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「変わりたい」という言葉も、「リリー」と名前を呼ばれたことも予想外で、「信じられない…」と素直な言葉が口をついてしまった。
「そうだな。どう話せば、嘘ではないとわかってもらえるだろう」と陛下が困ったように笑う。
陛下は、遠くを見るようにして、ゆっくり言葉を選びながら話しはじめた。
「国王であることは重圧だ。プレッシャーを紛らわせるために、女遊びに逃げたのかもしれない」
格好悪い言い訳だけれど、と陛下は自嘲気味に笑いを漏らす。
「わかっていたんだ。いくら逃げても、自分が国王であることは変わらないと。けれど、立ち向かう勇気が出なかった」
私は陛下を見つめ返した。
「リリーも俺と同じように逃げていると思っていたのに…変わっていくリリーを見て…俺も一歩踏み出さないといけないと思った」
「…はい」
「俺は、国王としてやるべきことをやる。そばで支えてほしい」
子どものころ私が憧れていた、責任感の強いパリス様が戻ってきた…喜びと安堵と懐かしさが入り混じった気持ちがこみあげて、私はたまらなくなった。
「パリス様、今のお言葉に嘘はございませんね?」
「もちろんだ」
「二人で、この国のために頑張りましょう。私、パリス様の助けになれるよう精一杯努力いたします」
「ああ、よろしく頼む!」
私たちの心が初めて通い合った気がした。この方と一緒に、国のため、国民のために頑張ろう。
「それで…もう一つお願いがあるんだが」
「なんなりと」
「今すぐにとは言わないから、俺のことを愛してほしい。俺はリリーを愛しているから」
「…っ」
愛してほしい愛してほしい愛してほしい愛してほしい愛してほしい
俺はリリーを愛しているから俺はリリーを愛しているから俺はリリーを愛しているから俺はリリーを愛しているから俺はリリーを愛しているから
セリフが頭の中をぐるぐる回って、息が止まってしまいそう。また頬が熱を持って、耳まで熱い。
散々浮気されてきたのに、たった一言でこんなにドキドキしてしまうなんて、私はどこかおかしいのかしら。
なんとか「そのお言葉も…信じられません」と絞り出す。
陛下は怒るどころか、「散々浮気してきたのだから、無理はない。だから“急がない”といっただろう」と余裕の表情で笑っていらっしゃる。
「でも、こちらも信じてもらえるよう努力する。手始めに夫婦用の寝室で一緒に寝るのはどうだろう」
陛下の提案には逆らえない。
「承知いたしました」




