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第一章 2

関内駅の目の前にある庁舎。これが、横浜地域統括部の庁舎だ。この中には統括部以外にも、自警団事務所があり駐車場には戦闘車両が何台か停まっている。


 「戦争も終わったのに、なんだか物騒ですね」

 「仕方がないよ、この国はまだ乱れている。もちろん、教育を施すことが重要だけれども、ある程度の力の行使というのは重要だからね」

 「なるほど」


 庁舎の中にある階段を登り、統括部事務局に着く。


「おはようございます、帰一教会本部より参りました。横浜統括部長小島一生さんをお願いします」

「かしこまりました。ただいま小島の方は席を外しておりますので、第三会議室の方でお待ち下さい。ただいま案内いたします」

「ありがとうございます」


案内され、私達は第三会議室の席に着席した。

今日の会議には、帰一教会からは私と教祖。横浜統括部からは統括部長と、経済振興長、土木整備長の三人が出席する。

統括部のほうが人数が多いが、どちらにせよ結論は決まりきっている。文書間でやり取りしてもいいものを、わざわざ集まって会議を行うのが馬鹿らしく思える。


「どうもおかしいな」

「どうかしましたか?」

「普通に考えて、私達のほうが言って悪いけれども格上なわけだ。それを待たせるというのは、一体どういうことなんだろうか」

「教祖、今の御時世何があるか分かりません。なにかがあって外に出払っているんでしょう」

「それだといいんだが……」


私の考えは非常に浅はかだった。少し考えればこの状況が何を意味するのかなんてわかったはずだった。


十五分後、ようやく統括部の面々が部屋へと入ってきた。


「いやいや、お待たせいたしました。横浜は今忙しくてですねぇ」


笑いながら、忙しさをアピールしてくるのは統括部長小島。それ以外の面々もニヤついた顔で席についた。


「それでは始めましょうか。えーっと、旧西区に建設予定の帰一教会総本部建設の件ですよね?」

「はい」

「えーっとですね、政府からの要請もありまして、当方で審議させていただきまして、それでですねー」

「あの、結論を早めに教えていただいてもよろしいですか? 双方にも予定がありますので」

「そうですねぇ」


統括部部長は少し笑い。他の面々と目を合わせた。


「横浜統括部部長としての決定は、今回の件は見送りとさせていただきます」

「……は?」

「統括部としては、帰一教会の運営方法に対して疑問視している点が多々あり。また、横浜での帰一教会の運営実績、まぁ簡単に言ってしまえば帰一教会の支部の布教活動及び学校運営が、正当に行われていない点を見まして、我々が資金提供をする必要はないと決定いたしました。ただ、今後の運営方法によっては再度精査いたしますが、現時点では見送りとさせていただきます」

「それは、どういうことでしょうか? 日本政府は帰一教会の運営に関して一律に許可を行っており、また政府の承認によって総本部建設は、正当な運営であると……」

「あの、帰一教会さんは一つ勘違いされていることがあります」

「勘違い?」

「我々がなぜ地方政府として存在しているのではなく、統括部として地域の運営を行っているのかご存知ですか?」

「それは、戦後治安が乱れたために、地方分権の効力を一時的に停止させて、行政の首長を国家から派遣させた地方行政長に一任し、統括部は、地方行政府から独立した部門として、旧来の自主独立の運営を私的に行う……」

「教科書的な意味では確かにそうです。しかし、現実的な統括部というのは、個々が独立した国家であり、政府とは違ったもの、強権的な地方分権を打ち進める為に、私的に設立されていんです。だから、政府が認めたからと言って、私達が認めるというのは、どだいありえない話なんです」

「……しかし」

「さらに言えば、私達横浜統括部は正直な話、帰一教会に対してあまりいい印象を持っていません。教団の長である沢上さんの前で言うのは、少しはばかれますが、宗教で国家の統一を図るのは、旧来憲法の定める政教分離の原則に反していますし、帰一教会の教典等にも不純なものが多いと考えています。更に行ってしまえば、我々の地域にはすでに旧宗教の教会等が多数存在し、帰一教会とは別に教育、統一を図っています。その点においても、我々の地域には帰一教会は必要ではないんですよ。ましてや、帰一教会の総本部を置くことなど、意味がありません」

「……」

「ただ、政府の国有地である旧西区の土地をどうにかしようとは別に我々は考えていません。もし、そんなにも建設費用がほしいのであればあなた方のお仲間である、政府の中央国務省にでも言ったらどうでしょうか? それがだめであれば、独立団体の財政構成機構にでも借款すればいいじゃないですか」

「…………」

「まぁ、そういうわけで今回は見送りたさせていただきます。ただ、せっかく横浜に来たんですから、昼食だけでも食べていってください。食事の前では誰もが平等です。帰一教会の皆さんといえど、美味しく食事ができるはずです。石川町の方の人民街に美味しいレストランがあります。すでに予約してありますので、今から早速行きましょう!」


「……いえ、結構です。帰らせていただきます」

「そうですか、それは残念だ。時間はありますので、見送りだけはさせていただきますよ」


終始、横浜統括部の面々は我々をバカにするような目で、ニヤついた顔で私達を見ていた。

私達の計画は序盤にして、狂い始めていったのだ。


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