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転職が強制されるこの世界で  作者: 混麺
-第1章-転職って自発的なものじゃないのかよ
3/3

02.新たな職業

「起きろー!」

俺に話しかけているのか?

いや違うな。

こんな可愛らしい声に覚えはないし,そもそも俺に女性の友人はいないはず。

よし,もう少し寝よう。

かなりサイズの小さい布団を手探りで頭に覆い被せ,再び深い眠りへと入ろうとすると,また見知らぬ声が聞こえる。

「無視か,無視なのか!」

そういえば,ここはどこなのだろうか?

クエストの為に,森に入って・・・・

「泣いちゃうぞ,私の涙で溺れても知らないからね!」

「ウォーター!」

顔の上の布団に大量の水が降りかかってきた。

「うっ!溺れる・・・や,やめてくれ。」

「ほら,やっぱり起きてた。」

布団を払いのけ,目を開けると,ぶかぶかのローブをまとった女の子が覗き込んでいた。

「君は?」

「フウだよ!もしかして口説かれてるのかな?」

「なんでそうなる。」

「いや,名前聞かれたし・・・」

「俺はサクトだ。君がどんな環境で育ったか興味はあるが,

先に聞かせてくれ。ここはどこなんだ?どれくらい眠ってた?」

「ここは,フィーカ街にある私の家だよ。今が日暮れ前だから,半日くらいかな?」

「君が奴らから助けてくれたのか?」

「感謝してよね!サクトでかすぎるし,重すぎ。」

自分の半分程度の体をしている彼女はどう運んできたのだろうか?

