第一章 1
「平田くん、今日の予定は?」
「今日は、横浜地域統括部との会議で、総本部設立に向けて資金協力を要請を行います。その後、統括部長と昼食を取り、一度東京本部に戻り、関東圏帰一教会教育長会議に出席、各教育長と意見を交わし、進捗を確認します。確認後、中央国務省東京中央局に出頭し、帰一教会の進捗を報告します。それが終わりましたら、本日の予定は終了となります」
「そうか。ありがとう」
第五東名高速道は、まだ自動車が普及していないこともあり、あまり車も通っていない。その中を銀色のセダンで走り抜けるのは、とても来ても気持ちがいいものだ。
今日の横浜地域総括部との会議というのは、大方決まりきったものであり、資金援助はほぼ確実になっている。それを確認して早急に資金を提供させるために、一種の脅しを掛けに行くのだ。
「しかし、本当に横浜というのはそんなにすごい街だったんでしょうか?」
「君は、横浜に街があったのを見たことがないのかい?」
「はい。私が生まれた頃には戦争が始まってまして、物心ついた頃には、すでに横浜は焼け野原になってました。
「君は、そういえば出身はどこ何だい?」
「仙台です。仙台も空襲を受けましたが、私の住んでいる地域はどういう訳か標的にならず、生き延びたわけです」
「そうなのか……」
「教祖の出身はどこなんですか?」
「僕はね、東京の青山の生まれなんだ」
「へぇ、青山って今でも繁華街ですけれども、戦前もあんなに賑わっていたんですか?」
「僕が住んでいたのは、普通の住宅街かな? でも、少し歩けばいろいろなお店があって楽しかったよ」
「そうなんですか。羨ましいです」
「でも、今はどうなっているんだろうね」
「と、言いますと?」
「僕はまだ、日本に帰ってきてから青山には行ってないんだよ」
「そうなんですか……」
今日の教祖は、非常に機嫌がいい。機嫌が悪い時には、見た目でわかる程だ。
今日はたまに鼻歌を歌ったりもしている。ここ最近帰一協会の進捗というのは、今まで一
番よく、教祖が望みたいものというのがとことん叶っている。
学校建設、専用ラジオ放送網の建設、地方への教会拡大等々、本当にいろいろなことが叶っているのだ。
今までは、政府が帰一教会が求めた計画に否定的な考えを全面的に出し、提案をことごとく却下したり、再考を求めたり、様々な妨害を行ってきたのだ。
しかし、最近の政府は帰一教会に対して非常に肯定的な考えを持つようになったからである。それは、私が起因しているのではなく、単純に政府内で国会の復活を考えているからである。
現在の日本政府というのは、戦前と同じようなシステム構造を採っているが、行政権と司法権のみの二権制を採用しており、かつての国会のように立法を司るのは、内閣の下に属する法務省が管轄している。ただ、大戦後は講和条約以外の法律の制定はなく、緊急に法令が必要になった場合は、内閣の政令として発令している。法務省はそれを追認している。
国会が復活になった場合、政府が計画している政治体制を戦前のように戻すということになると、政党制の復活も重要となっている。
政党が復活になった場合、当たり前であるが、同じ考えを持つ集団がそれぞれ政党を組織し、国会に議員を送るべく、政治活動が積極的に行われる。
そして、一票でも多く票数を集めることに重視するようになるのである。
帰一教会は現在日本において最大の組織となっている。政府は自分たちが国会に選ばれるべく、今帰一教会に恩を売っているのだ。そして、実際に国会が復活となり選挙が行われる時になれば、帰一教会の人員を使い、票を入れてもらえるようにしているのだ。
一見すると、政府の帰一教会に対しての意見と異なっているようにも思えるが、国会の復活も30年計画の一つであり、政府としては30年計画を確固たるものとすべく、帰一教会に対して一時肯定的な意見を取り、計画を進めようと考えたのである。
「もうすぐ、第二横浜駅出口です」
「そこから、関内に行くんだよね?」
「そうです」
横浜という街が我々を歓迎するかのように、雲ひとつない青空だ。