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「じゃあ貧民街はどうだった?ひどかっただろう」
「はい。初めて見たので驚いてしまいました」
「レオナルドからは、環境改善に意欲を燃やしていると聞いたが」
「はい。レオナルドからアドバイスを受けて、まずは上下水道と病院を…」
上下水道と病院について、図書館で調べたこと。
それらの目処がついたら、子どもたちが読み書き算盤を学べる学校をつくりたいこと。
大人向けに職業訓練や故郷への帰還事業を始めたいこと。
やりたいことが次から次に溢れてきて、マシンガンのような私の話を、陛下は時に驚きながら、時に感心しながら、時に考え込みながら聞いてくださった。
「なあ王妃殿」
私の話が途切れたところで、陛下が真剣な顔で私に呼び掛ける。陛下の真剣な表情はとても格好いい。じっと見つめられて…なぜだろう、私の頬が熱を持ち始めている。
「誕生日以降、王妃殿は変わったように思う。生き生きして、やる気に満ちて、そしてとても美しくなった」
私の頬はどんどん熱くなり、真っ赤になっているのが鏡をみなくてもわかる。陛下に「美しい」なんて真顔で言われて、赤面しないほうが変よね?
「なぜ王妃殿が変わったか、知りたいんだ」
答えにつまる。どう答えたらいいのだろう。「3年後に処刑されてしまうから、それを回避したくて」と言っても信じていただけないだろうし。ぐるぐるぐるぐる考えて、答えを絞り出す。
「先日もお伝えした通り、もっと国のことを知りたくなったのです…私は王妃ですから」
"それだけか?"とでもいいたげな陛下の視線に、隠し事が見透かされそうで焦ってしまう。何か言葉を継がなければ。
「そして、視察に行ってみてわかったことがあるのです」
「なんだ」
「この国には、この王都だけでも、貧困や病気で困っている国民がたくさんいるということです。そして…彼らのこんな状況を作り出したのが私や陛下ご自身だということですわ」
こんなことを言って、怒られるかもしれない。けれど、今言わなければ。陛下に伝えなければ。
「私たちが国王・王妃としての仕事をしていれば…国民を顧みて寄り添っていれば…あんなにひどくならなかったのではないかと思えて、仕方ないのです。私が変わったのは、罪滅ぼしのためです。今なら…まだやり直せますから」
長い沈黙のあと、陛下はようやく口を開いた。その言葉は私の度肝を抜いた。
「リリー、俺も変わりたい」




