プロローグ
「我々が思う理想郷というのはどこにあるのか?」
という問いかけに私はこう答える。
「こここそが、我々の理想郷です」
そうするとにっこりと笑い返す。
「正解です」と。
世界が大戦によって互いに被害を被り、世界全体の経済活動がとまり、政府は機能しなくなり、民衆はあれ始めて、度重なる暴行事件や、略奪行為などが起きていた。
そんな中、世界各国で民を統制し、秩序を正しくするために、政府によって作られたのが、帰一教会である。
先の大戦により、宗教という文化が廃れた今、宗教というものを新しく作ることに理解を得られるか、世界各国の政府は疑問視していた。
しかし、人々は政府の人間が考える以上にやすらぎや心の拠り所を求めており、帰一教会への参加者は徐々にではあるが、拡大をしていった。
ただ、帰一教会には統一した宗教観がなかったため、各支部で独自の考え方を作り出し、その支部同士で互いに戦うような、新しい闘争が起きてしまった。
これを収めるべく、帰一教会の統帥に就任したのが、今私の目の前にいる沢上英雄である。
沢上英雄は、日本出身の日本人だが、大戦前行方不明になっていて、大戦後突然、帰一教会の幹部として名を連ね、統帥に就任した。現在では、世界帰一教会連盟の連盟統帥を務めている。
知れば知るほど謎が多く、疑惑の多い人物ではあるが、今の時代経歴というのは当てにならず、それを知るすべもない。また、知ったとしてもそんな事を気にしている時勢ではないのだ。今では、経歴そのものが無い人間のほうが大勢いるのだから。
上沢は、帰一教会の第一の事業として、統一宗教観を作りそれを各支部へと浸透させた。第二に、宗教学校を作り、すべての世代が入学可能な8年制の学校を作った。これにより、識字率が大戦以前の水準に戻り、また宗教教育により、帰一教会の規範を守らせ、世界の秩序安定に貢献した。
政府は宗教の力により、統一したリーダーを作り上げ、人々がそれに従い行動し、秩序を作り上げ、その後政府と宗教の力関係を等しくし、最後に大戦以前の政治状況に戻すことを計画し、これを30年で行うことから30年計画と名付け、計画を遂行することとした。
上沢は上記の事業を5年間で達成し、政府の毛企画は順調かに思えた。
しかし、ここで一つの誤算が生じる。
政治よりも、人々は宗教の考え方。とりわけ、上沢の考え方を民衆は重要視するようになってしまったのだ。