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王妃リリー  作者: こじまき
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誕生祝の式典が始まった。式典のしつらえも、誰が来てどんな挨拶をするかも、やはり全て記憶にあった。


将来の王妃として幼いころから訓練を受けてきたので、立ち振る舞いは完璧だ。


果てしなく続く挨拶にも、完璧に顔の筋肉を調節した笑顔で、にこやかに「お祝いをありがとう。今日は楽しんでいっていらしてね」を繰り返す。


パリス様も慣れたもので、私のそばで「若く美しい国王」を演じて微笑んでおられる。


手は私の腰に回しているけれど、パリス様の手にも、触れられている私の腰にも熱はない。


挨拶を繰り返しながら、私はずっと考えていた。


(どうすれば処刑を回避できるかしら?)


レオナルドは革命軍に参加して…つまり怒れる民衆の側に立って、私たち夫婦を捕らえた。


王宮内にいる近場の人間の印象をちょっとばかり良くしたくらいでは、民衆の怒りがおさまらないことくらいは、いくら世間知らずの私でもわかる。


これまで、お茶会と舞踏会と着飾ることと食べることしか考えてこない人生だったので、少し考えごとをしただけで頭が痛い。


やり直すと言っても、何をすればいいかわからない。


でも考えなくては。


まだ死にたくない。


確実なのは、革命が起きれば、私とパリス様は死ぬ。


革命軍には平民だけでなくレオナルドをはじめとする貴族も大勢参加していたから、迎え撃って勝つのは不可能。


だから、革命が起きないようにするしかないわ。


(革命が起きないようにするには?)


貴族や国民の不満を解消すればいいのよね。


《怠惰な国王と我儘な王妃》


《贅沢のために重税を課した》


《国民のために働いたためしがない》


処刑台で聞いた怒りの声が蘇る。


私は今まで国民を全く顧みず、国民のために働こうなんて考えたこともなかった。


(じゃあ国民のために働けばいいのよね。でも国民のために働くって、どういうことかしら?)


言葉は素敵に響くけれど、国民が何に困っているかわからない。


だったら、まずは知るところから始めなければ。


それも、早急に。


二十一歳の誕生日まで三年間。私には時間がない。


何とかそこまで考えついたとき、挨拶を述べる人たちの列が、ようやく終わった。


するとパリス様がレオナルドを呼んで、耳打ちをした。


「明日の予算会議の開始時間を遅らせて、朝十時開始にするよう大臣たちに伝えろ。今日は夜に予定が入った」


予算会議…


それに出席させてもらえれば、財政や国民生活の現状がわかるのではないかしら?


「パリス様、お願いがございます」

「どうした、王妃殿が俺に話しかけるなんて珍しいな」


パリス様はこちらを見もせずにお答えになる。


「茶化すのはおやめください」

「怒るな。また新しい宝石か?俺の許可を得なくても、自分でどんどん買ってるだろう」

「違います。私も明日の予算会議に出たいので、出席の許可をいただきたいのです」


パリス様の瞳が一瞬だけ驚きに揺れた。


久々に至近距離で陛下の深くて青いきれいな瞳を見つめると、吸い込まれそう…ではなくて今は。


「急にどうした?王妃殿がそんなことをいうなんて」

「成人したのですし、王妃として国のことをもっと知りたいのです。そばで見学させていただくだけで結構ですので、何卒」

「…わかった。大臣に伝えておく」

「ありがとうございます」


私は「政治の場」に足を踏み入れることになった。


私だけではなく、王国の運命を変える第一歩になるとも知らずに…

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― 新着の感想 ―
[一言] 陛下は主人公さんを侮ってる感じですが陛下自身も浮気者のクズなんですよね。お似合いじゃん。
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