悪魔召喚
多分お分かりだと思いますが私はスマホで書いてますので悪しからず。
今度は門を難なく通れた。
バローロの街の外は草原だった。
こりゃダメだな。こんな所で召喚やらユニークスキルを晒すのは莫迦にすぎる。
さてさて人目のない所は……森の中か、それとも岩肌が見える渓谷あたりか……
とりあえず今日は森に向かうことにする。
森は人が少なく、渓谷よりも見晴らしがわるいからね。
歩きながら現在使える魔法をチェックする。
まずは水魔法、使える呪文は1つだけ【コールアクア】だ。
そのまんま、水を呼び出す魔法のようだ。
相手の顔に水を集めて窒息、溺死なら可能かもしれないが攻撃向けではないだろう。
錬金術はいくつか呪文がある。
【状態変化】【混合】【合成】【抽出】【分離】【過程記憶】【再現】の7つだ。
【状態変化】は熱を伴わずに物質を固体、液体、気体に変化させることだ。この時点で既に魔法的な超常的なものを感じる。
【混合】は物質を混ぜ合わせること。
【合成】は物質を合わせて変化させること。
【抽出】は混合物から特定の物質を取り出すこと。
【分離】は合成等による化合物を単一の物質に戻すこと。
抽出と分離はリアルとはだいぶ違うなぁ。間違えないようにしないと。
【過程記憶】は1度行った生産作業を記憶することで【再現】によって材料からいきなり結果(製品)を得られる。
これは錬金術のみではなく全ての生産行動なので薬物を手で懇切丁寧に1度作ればあとは材料さえあればこの呪文コンボで作れるようだ。
その時は、過去使用した道具すらもいらないというのだから恐ろしいものだ。
まぁ品質は落ちるらしいが。
そうじゃなくても錬金術のレベルが低くて扱いきれるか心配なのだし。
それと最後に共通呪文というのがある。
これは属性がない魔法でどの属性魔法のスキルを覚えても取得するものらしい。取得する呪文は1番高いレベルの属性魔法のレベルに準じるそうだ。
まぁ今はどれもLv1だし、属性魔法は水しか覚えてねーけど。
ということで共通呪文【マジックバレット】が使える。
なんて言うか拳大の魔力でできた塊を飛ばす感じだ。
これが現在使える中で唯一まともな攻撃魔法になる。
そんな確認をしていたら森がだいぶ近くまで来ていた。
だがその前になんかいる。
中型犬ぐらいの動物で頭上に敵である赤色の逆三角のマーカーがあるんだがなんつーか…
ビッグラット Lv2
モンスター
系統 unknown
属性 無
状態 健康 アクティブ
ネズミ…
可愛くない
実際のネズミって結構可愛いのに。
俺達のラボにいるマウスとかモルモット可愛いのに。これはまさにまるまる太った汚いドブネズミがさらに巨大化した感じだ。まぁラットだもんね。マウスでもモルモットでもないからね。
よし殺ってしまおう。
さてさて初めてのモンスターである。
いや、初めての戦闘である。
状況がアクティブだからだろうか、こちらに向かって黄色く長い前歯を見せながら走ってくる。
齧歯類によくある可愛さなど皆無で、汚い歯を見せヨダレを巻き散らかしながらである。
ヒッコリーの杖を構えて呪文の詠唱を始める。
とは言っても今回の詠唱というかLv1魔法の詠唱はかなり短い。
詠唱と言っても変なセリフを言わなければならない訳では無い。
ただ魔法が発動するまでの準備時間のようなものだ。
それを詠唱と銘打つのは大体どのゲームでも同じである。
真面目に詠ませるヤツも無くはないのだが、正直もしこのゲームが詠ませる仕様だったらどうしようかと思っていたが、大丈夫だったのでバーで安心したのだった。
ちなみにそういうそれっぽい台詞を言っても発動するらしい。というか詠唱時間に合わせて台詞を登録出来るらしい。全く誰がそんなシステム作ったんだか。
さてさて真面目に戦闘に戻ろうか。
「マジックバレット」
ドブネズミに向けた杖の先から透明な波打つ魔力の塊?が飛び出る。
色もないのでただ景色が多少歪んでみえるだけなので認識しづらく避けづらいだろう。なんというか、部分的に夏のアスファルトの上の景色が歪んで見えるのがある感じかな。
そして飛びかかったドブネズミの胸部に魔力の塊が完璧にヒット!
