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「王妃様、今『生活環境の改善を』とおっしゃいましたか?」
「ええ、そうよ。けれど何から手をつけたらいいのかわからないわ。勉強不足で恥ずかしいけれど」
"王妃様は本気なのだろうか"と探るような目でレオナルドがこちらを見る。あんまりまじまじ見られて恥ずかしいので、「じろじろみるのは失礼ですよ」と注意すると、彼ははっと我に返った。
「貧民街の環境改善について、私の意見を申し上げてもよろしいでしょうか、王妃様」
「ええ、ぜひ聞かせてほしいわ」
レオナルドによると、衛生環境の改善には、まず上下水道のシステムを整えるのが重要だそうだ。
そして無料または格安で受診できる病院や、職業紹介の必要性についてもわかりやすく講義してくれた。
「素晴らしいわ。レオナルド、あなたなぜそれを会議などで提案しないの?陛下の側近として出席しているでしょう?」
するとレオナルドは言い淀む。
「私にはいいにくいこと?怒ったりしないから言ってみてちょうだいな」
レオナルドは何度か国王陛下に上奏したり、会議でも提案したことがあったそうだが、貧民街の問題は、国王陛下や貴族の間で関心が低く、莫大な予算が必要な水道建設や病院建設には予算がつかなかったそうだ。
確かに私も貧民街のことなど無関心だった。王宮と壁ひとつ隔てただけの王都に、あんなところがあったなんて…少し前までは、王都の民はみな豊かな暮らしをしていると思っていた。恥ずかしすぎる無知な勘違いだ。
でも今日視察をして、これは早急に解決すべき問題だとわかった。貧民街を発端に恐ろしい感染症が流行するかもしれないし、治安が悪いまま放置すれば、何かの暴動から革命運動にもつながりかねない。
でも陛下は無関心だろうし…陛下ではなくてお父様にかけあってみようかしら…




