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目を覚ますと、貴人のための牢にいた。
エドナに襲われ、私は腕の動脈を切られたらしい。「大量に出血して意識不明になったが、司書の止血処置がよく、辛くも一命をとりとめた」と、牢でも付き添ってくれるアビーが説明する。
エドナも捕らえられて王宮内の別の牢にいるが、私の自筆のメモ書きを盾に「自分は反逆者をとめようとした」と主張し、王宮内では罪に問うかどうか判断がわかれているらしい。
つまりは、私を反逆罪に問うかどうかも判断がわかれているということだ。
「王妃様が反逆罪だなんて、何かの間違いです。きっとすぐに出られます」
アビーは励ましてくれるけれど、牢に入れられて、そんな簡単に出られるとは思わない。だから慎重に進めていたのに…パリス様やお父様はどう思っているかしら…
泣きそうになったとき、パリス様がお見えになった。私が目を覚ましたと報告を受けたのだろう。
「リリー…これは一体どういうことだ…」
パリス様の顔には疲れと焦燥が滲んでいる。
「申し訳ありません」
「まさかとは思うが、王政を倒すつもりなのか?俺やリリーの立場はどうなる!?」
「王政を倒すなど、考えたこともございません。メモ書きは、他国の事情を調べた際のただの覚え書きです」
「だが調べていたのは事実だろう」
「王政を維持しながら国民を政治に参加させれば、さらにアズミアが強く豊かになると考えてのことです」
「いかにもリリーの考えそうなことだ」とため息とともに呟きながら、パリス様が用意された椅子に腰掛けられた。
「今はかなり状況が悪い。貴族の中にはこれまで我々が平民のために行ってきた改革を、平民を重視しすぎるとして快く思わないものもいる。彼らはエドナを擁護し、リリーを反逆罪で処罰するよう主張している。エドナの父、ニールストン伯爵も含めてな」
また処刑台の光景が目に浮かぶ。私は殺されるのだろうか。怖い。体が震える。
「リリー、大丈夫だ。リリーを殺させたりはしない」
こんなに迷惑をかけているのに、パリス様はわたしを抱きしめてくださった。温かくて安心する。
「うまくいくかわからないが、レオナルドも対策に走り回ってくれている。俺も忙しくなるからあまり来られないかもしれないが、怖がらずに待っていてくれ。俺の心はいつもリリーとともにある」
「はい」