「ギガッ、ジシィ」
ドブネズミの口から変な声とヨダレが盛大に漏れて後方にに吹っ飛ぶ。
流石にこれで死んではくれないが、HPバーは4分の1ほど削れていた。
追いかけて地面に打ち付けられたそいつの首よりの側頭部を足の甲で強かに蹴りつける。
ここで気づくが靴はリアルで使っているものではなく、硬めではあるがあくまで布である。よってあまりダメージを与えられないし反動がそれなりにある。
後で靴を新調しよう。
まだジタバタと転がっている死に損ないのドブネズミの首を走り込んで杖で振り抜く。
間違いなく骨が折れたであろう鈍い音が響いてHPバーが砕け散った。
パチパチパチパチ!
〈水魔法レベルが上がりました〉
〈基礎レベルが上がりました〉
〈ジョブレベルが上がりました〉
〈ステイタスに2ポイント割り振ってください〉
〈ボーナスポイントを2ポイント獲得しました〉
どうやら共通呪文だと属性魔法に経験値が行くようだ。
さてステイタスはどうするかな。
流石にここで極振りしての唯一無二とかはいらないんだよな。
取り敢えず魔法が強化できる方向にするか。
いや、はやりひとつは敏捷にしようか。
両方低めだしな。
グレイブ Lv2
筋力 5
耐久 10
精神 6(up)
敏捷 6(up)
器用 15
幸運 20
綺麗に5の倍数だったんだけど崩れたな。
まぁそれはいい。
それよりインフォ前の拍手音がうぜぇ。なんか知んねぇけど、くっそうぜぇ。
ドブネズミが青く光る粒子となって消えていき、後には申し訳なさそうに黒ずんだ毛皮らしきドロップアイテムが残る。
【素材】大熊鼠の毛皮 レア度1 品質E−
ビッグラットの毛皮。
衛生的とはとても言い難い。
おいおい。
もっとなんか違う説明ないのかよ。
まぁ後で川かなんかで洗えばいいだろう。しかしそれでもこの皮で作ったものを着たくはねぇなぁ。
取り敢えず先の事は考えず収納にぶち込む。
死体があった場所に意味もなく視線を向けたあと森の中へと進む。
少しするとちょっとした岩があった。
周りに人や魔物はいないようだ。ここにするか。
収納から錫塊を取り出す。
錬金術の状態変化で液化してとある悪魔召喚の陣、というか紋章を描く。
おうおう、SPがやばいほど溶けてく溶けてく。
ゴエティアや地獄の辞典は読んだことがあるし幾つかの紋章は空で描ける。
まぁ間違えるといけないと思って今回のは念入りに外部リンクで確認してある。
月齢とか時間帯とか適当だし、杯やら法衣もないし沐浴とかもしてない。
だがいちいちそんなのを用意するようだったらこの方法はこれから使わないだろう。
今からやるぐらいのアバウトさでできなければ悪魔召喚は諦めるつもりだ。
あと俺の立つ場所にソロモンの六芒星的なのを書きたがったんだが岩がちょっと小さいので無理だった。
これがないと襲ってくるとかなんとかと聞いているが仕方ないだろう。チョークはいつか違うところで使うとしよう。
そしてここまで出来たら長ったらしい呪文を言わなきゃ行けないんだが流石に覚えてない。
まぁこういうのは意思が、求める心が大切なんだ。
きっと、たぶん…
一言でも伝わればいいだろう。
息を整えて森の香りと静けさを感じて錫の紋章に向けて話しかける。
「悪魔ストラス。
さっさと来やがれ。
俺に仕える名誉をくれてやろう」
若干緊張して素の口調がててしまったが問題ないだろう。
紋章が淡い翠の光を纏う。
召喚自体は成功したようだな。
あ、やっば。SPもめっちゃ減ってる。
1割どころか5分も残ってない。
あ、頭が軽く痛くなってきた。
さらにどこからともなく霧が現れて一瞬で俺は包まれてしまった。
いや、違うな。
どうやら俺を中に閉じ込めたドーム状になっているようだ。
多少中にも漂っているが。
光が中の霧で拡散されたり、ドームで跳ね返ってきてそれなりに見応えのある光景だ。
そして光が収まると目の前に俺より少し小さい金髪の美少女が現れる。
ドイツに旅行に言った時に見た現地のゲルマン系の人に似ているが少し違う。
キレイな感じなんだけど可愛い。
芸術品の如く整った顔たち、豪奢な黄金の糸を思わせる金髪の髪は背中の中程まで伸びている。そしてゆったりとした服を着ていても、いや、だからこそ目立つ押し上げるような豊かな胸元。人形のような美しさと可愛らしさが混在し匂い立つような色気を発している。
だが若干息が上がっているのと服が汚れている。
さっきまで地獄でお転婆してたのだろうか?
