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子どもについてのやりとりがあってから、私とパリス様の間には妙な距離ができてしまった。おはようのキス、おやすみのキス、隣に立つときに腰に回す手、ダンスのときに体を支えてくださる腕… 立ち居振る舞いの全てから、パリス様が私に遠慮していらっしゃるのが、ひしひしと伝わってくる。
私が隠し事をしているからだわ。でも本当のことを伝えるのも怖い。未来の記憶があるなんて。処刑されたくないという気持ちがきっかけで、保身のために国政改革に取り組み始めたなんて。
「王妃様、お加減が悪いのですか?」
「いいえ、大丈夫。考え事をしていただけよ。お茶を淹れてくれる?」
「かしこまりました」
アビーに淹れてもらったお茶をすすっていると、私室の扉がノックされた。
「リリー、いるか?」
「パリス様!?」
執務時間中に私に会いにくるなど珍しい。「変わりたい」と言ってからというもの、パリス様はそれは真面目に執務に取り組んでおられるのだ。
「リリー、突然すまない。どうしても言いたくなって…」
「なんでしょうか?」
パリス様は私の目を真っ直ぐ見て言われた。
「俺はリリーを愛している。何があっても変わらない。何か心配事をかかえているなら、どうか話してほしい」
パリス様の言葉に涙が溢れる。
「今はまだ話せないというなら、無理強いはしないが…」
「いえ、私もパリス様にお話ししなくてはと…いいえ、お話ししたいと思っておりました。あれからずっと」
そして私はパリス様に全てお話しした。
未来の記憶があること。
その未来では、革命軍に参加したレオナルドに捕らえられ、21歳の誕生日にパリス様ともども処刑されてしまうこと。
処刑を免れるために、国政改革に取り組み始めたこと。
けれど、今はそれが王妃としての私の使命だと心から思っていること。
「ああそれで、21歳の誕生日まで待ってくれと…」
「はい」
「信じていただけないかもしれませんし、保身から国民に目を向け始めたなんて軽蔑されるかもしれませんが」と言うと、パリス様は「なぜそんなことを言うんだ」と私を優しく抱きしめてくださった。
「言っただろう。リリーを愛する気持ちは変わらないと。それに、どんなきっかけであれ、リリーのおかげで国も俺も変わった。良い方に」
「はい…」
「これからも、二人で誠心誠意国のために働こう。それが俺たちが進める唯一の道だ」
「はい…」