増えていくけれと、別に強くなるというわけてはないの」
やはりな。
であれば、三つ目の方法が降伏用であることはほぼ間違いない。
「分かった。じゃあ二つ目だ。
他の自由星と戦闘になった時、降伏するとどうなる?」
「降伏はまた教えてないの。
自分で思いつくなんて、優秀なの」
「当然だ」
と返しておくが、知識によると、戦争に降伏はつきものだ。
俺が記憶を失う前の世界は、よく戦争をしていたのだろうか。
「降伏はよくあることなの。
当然、降伏にメリットかあるからよくあるの」
イリスは指を二本立てる。
「戦争か終わって、星の所有権が移動したとき、勝った側には二つの選択肢があるの。
一つ目、相手の星のコアを吸収して自分の星の成長エネルギーとする。この場合、コアを失った自由星はたたの岩の塊になるの。コアを失えば、モンスターもそこては生きていけない。
二つ目、相手の星のコアを吸収しない。この場合、相手の自由星を残したまま、所有する第二の自由星――『属星』――とすることになるの」
「なるほど。旗色が悪くなってきたら、二つ目の選択を取ることを条件に降伏するというわけか」
「よくわかったの。
一つ目の方法たと、負けた創造主は何もかも失い、奴隷のように扱われるか、たたの岩になってしまった自分の星と一緒に心中するしかないの。
ても、二つ目の方法なら、勝者の手下になることで、自分の星を守れるし、交渉によってはある程度星の育成も続けられるの」
そうだな。だが、星を守れる、というのはメリットとしては薄い気がする。
創造主は、神を目指すものだろう?
であれば、属星になることでその望みが完全に断たれるのを善しとするとは思えない。
ならば、属星になった後も、何らかの条件をクリアすることで、属星から解放される望みがあるのではないだろうか?
だから、降伏という選択肢が大きな意味を持つ。
そう考えればしっくりくる。
「イリス、一度『属星』になった自由星が、解放されて所有権が元の創造主に戻ることはあるのか?」
「あるの。たから、属星になっても終わりじゃないの。
まず、所有権を持っている創造主は、いつでも属星を開放てきるの。ても、普通はたれもそんなことしないの」
「そうだろうな。他には?」
「所有権を持ってる創造主の自由星のコアが、他の自由星に吸収されたら、属星は解放されるの。
ても、所有権を持ってる創造主の自由星が他の自由星の属星になったら、所有権は一番上の自由星の創造主に全部移るの」
なるほど。なるほど。
やはり、属星になっても、まだ解放される望みはあるわけだ。
そして、自分が属星を持つ他の自由星に勝った場合は、こうなる。
一つ目の選択、相手の星のコアを吸収する場合、その属星は逃がしてしまうことになる。
一方で、二つ目の選択、相手の星を属星とする場合、その属星の所有権も手に入れることができる。
「二つ目の選択を取ったら、自由星を成長させることは出来ないのか?」
「そんなことはないの。
戦争に勝ったたけて自由星は成長するの。
ても、コアを吸収したらもっと成長するの。
やっぱり最後まで降伏のない戦いでは、一つ目の選択がとられることが多いの」
「そうか」
ここまでの説明でよくわかった。
他の自由星に戦争を仕掛けて、その星を糧として自分の自由星を成長させる。
それが、自由星同士の関係だ。
敵か味方か?
まごうことなき敵だろう。
手を組むことはあるかもしれない。
だが、それも他の自由星と戦うためだろう。
面白い。
「ククッ、クックック」
思わず、笑い声が漏れていた。
イリスが怪訝そうな目を俺に向ける。
創造主? 星の育成?
よく言ったものだ。
これは、そんな生易しいものじゃない。
奪い合いだ。
星の奪い合い。
神は、創造主にこう言っている。
戦えと。
奪えと。
我欲のために他者を欺き、奪い、蹂躙し、血みどろの戦いの果てに栄光を手に入れろと言っているのだ。
他者を蹴落とし、金と権力を手に入れる。
他でもない、俺の魂が言っている。
それは俺の、十八番だと。
やってやろうじゃないか。
すべては俺の、富と権力のために!
※※※※
『コア』:自由星の命。自由星の特徴はコアによって決まり、自由星の環境はコアによって維持される。