第一章 3
「いかがなさいますか、教祖」
「やはり、統括部は一枚岩にはいかないな」
「しかし、このまま収穫がないとなると、さすがに教育長会議で、教育長面々から色々言われるかもしれませんよ?」
「それは仕方がない、結果として収穫はないわけだからな。ただ、土産一つぐらいは用意しないといけないね」
「土産、ですか?」
「平田くん、まだ教育超会議まで時間はあるよね?」
「統括部会議も大幅に早く終わりましたし、昼食会もないわけですし、あと5時間ぐらいは余裕があります」
「そうか。なら、厚木空港の方に車を回してくれないか?」
「わかりました」
厚木まではここから40分程度で、途中に今の神奈川の中心となっている海老名をかすめながらの走行だ。
戦前の海老名は、神奈川の中でも田舎の方だったらしいが、今では神奈川の政府公認首都であり、神奈川地方行政庁が設置されている。神奈川の主要な交通機関はすべてここに集約されていて、神奈川の全てはここに詰まっていると言っても過言ではないだろう。
その街から少し離れた場所にあるのが、中央国務省直轄地、厚木中央府だ。
厚木中央県は神奈川県より独立した自治体とみなされていて、地方行政府の管轄地ではない。また、厚木中央府には、政府の独立性を維持すべく、条例により統括部の設置は禁止されており、厚木統括部というものは存在しない。
直轄地に指定されている地域は全国にいくつか存在しているが、なぜ直轄地というものが設定されているかについては、いくつかの理由が存在している。その中でも厚木というのは、関東で唯一空港が設置されていて、民間機や軍用機等も着陸する。戦前では、地方空港設置の際に抵抗運動や反対運動などが起き、一部が暴徒化し建設が遅れたことがあったため、政府は、空港設置に際し、土地を直轄地に設定し、戦後の騒乱に乗じて、強制土地財産強制徴収臨時法を制定し、旧厚木市を全域の買上げを実施。同時に旧名厚木基地を厚木国際空港に改称し、さらに滑走路を増設し、軍用の基地を民間機にも利用できるように再整備した。
直轄地設定には、他にも様々な理由があるが、厚木中央府の場合はこれが理由となっている。
「もうすぐ厚木空港に着きます」
「厚木空港の中に厚木中央府第一庁舎があるから、その庁舎の駐車場に車を停めてもらえるかな。第一庁舎に用があるから」
「部署はどちらに? 今、庁舎の方に問い合わせてアポイントメントを取ります」
「いや、大丈夫だ。古い知り合いと会うだけだから。それに、帰一教会の首長が来るとなれば、優先事項となるだろう。普通であれば、今の時点でアポを取るのだってルール違反だからね」
「それもそうですね。私もお供いたします」
「それも大丈夫だよ。少し昔話をしたいだけだからね」
「分かりました。社内で待機しています」
「長く話そうと思うから、車は置いて空港の方にでも飛行機を見に行って来るのはどうだろうか?」
「そうですね、そうさせて頂きます」