まだ死にたくないなと思う
(塔子)
そういっておいて、矛盾しているかもしれないけれど、お墓参りに行きました。柊二君の命日に。
わたしとしては、でも、矛盾していなかった。前向きなお墓参りでした。
実をいうと、彼が亡くなってから初めてだった。
親族の方が参られると思って、鉢合わせしないようにわざと夕方に行った。
「あれ、もしかして?」
それでもばったりと会ってしまった。
気まずい気持ちで緊張しながらそちらを見ると、
「ああ、やっぱり。いや、変わりませんね。こっちは変わっちゃったけど。もう、だって、20年以上だものね。」
ほっとした。お義兄さんだった。
「すみません。ご無沙汰してしまって。」
「いや……。お互い会わないほうが楽だったでしょ?」
ことばにしないようないろいろなことがあった。もともとはあんなによくしてもらった人たち。よかっただけに変わってしまった後に、会うのが怖かった。
「こんなに長い間、お墓参りもできなくて……。」
「あいつは、そういうことでは怒りませんよ。」
そう言った後に、お義兄さんは、お焼香をした。
「母が、本当に参ってしまってね。やっぱり下の子がかわいいんですよね、母親は。特に柊二は甘えるのが上手だったからなぁ。元気になるのに時間がかかったな。俺に子供が生まれて、孫が生まれてやっとちょっと元気になったかな。」
その後、ふっと笑った。
「でもね、お袋も亡くなりました。今はあっちで仲良くやってるかもね。」
「……」
ふと、罪悪感というか後悔というかわきあがった。
「すみません。大事なことをわたしお伝えしていませんでした。」
お義兄さんはきょとんとした。
「わたし、あの…」
「拓也と一緒になったんですよね。それは知ってますよ。」
2人は家を行ったり来たりの関係だったから、お義兄さんも拓也さんのことを知っていた。
「それだけじゃないんです。」
「というと?」
「わたしと拓也さんの子として育てた息子がいるんですが……。」
「はい。」
「柊二君の子なんです。」
驚いていた。しばらく、黙ったままで。
「すみません。本人にも最近まで知らせてなくて。秘密にしていました。」
「拓也は…、柊二の子を育ててくれたんですか?」
「はい。」
ショックを受けていた。お義兄さん。
「実の子のように大切にしてくれました。拓也さん。」
そういうと、お墓の方をそっと見た。
「柊二は、本当に、みんなに愛されるやつなんですね。家族にも、親友にも。」
お線香の煙が空にのぼっていく。
「柊二に似ていますか?」
「ああ…」
写真を持っていた。清一となっちゃんと千夏ちゃんの3人の写真を、ときどき取出しては眺めたくて、手帳に挟んでいた。
「驚いた。もう、結婚して子供がいるんですか?まだ、若いでしょ?」
「24歳です。」
お義兄さんはしばらくじっと写真を見ていた。
「塔子さんに似てますね。でも、笑った顔の雰囲気が少し、柊二に似ているかも。」
そう言ってから写真を返してくれた。
「柊二があんなに若く死ぬっていうのは、あいつが生まれたときから決まってたんですかね。もし知ってたらもっといろいろしてやったのにって後から悔やみました。」
ぽそぽそと、お義兄さんが話す。
「だけど、あいつは短いけど幸せだったんですよね。あなたと出会えて、短いけど家庭を持てた。それに、子供を残してたんだなぁ。」
しみじみとそう言った。
「こんなに長い時間たったのに、今日は柊二のこと思い出してくれてありがとうございます。あいつも喜んでると思う。」
「思い出すなんて……。」
つい反論した。
「はい?」
「わたしは忘れたことはありません。」
しばらくじっとわたしを見た後にお義兄さんは言った。
「短い結婚だったんだ。ときどき思い出すくらいにしておきなさいよ。塔子さん。誰も責めませんよ。」
そんなことを言うのは、言えるのは、やっぱりこの人も柊二君を失っているからだ。人を亡くしたことのある人しかその辛さはわからない。
そっとお辞儀をしてその場を離れた。
ごめんなさい。お義兄さん。言われなくてもやっぱりわたしは柊二君を思い出にしています。もう、昨日のことのようには思い出せません。
忘れたことはありません。
でも、どんどん薄くなっていって、今は本当に微かにしか思い出せません。
「雑誌の効果というものを侮っていたわ。」
「ほんとですね。」
取材された記事が出た。みんなで喜んで買った。お店にも置いて、常連さん?%




