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王妃リリー  作者: こじまき
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処刑台で感じた恐怖を思い出して慄きながら、レオナルドの視線を追う。


するとバラ園の中に、私の夫パリス様。


長めの金髪に深い青の涼やかな瞳。背が高く、手も足も長く、剣術や体術で鍛えた、引き締まった体をしておられる。


外見は彫刻の傑作のようにとっても素敵なのだけれど…とにかく女たらしの浮気性。


パリス様の後ろに隠れるようにしながらこちらを見ているのは、ニールストン伯爵令嬢のエドナ。よく手入れされたストレートの黒髪と、大きな青い目がご自慢の美しい令嬢。彼女が、今のパリス様のお相手なのね。


無視したいけれど、見つけてしまったからには素通りできない。


私は「パリス様、本日もご機嫌麗しく」と礼をする。こんな場面を目にしても、もう慣れっこだから動揺もしない。


ほんの少し胸が痛むだけ。


「ああ、王妃殿。今日はまた人形のように美しいな。そうか…今日は誕生日だよな」


パリス様の声は低く、よく通る。君主は声も大事だとお父様が言っていたけれど、この声なら十分に合格でしょう。


でもその声で「リリー」と呼んでくださることはない。いつも「王妃殿」。


エドナはパリス様の後ろに隠れるようにして、勝ち誇ったような、いくらか憐れみを含んだような表情で私を見ている。


パリス様に見向きもされない私を馬鹿にしているようだ。


「お褒めいただきありがとうございます。では式典の会場に向かいますので、これで」

「ああ、俺も後から向かう」


美しいと褒められたけれど、心がこもっていないのがわかるので、全然うれしくない。虚しいわ。


処刑台での最期の瞬間にも、パリス様が私を見ることはなかった。


硬い表情で会場に向かう私を見て、お付きの侍女たちはビクビクしている。当たり散らされると思っているのだろう。


これまでの、いつもの私なら、イライラを侍女にぶつけては泣かせていた。それで気持ちが晴れることなどなかったのに、そうせずにはいられなかったのだ。


でも今の私は、自分が変わるべきだということを知っている。変わらなければ、私は三年後にレオナルドに頭を押さえつけられ、民衆に罵倒を浴びせられながら死ぬ。


侍女たちに笑顔を向け「見苦しいものを見せてごめんなさいね」と謝る。侍女たちが「いえっ!」と答えたあと、「王妃様が謝るなんてどういうこと?」と顔を見合わせるのがわかった。


急に変わって変だと思われるかもしれない。


でもなりふり構ってはいられない。


まずは近くにいる人間から、印象を変えていかないと。


私は立ち止まって侍女たちに向き直る。


「王妃様、何、を…?」


何だか恥ずかしくて勇気がいる。


だけで言わなければいけないわ。


私が変わらなきゃ、未来は変わらないのだもの。


「今まで当たり散らしてごめんなさい。そして今日はきれいにしてくれてありがとう」


侍女たちの目が丸くなる。


(小さなことからでも、やり直さなければ…)

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