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くそっ、くそっ、くそっ!
リリーを怖がらせるつもりなどなかったのに…いつものように赤くなって頷いてくれると思ったのに…顔面蒼白で震えるリリーの顔が脳裏に焼き付いて、離れない。
執務していても、リリーの顔と、震えていた華奢な手が思い出されて仕方がない。
キスするだけでも頬を染めていたころから、俺たちの関係は進歩したと思っていた。リリーからキスを求めてくれることも増えたし、次に進んでもいいかと思ったのに。俺がもっと慎重になるべきだった。
しかし…とわずかに感じた違和感の原因を探ろうと、冷静になって考えを巡らせる。「21歳の誕生日まで待て」とリリーは言った。単に心の準備をするというなら、2年弱という期間は長すぎる気がするし、そもそも期限を決めるようなことでもないだろう。21歳になれば何かが変わるのだろうか…?
レオナルドが「陛下、鉱山開発の件ですが」と書類を持ってくる。気が紛れてちょうどいい。今、財源確保のために、鉱山開発、温泉リゾート地開発、農産物の輸出を進めている。人夫が足りず進捗状況が思わしくないとのことなので、希望する失業者に職業訓練を施して派遣するよう指示する。
「ああそれから、人夫たちの給与や労働環境には十分配慮するよう改めて伝えてくれ。リリーがいつも心配しているからな。くれぐれも事故などないように」
「かしこまりました。陛下、お疲れですか?紅茶の支度をさせましょうか」
「ああ、クイーンメリーを頼む」
リリーがいつもクイーンメリーなので、俺もついクイーンメリーを頼むようになってしまった。そうだ、クイーンリリーという銘柄を作ってはどうだろう…そう思いつき、心が緩んで笑みが溢れる。こんな時でも、俺を笑顔にしてくれるのはリリーなのだな。
「そういえば」とレオナルドに、自身とリリーの噂を知っているか聞いてみる。レオナルドは苦しそうに「最近知りました。しかし根も葉もない噂です」と答えた。俺もレオナルドの忠誠とリリーの貞淑を疑ったことはない。特に最近のレオナルドは、以前にまして熱心に俺を支えてくれている。
気になるのは、噂の出所だ。誰かが悪意を持って、リリーかレオナルドを陥れようとしているのかもしれない。どちらも俺にとって大切な存在だ。
「噂の出所に心当たりはあるか」
「実は…吹聴して回っているのはエドナ様です。エドナ様も誰かから聞いたのか、エドナ様ご自身がありもしないことを捏造したのかは不明です」
そうか、吹聴しているのは俺に捨てられた腹いせか?腹は立つが、一令嬢の嫌がらせなら大したことはなさそうだ。




