3話 誕生! 自由星クリエイト
スター・パネルに触れると、画面が切り替わった。
設定画面のようだ。
自由星の名前を入力してください:
創造主の名前を入力してください:
女神の名前を入力してください:
「あ、それは初期設定なの。星の名前は好きに決めていいんたけと……
実は、いい名前を考えてあるの!」
イリスは胸の前で両手を握って興奮している。
ふむ、星の名前か。
まあ、なんでもいいだろう。
早く操作に入りたかったので、安直な名前を入力した。
「あぁ」
イリスが残念そうな声を漏らした。
「クリエイト? 悔しいけと、いい名前たと思うの」
クリエイト。意味は『創造する』
安直だと思ったが、イリスは気に入ったらしい。
そうして、わずか数秒で初期設定を終える。
画面が再び切り替わった。
【ようこそ、自由星クリエイトの創造主クリア・女神イリス】
ミスった。クリエイトのクリアとは言いにくい。
まあ、いいか。
改めて表示された画面は、知識の中にあるパソコンのホーム画面に似ていた。
クリエイトの現在の外観がバックスクリーンに映っており、ぐるぐると回っている。
その上に五つのアイコンが正五角形を作るように並んでいた。
一番上にあるアイコンは、協調するような赤色で、一回り大きい。
「じゃあ、ここからはあたしか説明していくから、言う通りに動かすの」
イリスが腰に手を当てて言う。
なんとなく反抗したくなったが、効率が悪くなりそうなのでやめて置く。
「まずは、右上のアイコンにタッチしてみて」
言われた通りに右上のアイコンに触れると、大樹をバックにした画面へと移動した。
上部に大きな文字で『クリエイトの環境』と書いてある。
「ここは星の環境を確認てきるところなの。
大きく分けて、【モンスター】【資源】【居住性】の三つの項目かあるの」
イリスの言う通りに、スクリーンを動かして確認していく。
【モンスター】
星に生息するモンスターの種類や数が、系統別、星に与える影響別にして確認できる。
現在はこの星にモンスターがいないことが示されていた。
モンスターに関しては、別のアイコンでより詳細に見ることができるらしい。
【資源】
星にある鉱物資源や、空気の濃さ、液相の有無について確認できる。
〈鉱物資源〉
鉱物資源は、自由星によって採れるものと数が異なるらしい。
現在この星で採れる鉱物は一種類。
レア度と硬度と内包する魔力量が10段階で評価されている。
<黒魔石>
レア度:6
硬度:5
魔力:5
「あ、黒魔石なの。これは当たりなの」
イリス曰く、この星を覆う魔黒石とはそこそこ良い鉱物らしい。
ちなみに、ここで言う硬度というのは、俺の元居た世界の硬度とは違うものだろう。
イリスによると、この世界にはダイヤモンドよりも硬い鉱物があるそうだし。
〈空気〉
空気の濃さは、10段階評価で1だった。
「空気は薄くても濃くてもあんまり関係ないの」
本当だろうか?
心配になったが、基本的に創造主と女神は自由星の上ならどんな環境でも生きていけるらしい。
また、この星はかなり空気が薄いが、どれだけ空気が薄くても、音は魔力が伝達してくれるため会話には困らないそうだ。
〈液相〉
液相というのは、ある程度まとまった量の水などの液体の有無だ。
この星には現在無い。
【居住性】
星の重力、明るさ、気温、感染症について書かれている。
〈重力〉
重力は10段階評価で9だった。
これは、星が大きくなっても大して変わらないらしい。
それぞれの自由星の特徴ということだ。
重力には星の中心にあるコアが関わっているそうだが、今は豆知識はいらない。
この星はかなり重力が強いが、創造主や女神はどの星でも同じように動ける能力が備わっているらしい。
〈明るさ〉
明るさは10段階評価で3だった。
周囲にある恒星から光を取り込むそうだが、これも恒星からの距離というよりも、自由星のコアの性質によって、取り込める光の量が違う。つまり、恒星からの距離にはあまり関係なく、自由星によってある程度の明るさが決まっているとのことだ。
この星は暗いが、例によって創造主や女神はどの明るさでも問題なく見ることができる。
〈気温〉
気温は10段階評価で3だった。
気温もコアの性質によって決定される。
この星はかなり寒いが、例によって創造主や女神は(以下略)
〈感染症〉
モンスターが増えると、感染症が蔓延するリスクが高まるらしい。
全滅を防ぐには多様性の維持が重要になってくる。
現在はこの星に感染症は無し。
「以上が、星の環境なの。
新しい資源か増えたり、居住性に問題が生じた時はこのアイコンか点滅するから、すくに確認すること。
そうてなくても、こまめにチェックしておいた方かいいの。
星の環境を知るのは、創造主の基本なの」
星の環境を把握しておいて、ケアをするわけか。
創造というより、育成といった方が近いかもしれないな。
星の環境のページを閉じて、ホーム画面に戻る。
「さて、次はお待ちかね、自由星の住民、モンスターについてなの!」
イリスの説明に熱が入る。
翼がパタパタとはばたきだした。
モンスターとは、重要な要素なのだろう。
だが、
「その前に、ちょっといいか?」
「ん、なに?」
「気になっていたんだが、この星の他にも無数に自由星があるんだよな?
そこにはやっぱり、創造主や女神がいるのか?」
これは重要なことだ。
創造主が俺一人というのなら、イリスと二人で好きなように星の育成に励めばいい。
だが、他にもいるのだとしたら、そしてそいつらと接触する機会があるのだとしたら、放ってはおけない。
味方と考えてもいいのか、それとも資源を奪い合う敵となる可能性もあったりするのか。
「その通りなの。それは後て説明しようとしてたのたけれと。
そっちから先に説明した方がいいのかな……?」
迷うようなそぶりを見せるイリス。
「先に他の創造主たちについて話してくれ」
俺が頼むと、イリスはうなづいた。
「分かったの。じゃあ、左下のアイコンをタッチしてみて」
アイコンに触れると、宇宙の中に一つの星が映し出された。
「これは……」
「ここ、クリエイトなの。
自由星、トラフト・スターは、宇宙の中を漂流するように自由に動き回る星のことなの。
この星も、現在進行形て宇宙の中を動いているの。
画面を動かしてみるの」
画面に触れて動かすことで、クリエイトの周囲にあるものを確認できた。
さらに、二本の指で縮小するようにすると、より遠くから俯瞰することができた。
なるほど。こうやって近くにどんな星があるかを確認できるのか。
「確か、自由星の移動は制御出来るんだよな」
「よく覚えてたの。
スター・パネルの操作で、簡単に自由星を操ることかてきるの。
けと、基本的に何も触らなければ勝手に動くようになってるの。
スター・パネル上で何か気になる物を見つけたら、自由星を動かして近づくことかてきるの」
逆に、近づきたくない何かから離れるように動くこともできるというわけか。
「ても、自由星にも移動てきる範囲かあって、ものすごく広いのたけれと、全体て自由銀河というの。
その中に、数えきれないほと多くの自由星があるの。
ここから見える自由星はその中のごく一部なの。
成長した星は、他の自由星に見つからないように結界を張ることもてきるの。
たから、見えないからってそこにないとは限らないの」
なるほど。
今見えている星の他にも、実際にはたくさんの星があるのか。
だが、星を隠す意味は何だ?
どうして周りから見えないようにしている?
それはきっと、シャイだからではないだろう。
面白そうな、予感がしてきた。