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パリス様が、犯人をこれ以上ないくらい怖い形相で睨みつける。あまりの迫力に、犯人はすっかり怯えているようだ。
王族に卵を投げつけるなんて、この国では弁解の余地なく不敬罪で死刑だ。この人は首を刎ねられるだろう。
でも…
「さきほど『今さら病院をつくっても』と言いましたね。なぜこのようなことをしたのか、理由を述べなさい」
私は気づいたら犯人に話しかけていた。
「リリー!このようなものに話しかけるなど、どうした!?」
「聞いてみたいのです」
犯人に視線を向けて話すように促すと、彼はぼちぼちと話し出した。
南部で暮らしていたが、飢饉で生活が苦しくなって幼い息子と2人で王都へきたこと。
職につけずに王都でも生活が困窮し、熱を出した息子を病院に連れていけなかったこと。
死んでいく息子を、ただ見ているしかできなかったこと。
「どうしておらたちが困っているときには、病院がなかっただ!あのときこの病院があれば、息子は助かったかもしれねぇ!もっと早く病院をつくってくれていたら…」
静まり返った会場に、彼の嗚咽だけが響く。
「もうおらには何もねぇ。不敬罪で死刑になってもかまわねぇだ。ただこの気持ちを…知って欲しくて…」
気づいたら、私もつられて泣いていた。
「パリス様、お願いがございます」
「…なんだ」
「私と、記念すべきこの病院の完成に免じて、彼の罪を赦してくださいませんか」
「何を言い出すんだ」という表情で、パリス様が私を見る。私は、両手でパリス様の手を握る。
「彼は、私たちが生み出してしまった被害者です。私たちが、もっと早く、自分たちがやるべきことに気づいていたら、こんなことにはなりませんでした」
しばらくして、パリス様が小さく頷く。私は、ステージの上で小さくなって泣いている犯人に向き直って、その手をとった。
「あなたの不敬罪を赦します。そして、お願いがあります。今まであなたたち家族をかえりみなかった、私たちの大きな罪をどうか赦してください」
彼は一層激しく嗚咽して、ガクガクと頭を上下に振った。息をのんで見守っていた聴衆に、ざわめきが広がっていく。
「不敬罪を赦すって、まじかよ…」
「しかも、王妃様があんな汚い平民の手を取って、赦しを請うなんて…」
私はまたパリス様の手を取り、聴衆に向き直った。
「あなた方の中にも、ここにいる彼と同じ経験をした人がいるかもしれません。あなた方にもお願いいたします。未熟な私たちですが、これからも力の限り国民のために働きます。どうか…どうか私たちを…」
言葉に詰まった私を、パリス様が助けてくれる。私が大好きな、低くよく通る声だ。
「これまでの我々を罪を赦し、これからの我々が、常に国民とともにあるよう、厳しい目を向け続けてくれることを望む」
パチ…パチ…パチパチパチ…
小さな拍手がさざ波のように広がっていき、地鳴りのような拍手を生んだ。
「私たちの国王陛下万歳!王妃様万歳!」




