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誕生祝の式典が始まった。式典のしつらえも、誰が来てどんな挨拶をするかも、やはり全て記憶にあった。私には未来の記憶があるのだという確信が深まる。
私は、将来の王妃として幼いころから社交の訓練を受けてきたので、立ち振る舞いは完璧だ。
果てしなく続く挨拶にも、にこやかに「お祝いをありがとう。今日は楽しんでいっていらしてね」を繰り返す。
国王陛下も慣れたもので、私のそばで微笑んでおられる。手は私の腰に回しているけれど、陛下の手にも、触れられている私の腰にも熱はない。
挨拶を繰り返しながら、私はずっと考えていた。
どうすれば処刑を回避できるかしら?未来の記憶を呼び起こしながら、頭をフル回転させる。
これまで、お茶会と舞踏会と着飾ることと食べることしか考えてこない人生だったので、少し考えごとをしただけで頭が痛い。でも考えなくては。まだ死にたくない。
答えは、革命を阻止すること。
革命軍には平民だけでなく貴族も大勢参加していたから、迎え撃って勝つのは不可能よね。だから、革命が起きないようにするしかないわ。
革命が起きないようにするには?
貴族や国民の不満を解消すればいいのよね。
"怠惰な国王と我儘な王妃"
"贅沢のために重税を科した"
"国民のために働いたためしがない"
処刑台で聞いた怒りの声が蘇る。そうか、私は今まで国民を全く顧みなかった…国民が何に困っているか知るところから始めなければ。それも、早急に。21歳の誕生日まで3年間。私には時間がない。
何とかそこまで考え付いたとき、挨拶を述べる人たちの列が、ようやく終わった。
すると陛下がレオナルドを呼んで、耳打ちされた。「明日の予算会議の開始時間を遅らせて、朝10時開始にするよう大臣たちに伝えろ。今日は夜に予定が入った」
予算会議…
それに出席させてもらえれば、財政や国民生活の現状がわかるのではないかしら?
「陛下、お願いがございます」
「どうした、王妃殿が俺に話しかけるなんて珍しいな」
陛下はこちらを見もせずにお答えになる。
「茶化すのはおやめください」
「怒るな。また新しい宝石か?俺の許可を得なくても、自分でどんどん買ってるだろう」
「違います。私も明日の予算会議に出たいので、出席の許可をいただきたいのです」
陛下が驚いてこちらに向き直った。久々に至近距離で陛下の深くて青いきれいな瞳を見つめると、吸い込まれそう…ではなくて今は。
「急にどうした?王妃殿がそんなことをいうなんて」
「18歳になったのですし、王妃として国のことをもっと知りたいのです。そばで見学させていただくだけで結構ですので、何卒」
「…わかった。大臣に伝えておく」
「ありがとうございます」