そんなことを考えていると、ふとその美しい顔に怒りの色が浮かぶ。
「なんなのよあんたは偉そうに。
私は地獄に君臨する大悪魔ストラス様よ。
ヒューマン如きが私になんの用があるってのよ」
怒りに顔を歪め、呼吸を乱してはいるがこちらの話を聞く気はあるようだ。
見た目はいい女だしどちらかと言うと真面目っぽい気質に見えるが俺に対しての口の利き方がなっちゃいない。
「俺はグレイブ。
まさかあのストラスが少女だとは思わなかったがまぁいいだろう。
単刀直入に要件を言おう。
お前が欲しい 。
俺のモノになれ」
「なっなにいってるのよ。
ヒューマン風情が。
こっこっちは今大変だって言うのに」
顔を赤く染めて更に表情を険しくしてそんなことを言っている。
「お前の存在ごとその力と知恵を俺に寄越せとそう言っている」
「だからあんたなにいって……
あぁそう、あんた召喚術師ね。
私を配下に置きたいと。
ばっかじゃないの。
なんであたしがあんたなんかの……
いや、ちょっと待ちなさい」
何言ってんだこいつ。
はやく決めろや。とは一応言わないでおこう。
これは間違いなく拗らせたらめんどいやつだと思うからだ。
いや、そんなめんどくさいやつを配下にしていいのだろうか。ここはお帰り頂く出来では…
いやいや、待て待て。
もう錫の塊は半分も残っていない。
つまりこれ以上の悪魔召喚は今は出来ない。
またなによりも、あの社長が2度目も簡単に召喚させてくれると思えない。
『チャンスがそう簡単に来ると思うな。
1度で全てをものにしてみろ』
とはあの人の言葉だ。
他にも『チャンスというのはピンチと共にやってくるからな。1歩踏み外せばそのまま落ちるとこにまで落ちるから気を付けな』とも教えられた。
え?
口調がさっきと全然違う?
あの社長はその日の気分、時々の状況で口調も態度も声質も姿かたちすらも変えてくるから気をつけた方がいいよ。
そんなことを考えていたらストラスが無言で歩いてきた。
そして何を思ったのかこんなことをのたまった。
「いいわ。
貴方と契約しましょう。
私も今、地獄にいるのは面倒だからね。
感謝しなさい。
貴方如きが私に忠誠を誓えるのだから」
手の甲を差し出してそうのたまう。
これはあれかな?
臣下のキスをして私に忠誠を誓いなさい的な?
なんで俺がそんなことを。
しかもなんか地獄だかどっかで厄介事に巻き込まれてるみたいな感じだったし。
もしかして結構めんどくさい感じ?
でもチャンスはピンチと共にだし、ピンチはチャンスに転じる筈だし…
さてさてどうしようか…
勿論ここで忠誠を誓うつもりは無い。こいつが俺に忠誠を違うべきなのだから。
あと調子乗ってるのでなにかお仕置きが必要だと思うのだが…
あぁ、そうだ、精々からかってあげようか。
俺はストラスの差し出された左手にゆっくりと自分の左手を添えて顔を近づける。
もう少しで手の甲に唇が触れる、その直前添えた左手でストラスの手を握り強引に引っ張る。
体勢が崩れて前屈みになり1歩踏み出すストラスを俺は立ち上がりながら抱き寄せてストラスの唇を俺の唇で塞ぐ。
その豊かな胸が俺の薄い胸に当たっている。
ストラスは何が起きたのか分からないみたいな顔をして目をぱちくりさせている。
大きくてなかなかに可愛い目だ。
黒の瞳孔の周りには明るい緑色が下地の遊色の綺麗なブラックオパールのような吸い込まれるような美しい虹彩がある。
虹の彩りで虹彩というが、虹なんかよりも遥かに多彩で美しい。
俺に眼球をくり抜いて愛でるような趣味はない筈だが、それでもこの手に取ってもっと色んな角度から眺めて見たいと思えてしまった。
俺は右手をストラスのうなじ辺りに優しく頭を支えるように添えて目を閉じることにした。ちょっとこれ以上彼女の眼を見ていられなかったから。
そして視覚以外の感覚に神経を集中させる。
柔らかい唇にゆっくりと舌を捻り込む。
ツルツルの綺麗な歯を優しく越えて、口蓋を少し尖らせた舌で蛇のようにチロチロって軽く叩くようにしてそのまま引いて歯の裏をなぞる。
今度は唇を軽くずらし音を立てながら相手の舌を絡めとり絞り上げる。
時に激しく、時にねっとりと重く、ゆっくりと口内を蹂躙する。
そして何度目か分からないがストラスの舌を再び絡めとる。少し固くなっていた舌の裏の奥の方を刺激してやるとピクピクってなってから柔らかくほぐれた。あとは緩急つけて絡めて口付けし直して俺の唇で挟んだり吸ったりもしてあげた。
3分と少しぐらいしたらストラスがいい感じに頭逝っちゃってる顔になったのでそろそろ離してやる。
ストラスは目を閉じて舌を伸ばしっぱなしにしている。
もっと欲しがるように。
「ストラス、俺のモノになれよ」
「……」
へんじがない。ただのあくまのようだ。
なんて変な事を考えていたらだろうか。
急にストラスが光りだしてポンッと音を立てて消えた。
もしかして失敗だったろうか。
そう思ったのも束の間、虚空から大粒のエメラルドのような透明感のある翠色の六角形の宝石があしらわれた金属の腕輪が現れた。その腕輪はゆっくりと俺の方に浮いて移動してきた。
俺はそれを手に取る。
同時に、
ピロロン。
〈悪魔ストラスが配下に加わりました〉
〈称号:悪魔ストラスの契約者を獲得しました〉
〈称号:美少女悪魔の飼い主を獲得しました〉
〈称号悪魔ストラスの契約者に美少女悪魔の飼い主を上書きしました〉
〈ボーナスポイントを7ポイント獲得しました〉
ほわっつ?
