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転職が強制されるこの世界で  作者: 混麺
-第1章-転職って自発的なものじゃないのかよ
2/3

01.どうやら俺の愛刀は反抗期らしい。

 窓から日差しが差し込み目を覚ます。

今日もいつもと変わらない気持ちの良い朝だ。

窓を勢いよく開けると,気持ちの良い風が吹き抜ける。

「眩しいよ〜」

ニオは,不満そうな声で布団に顔を埋める。

「自分の部屋で寝たらよかっただろ?」

「寒くなってきたから,お兄ちゃんを温めてあげようと思ったの!」

「母さんに叱られて泣いていたのに,お兄ちゃんのこと考えてくれたのか。ニオは優しい子だな・・・」

顔に手を当て,嬉し泣きをするふりをしていると

勢いよく,起き上がり

「泣いてないから!」

目に涙を潤ませ顔を真っ赤にしながら,そう言い放ち部屋を出て行った。

ニオはいたずら好きではあるものの,泣き虫である。

なんだかとても損な性格な気もするが,そんなところも可愛らしく思う。

「ティオも起きろよ」

足元の方で盛りあがっている布団に話しかけると,

「起きてるよー,起きてるから・・・」

かすかな返事とともに再び寝息が聞こえてきた。

「朝ごはんなくなっちゃうぞ,知らないからな」

「ん,ごはん・・食べる・・・・」

布団をマントのよう羽織りながら,フラフラと部屋を出て行った。

今日も手強い二人を送り出すことに成功した。

達成感に包まれながら,出かける準備を済ませ,妹たちの後を追う。

「母さん,おはよう。父さんはもう畑?」

「さく,おはよう。そうよ,とっくに出かけたわ。さくは今日も出かけるの?」

「そうだよ。昨日報告ついでに,今日の依頼を受けてきたんだ。」

「そんなに,無理しなくてもいいのに。畑の収入でなんとか暮らしていけるのよ。」

「頑張ってなんかないよ,軽い運動みたいなものだって。」

「ならいいけど・・・。」

「危険な目にあったら,すぐ逃げること!これだけは守りなさい。」

「わかったよ,約束する。」

母さんはとても心配性である。

何回このセリフを聞いたことか。この暖かい言葉を聞くと逆にやる気が湧いてきてしまうことにきっと気づいていない。

「ごちそうさま。じゃあ行ってくるよ」

「えー,今日は1日遊んでくれるんじゃないのー」

どうやら,ティオとニオは夢中で食べていて,今の会話を一切聞いていなかったらしい。

食い意地がすごいところはとてもよく似ている。

「すぐ帰ってくるから,お父さんとお母さんのお手伝いしててな」

そう言うと,立ち上がりすぐに家を後にした。

あのまま,二人を相手にしていたらいつまでたっても出かけられない気がする。


『時間に余裕もあるし,少し父さんのところに寄っていくか。』

そう思って,畑のある村の中心地へと歩き出した。

徐々に畑に近づくにつれ,遠目に人影がポツポツと見えてきた。

各々決められた区画に畑を持っているのだから,畑の位置でどれが父かわかる。

でも,そんなことを頭に入れなくても,ひときわ大きいシルエットが父である。


「父さん,おはよう。今年こそたくさん収穫できそう?」

「さく,おはよう。うーん今年も期待できないかもな・・・」

「絶対,この区画のせいだよ。毎年不作なのはうちくらいじゃないか!」

呪われているのではないかと疑うほどに,うちの畑は他と違う。

以前,村長に畑の定期的な交換を提案したが,聞く耳を持ってもらえなかった。

そして,こうした提案のせいか,村の人たちはどこかよそよそしい。

「父さんが力不足なんだよ。もっと頑張れば良くなるさ。」

「そんなことより,今日は武器も持たずに散歩でも行くのか?」

「えっ?あっ!」

まったく気づかなかった。背中にあるはずの大剣がない。

これも職業の加護のおかげというやつなのだろう。

重さをほとんど感じることもなく,体の一部になってしまっている。

だからこそ,なくても気づかない。

「父さんありがとう。取りに帰るよ・・」

少し恥ずかしそうに言い残し,愛刀を取りに向かった。


雑魚モンスターくらい,武器なしで倒せるんじゃないかって?

答えはNOだ。

雑魚と言ってはいるが,それは職業の加護を受けた冒険者の話であって,

生産職や職業を持てなかった人にとっては危険そのものなのだ。

だからこそ,母さんはあそこまで心配をしてくれている。


来た道を引き返し,家の納屋にたどり着いた。

納屋を開けると,3年間使い続けている,愛刀が寂しそうに置いてあった。

「忘れてごめんな」

返事をするはずのない愛刀に話しかけ,背中の鞘に収めようと手に取った。

その瞬間,大きな違和感が俺を襲う。

「こんな重かったか?」

愛刀よ,忘れられて拗ねてしまったのか?

そんなくだらない考えが頭を巡ったが,昨日の疲労のせいだと一蹴し,愛刀を鞘に収め納屋を後にした。


少し太ってしまった愛刀とともに森へ入っていく。

「おっ,幸先がいいな」

早速,標的である狼型のモンスターの群れを発見した。

今日の依頼はこいつを10体討伐することだったはず。

「ざっと数えても,20はいるな。これはすぐ終わりそうだ。」

「行くぞ,なぎはらい!」

正面から勢い良く群れに突っ込み,スキルで一度になぎ倒した。

そのはずだった。

しかし,愛刀は空を切り,一網打尽どころか一体としてかすりもしていない。

奴らはその隙を逃さず,瞬く間に周囲を包囲してくる。

俺は唖然として,その場に立ち尽くす。

何が起こったのか,自分でも理解ができない。

スキルが発動しない?そんなことありえるのか。

さまざまな考えが頭の中をぐちゃぐちゃにする。

「考えるのは後だ,回転切り!」

淡い期待もむなしく,昨日までであれば,刀身が伸び,狼を切り裂いているはずの愛刀は,空を切っている。

奴らは,その場でただ回転している人間に,同情することなく一斉に襲いかかる

「くそ。」

がむしゃらに剣を振るうものの,目の前の一体を斬ったのみ。

残りの狼は容赦なく,腕,足,肩に噛みつき噛みちぎろうとしている。

「うっ・・」

声にならない痛みが全身を襲う。

どうしてどうして・・・・

痛みで意識が飛びかけている中で,かすかに声が聞こえた気がした。

「えーっと,なんて唱えるんだっけ。ファイヤボール?」

包まれたような暖かさに覆われ,俺の意識は途絶えた。


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