便利な魔法もあるものだ。

「本当に助かった。迷惑料として受け取ってくれ。世話になった。」

昨日のギルド報酬が入った小袋を渡し,立ち上がった。

「ちょっと,どこに行くの!」

彼女は素早く扉の前に移動し,立ちふさがる。

「家族に心配をかけるわけにはいかないんだ。村に帰る。」

「忘れたの?サクトはたかが低級ウルフにやられたんだよ?」

嫌な場面が蘇る。反応しないスキル,今にも噛みちぎられそうな俺の体。

「調子が出なかっただけだ。問題なく森を抜けられる。」

自身に言い聞かせるようにつぶやいた。

「すごい,すごい言いづらいんだけど・・・・」

彼女は困った顔でこちらを見上げている。

そして,言葉を絞り出し,小さな声を発する。

「サクトはまたやられると思うの。」

「なぜそう思うんだ?」

彼女が言わんとしていることが,俺の予感と違うことを祈る。

「みんな職業が変わってしまったの。」

「え?」

予想の斜め上をはるかに超えた返答に,思わず間抜けな声が出てしまった。

「職業の加護がなくなったわけじゃなくて,転職したってことか・・・?」

「うん。私だって,昨日までは拳闘士だったんだよ。」

「信じられない。じゃあ俺をどうやって運んできたんだ?」

魔法使い1日目で,人を移動させる高度な魔法を使えるはずがない。

「うーん,引きずってきた?」

フウは,てへっと笑い,舌を出している。

「フウのどこにそんな力が?」

「職業は拳闘仕じゃなくちゃたけど,ステータスは変わらないみたい。

だから,こんな見た目だけど力はあるんだよ!」

自信満々に答えるが,それって魔法の元となるマナが少ないから・・・・

これは転職先の職業によって違った苦労が待っているかもしれない。

「なぜ転職が・・・・・。でも,職業は失っていないんだ。」

新職業に慣れるには時間がかかるかもしれない。

しかし,家族を守れる力はまだ俺の手にはある。

そう思うと,活力が湧いてきた。

「ところで,新職業はどうしたらわかるんだ?」

「教会の水晶に手をかざせばわかるよ。」


3年前に,職業適性を図った時と同じか。

この世界では,水晶がすべての人の職業適性を決定し,管理している。

言い伝えによると,数世紀前,突如魔族が現れ,人類が滅亡する危機に陥った

この危機を救ったのが,神の使いがもたらした水晶であり,職業なのだと言われている。


「サクトはこれからどうするの?」

今から,教会に行く?それとも,職業もわからないまま森に向かうの?」

先ほどの無謀な発言を馬鹿にするように,聞いてくる。

「ちゃんと教会に行って,職業を知ってから村に帰るよ」

「じゃあ,私もついて行ってあげよう!」

「わかった,よろしく頼むよ。」

「やけに素直じゃないか。では早速出発!」

そう言うと,そそくさと部屋を出て行ってしまった。

「結局,断ってもついてきただろう。変な奴に借りを作ってしまった。」

深いため息を部屋に残し,街へと繰り出した。


どうやらフウの家は,フィーカ街の東端にあるようだ。

教会が街の西端にあることを考えると,少し距離がある。

しかし,そんな距離は問題にならない程,サクトの歩調は実に軽快である。

先ほどまで,元気に飛び出して行ったフウは,ちぎられまいと必死に短い足を回転させているが,先を行くサクトには知ったことではない。

『そうだ。俺はかなりワクワクしている。』

一体どんな職業なのだろうか,レア職業に適性があるかもしれない。

そう考えると,自然と歩調が早まってしまう。

「ちょっと,待ってよ〜」

遠くから聞こえる声がサクトの足を止めさせる。

振り返ると,ただでさえ小さいフウが豆粒みたいになっていた。

「すまない。全く気がつかなかった。」

息を切らしているフウに謝罪を述べた後,あたりを見渡すと,もう街の中心地に到達していることに気がつく。

しかし,俺が知っている,街の様子とはだいぶ様子が異なるようだ。

夕暮れ時には,飲食街である中心地は,クエストを終えた冒険者たちで賑わっているはずだが,静まり返っており,まばらにいる冒険者の顔もどこか暗い。

「なあフウ,中心街がやけに静かだが・・・」

「サクト,みたいに,転職を知らずに,大怪我する冒険者が,たくさんいたのよ」

「死んじゃった,人も,結構出ちゃったみたい。」

フウは,息を整えながら,途切れ途切れに答える。

「俺は,相当運が良かったんだな。」

「感謝してるなら,もう少しゆっくり歩いて・・」

「すまない。配慮する。」

ワクワクで歩調が早まらないよう,注意を払いながら再び教会へと歩き出した。


中心街を通り抜け,しばらく歩くと,広大な芝生が広がる場所に出た。

この芝生の先にポツンと見える,普通の家が教会である。

教会が普通の家の形を成しているのは,神父も人間だということに尽きるだろう。

そもそも,神父は世襲制ではなく,職業適性が出た者が就任する。

前代が亡くなると,すぐに水晶が次の神父適性者を選ぶのだ。

前代までは,厳かな建物を教会としていたのだが,

現神父の娘が,普通の家がいいとごねて,今の教会の形となったらしい。

親バカに職業は関係ないということだろう。


「ついたーー!」

「なんで,フウがそんなに嬉しそうなんだ?」

「人の職業でもワクワクするでしょ!」

そんなものだろうか?俺は他人のことにはあまり興味を持てないな。

妹たちのことなら,知り尽くしたいと思うけどな。

「ごめんくださーい!水晶貸してください!」

フウが玄関の扉をコンコンと叩くと

ゆっくり玄関の扉が開き,寝巻きをまとった中年の男が顔を覗かせた。

この普通の男が,フィーカ街のウァサゴ神父である。

「水晶か,転職先を知りにきたのか?」

「はい!」

渋みのかかった声に,フウが元気よく返事をすると

「ちょっと待っててくれ,今持ってくるから」

そう言うと,家の奥へと神父は引っ込んでいった。

「なあ,フウ。前に来た時は,一応それっぽい部屋で水晶を使ったんだが。」

玄関先に咲いている元気のない花に,魔法で水をあげているフウに話しかけると

「いつもと違って,街の冒険者がひっきりなしに職業を確認しにくるから,部屋に入れるのは辞めたんじゃない?一応ここ,家だし。」

確かに,自分の家に他人が常にいる状況はとても落ち着くものではないな。

「いや,待たせてすまない。ほら,これで君の新しい職業を確認するといい。」「それにしても,おかしなこともあるものだ。」

困ったような顔をする神父は,手のひらに水晶を乗せてこちらを見ている。

心臓が高鳴っている。こんなに緊張しているのはいつ以来だろうか。

ためらっていてもしょうがない。

そう決心し,震える手を水晶にかざした。

濁っていた水晶が透き通るような色に変わり,ぼんやりと文字が浮かばせる。

そこには,こう書いてあった。





『ボウガン使い』


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