00.プロローグ
「今日も頑張ったな」
積み上がった雑魚モンスターの死骸を見上げ,つぶやく。
冒険者になって3年,だいぶ低級クエストに慣れてきた。
これも,大きな体に産んでくれた両親と,職業が戦士だった偶然のおかげだろう。
冒険者として成功するかどうかは職業によって決まると言っても過言ではない。
職業の当たり外れがあることは否定できないが,明らかに不向きな職業になってしまうことの方が悲惨だ。
呪術師の適性があっても,滑舌が悪いせいで,毎回詠唱が最後まで言えないなんてやつもいる。
俺はギルドで報酬を受け取った後,森の先にある村に帰るため,街を後にした。
早く家に帰りたい。
その一心で森を移動していると,視界の先にうごめくものに気づき,とっさに木の陰に息をひそめる。
しかし,どうしてもこの大きな体は隠れたがらないらしい。
かなりの勢いでこちらに向かってきているではないか。
「スラッシュ・・・」
ため息まじりに大剣を振り抜いた。
グシャという鈍い音とともに,黒い影の動きは停止した。
その原型を留めていない何かを確認することもなく,再び歩き出した。
雑魚狩りを3年もやり続けている理由?
そんなこと決まっている。
村付近に出現するモンスターは雑魚しか居ないし,家族を養うには低級クエストをこなすだけで十分だから。
家族への脅威を退けつつ,お金も稼げる。これ以上何を望むものか。
逆に,危険を冒してまで上級モンスターと戦う奴らの方がおかしいとすら思うね。
平和のために,凶悪な魔族を倒そうだなんて思いつきもしないね。
そういうのは勇者の仕事だろ?
「遅くなってしまったな。」
村のはずれにある灯りの消えた我が家を前にして,少し寂しさを覚える。
もう寝てしまったのだろうか。
「ただいま」
小さな声でそっとつぶやくと,
「おかえり!」
と元気に抱きついてくる黒い影がふたつ。
手探りで電気をつけると,妹のティオとニオが足にぶら下がっていた。
「母さんと父さんは?」
「今ね,お母さんがお風呂でお父さんはトイレ!」
とニオは言うが,じゃあなぜ電気が消えていたんだ・・?
そう思っていると,泡だらけの母と父が扉を開け,睨んでいることに気づいた。
「私はね,よくないことだなって思ってたよ〜」
ティオは他人事のようにそう言った。
マイペースな妹といたずら好きの姉。どうしてこんなに違うんだろうか。
容姿がそっくりな分,見分けをつけれてありがたいが・・
だが,愛する家族がこんな平和な暮らしが送れているのも,ギルドが機能していて,村や町の周辺に出現するモンスターを討伐する冒険者や,凶悪なモンスターや魔族を近づけまいと奮闘する勇敢な人たちのおかげなのだろう。
階下で響く両親のお説教を耳に挟みつつ,感謝はしなくてはと他人事のように考えながら,眠りについた。