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「ようやくお披露目できて、とても嬉しいですわ」
「ああ、俺もとても嬉しい。そして、誇らしいな」
「ええ。病気やケガで苦しむ貧しい人たちが、救われますように…」
病院が入る建物を背にしつらえられたステージに立って、パリス様と会話を交わす。
準備を進めてきた「貧民のための病院」が遂に完成し、今日これから、完成記念式典が開かれるのだ。
今日は私もパリス様も、病院をイメージした白と赤の衣装だ。
「たくさんの国民が集まってくれましたわね」
「ああ。国王や王妃が出席する式典に一般市民が参加できるのは、わが国では異例だそうだ」
「そうですの。どうりで護衛の数が多いと思いましたわ。レオナルドも私たちのそばで目を光らせていますし」
「ああ、だから安心だ」
式典が始まると、まずパリス様からの挨拶だ。
病院に行けなくて亡くなる人を減らしたいという願い、これからも王宮は国民のために働いていくという決意などを述べられた。
思いを共にする私は感無量で涙ぐんでしまう。
聴衆からもすすり泣きが聞こえる。
会場が感動に包まれている中、「今さらこんな病院をつくって何になる!息子が帰ってくるわけでねぇわ!」と叫び声がして、何かが私めがけて飛んできた。
「王妃様、あぶない!」
「リリー!」
ビシャッ…
「王妃様、お怪我はありませんか?」
「ええ大丈夫、レオナルドは大丈夫っ!?」
気づいたらステージの上で、レオナルドに抱かれて横になっていた。レオナルドの左肩に黄色いものがべっとりついている。卵だ。
「大丈夫です。ただの卵だったようですね」
良かった…
ほっとすると同時に、まだレオナルドにギュッと抱かれていることに気づき、「レオナルド、もう大丈夫だから、離していただいて結構よ」と慌てて伝える。
「リリー、大丈夫だったか?」
パリス様が青い顔で近寄り、私の顔を覗き込む。心配そうに私の顔や体をさすり、どこにもけががないことを確かめると、しっかりと私を抱きしめた。
ステージ裏に控えていたアビーが「王妃様!王妃様!」と叫びながら走り寄ってくるのも見える。
「パリス様、公衆の面前ですわ…」
「ケガがなくて本当によかった。リリーに何かあったら、俺はもう生きていけない…」
「大袈裟ですわ。ほら、国民が見ています。私たちは無事だと知らせなければ」
二人で立ち上がり、心配そうな聴衆の前で笑顔を見せる。動揺しているときでも笑顔を作れるのは、幼少期からの訓練の賜物だ。
ステージ裏では「犯人を捕らえろ!」と警備兵たちがせわしなく走り回っている。
ほどなくして手首に縄をかけられてステージに連れてこられたのは、無精ひげがぼうぼうに伸び、お酒の匂いがプンプンする、汚い身なりの男性だった。




