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「リリーには、助けられてばかりだな。あんなふうに、あの場をおさめてしまうなんて」
式典からの帰り、馬車の中でパリス様が言う。
卵を投げつけた犯人は、不敬罪には問われないものの、一日留置場で頭を冷やしてもらうそうだ。もちろん、彼に乱暴な扱いをしないよう、担当者にはきつく申し渡してある。
「私のほうこそ、パリス様に助けられました。私の心を、そっくりそのまま代弁してくださいました」
「ありがとう」
「ありがとうございました」
同時にお礼を言い合って、二人して笑う。すると、パリス様のしなやかな腕が、ぐるりと私の体に回された。
パリス様の体温と鼓動が伝わってくる。
「急にどうされたのですか?」
「笑顔が可愛くて」
ちゅ。パリス様が笑いながらくちづける。
それからふっと眉を下げて「リリーがケガをしたかと思ったときは、体中の血が抜けていくような感覚になったよ」とおっしゃる。体に回された腕の力が、強くなった。
「大丈夫ですわ、レオナルドがかばってくれましたから。彼は本当に優秀ですね」
「ああ」
あれが卵でなかったら、レオナルドは大きな怪我をするか命を落としていたかもしれない。まさに命をはって、私を守ってくれたのだ。
彼の忠誠は疑いようがない。私たちが絶えず努力を続ける限り…
しばらく間があって、おなかの底から絞り出すような「レオナルドめ、どさくさに紛れてリリーを抱きしめたな」といううなり声がした。
「だって、緊急事態ですから仕方なかったでしょう」
「いや、大丈夫だとわかったあとでも、しばらくリリーを抱きしめていただろう」
「俺の腕で上書きしないと」と、パリス様はますます腕に力を込めた。
「痛いです陛下…」
痛いけれども、幸せなので腕を振りほどいたりはしない。
長い間ずっと口もきかないほど冷め切っていたのに、今はこんなにパリス様の体温と鼓動が愛おしい。
そしてあの素晴らしいスピーチと、国民への宣言。立派な国王になりつつあるパリス様が誇らしい。
ちゅ。今度は私からキス。
「どうした?リリーからキスとは珍しい」
「私の偉大な国王陛下に、キスを差し上げたくなったのですわ」
「ありがたいな。では、俺の優しく美しい王妃には抱擁を」