か・い・ぬ・し?
なんっじゃそりゃぁ!
大体当の本人、いや、本悪魔どこいったし。と思ったら先程の腕輪が煌めき出した。
鑑定した覚えもないのにウィンドウが開いてアイテム詳細が映し出される。
【アクセサリー】悪魔ストラスの腕輪 レア度8 品質S+
悪魔ストラスが宿る腕輪。
闇の祝福がされた魔銀をベースとした合金の腕輪に大粒の緑魔宝石があしらわれている。
装備者は悪魔ストラスを召喚することが可能。
売りに出しても捨ててもいつの間にかそばにある。
プレイヤー【グレイヴ】専用装備
破壊不可 収納不可
つまりストラスはこの中にいると。
いしのなかにいる……訳では無いと。
はい、冗談です。
すんまへん。
まず元ネタの原作どのシリーズもやったことありません。
さて、取り敢えずまた呼び出してみるか。
初めての召喚魔法の呪文を使う。
さっきは勝手にSPが減ってたけど。
「召喚 ストラス」
そうそう、召喚魔法は詠唱が要らないらしい。
加えてSPも消費しないので実に勝手がいい。
だからこそ先程SPがあんなに減るとは思わなかったのだ。
きっと態と社長が言わなかったとみた。
魔法陣の展開とかはなく目の前が歪んでストラスが現れた。
もう少し派手な演出をしてもいいと思う。
佇んだストラスを見ると先程と違うところに気が付いた。
その細い首には赤い革製の首輪が巻かれていた。
しかも金属のプレートが埋め込まれており「♡すとらす♡」と刻まれている。
更に艶やかな金の髪の上にはイヌの垂れ耳カチューシャが付けられていた。
後側をよく見るとスカートが不自然に持ち上がっている所がある。
そう、まるで尻尾があるかのように。
ストラスは梟やらゴイサギの姿をしていると聞いていたのだがまさかのイヌであったようだ。
などと考えていたらストラスが顔を真っ赤に染めながら俺に不満を垂れてきた。
「ちょっとどういう事なのよ。
いきなり呼び出して契約させられたと思ったら、なんで私に犬畜生の耳と尻尾が生えてるのよ。
しかもこんな…恥ずかしい首輪までさせて。
私を、こんなに辱めて何がしたいっていうのよ」
いや、寧ろなんでこうなったのかは俺が聞きたいぐらいなんだが。
まぁそんなこと伝えるつもりは無い。
「別に辱めてる訳では無いさ。
ただお前が俺の愛玩動物になり下がり、それに相応しい格好になったってだけだろう?
なあ?」
そう言って首輪とその細い首に指を沿わす。
その時丁度目線の高さにあった垂れ耳が気になったのでそちらにも逆の手を這わして見る。
柔らかい毛に指が入り込み気持ちがいい。
そして温かい肌に触れる。
指先で摘むようにするとくにゅくにゅとした独特の感覚が心地よい。
こうなると尻尾も気になる。
だがさすがに野外でスカートを捲らせるわけにはいかないので後にする。
宿も取る予定なので、機会はいくらでもあると思うのだ。
えぇ、宿とはそういう所でしょう?
ちなみにこの間ストラスは俯いていた。
時々ぴくって反応していたりはするが、何を言うでもなく人型の方の耳まで真っ赤にして下をむいていた。
色々と思うところはあるが取り敢えず成功だ。
検証したり、金になるものを拾いながらゆっくり街に戻ろうか。
これからよろしくね! ストラスわんこ!
余談ですが、私は犬より猫、猫よりトカゲ、トカゲより猛禽な人間です。
人間に羽角付けてもいいけどなんかアホっぽさが際立ちそうだからやめました。