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気分が優れないけれど、まさか「死に戻ったので、気持ちを整理するために、自分の誕生祝いの式典を欠席したい」とは言えない。
侍女たちを引き連れて、会場へと向かう。
朝起きてから今まで、一度も夫である国王陛下パリス様にお会いしていないけれど、変だとは思わない。
だって私たち国王夫妻は、絵に描いたような政略結婚の仮面夫婦だから。
私の実家であるパインズバッハ公爵家は、このアズミア王国でもっとも由緒正しいとされる貴族。
パインズバッハ公爵家の当主、つまり私の父は、政治家の最高位である宰相を務めている。
その公爵が「娘を王妃に」と望めば、王家であっても拒否はできない。
お互いが好きか嫌いか、そんな感情は考慮されない。
それでも、幼いころから許婚として一緒に時間を過ごしてきただけあって、以前はそれなりに仲が良かった。
パリス様はおおらかで気さくで、私のつたない話を面白そうに聞いてくださったりして…
私にはそんな陛下を幼いながらに本気で愛していたし、ずっとおそばでお支えしたいと思っていた。
それが私の存在価値だと、信じて疑わなかった。
でも私たちの関係は、よそよそしくなってしまった。
今となっては理由もきっかけも思い出せないけれど、結婚する前からすでに冷え切っていたのは確かね。
いつごろからだったか、陛下は、手あたり次第に貴族令嬢に声をかけるようになった。
公務に遅刻したり、気分が乗らないからとドタキャンしてしまうこともたびたび。陛下はすっかり変わってしまわれた。
でも、変わってしまったのは私も同じ。陛下に見向きもされなくなった寂しさを埋めるように、侍女や護衛兵に当り散らし、ドレスや宝石を買いあさるようになったのだわ。
そんなことを思いながらホールへ続く外廊下を歩いていると、廊下の先に姿勢の良い立ち姿の若い男性が見えた。
少し眉をひそめながら、庭のほうをじっと見つめている。
その途端、心臓がゾワッと縮むような気がした。
銀色の髪、紫の目。生真面目そうな顔立ち。
レオナルド・エステルベルグ。
先祖代々の忠臣として名高い、エステルベルグ伯爵家の三男。
パリス様の幼馴染であり、忠実な騎士でもある。私とも幼いころからよく見知った間柄だ。
好奇心旺盛でお転婆だった私に、「気をつけて」と言いながら剣の構え方を教えてくれた。
頭の中に、レオナルドが国王陛下と私を捕らえる映像が流れる。
《国王パリス、王妃リリー、お前たちの国民に対する罪は重い…》
私たちを捉えたのはレオナルド。彼は貴族でありパリス様の側近でありながら、革命軍に参加していたのだわ。
幼馴染なら、パリス様や私を捕らえるのも容易い。
だって、全く警戒されていなかったのだから。
私はもうひとつ思い出して、思わず自分の首を撫でた。
《見ろ。あれがお前の罪だ》
泣きながら私の首を跳ねたのも、彼…




