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龍宮へ婿入り

お待たせ!

 梅雨の終わりも見え始めた六月末のこと。

 その日俺は霧雨に煙る山道を一人で歩いていた。


 逢魔さんからの依頼で、内容は山中に数ヶ所ある龍神の祠の様子を確認し、壊れている箇所があれば修復すること。

 報酬は祠一つ見回るごとに五〇万、修復すれば一つにつき一〇〇万という破格の仕事だ。


 龍神の祠は霊脈の噴出点に建てられており、これが壊れると霊脈の流れが狂って『良くないモノ』が溜まりやすくなってしまうらしい。

 この夜鳥羽の地は霊脈の集結点なので、こういった祠の管理を怠ると例の廃病院みたいな場所があちこちに発生してしまう。


 依頼料がやけに高いのも力づくで払えないタイプの悪霊や呪いが壊れた祠の周辺にわだかまっている可能性があるからだ。

 実際すでに二ヶ所でその手の厄介な悪霊を救世阿弥陀で浄化している。


「ここで最後か」


 逢魔さんから送られてきた地図と現在地を照らし合わせ最後の祠に辿り着いた俺は、すかさず鞘から救世阿弥陀を引き抜き一閃。

 場にわだかまっていた悪い気が一刀の下に浄化され、場にとどまっていた悪霊は跡形もなく消滅した。


 時間を遡り原因そのものを断ち切ることで業を滅し、衆生一切を救済する業滅剣『救世阿弥陀』。

 俺にこの仕事が割り振られたのも、こうして本来なら救いがたい存在を救える剣を持っているからだろう。


 ともあれ、あとはこの祠を直せば今日の仕事は終わりだ。


「そーれ、びびでばびでぶー☆」


 時間逆行の魔法で祠を壊れる前の状態に戻す。

 ボロボロだった祠がまるで逆再生のようにみるみる綺麗になっていく様子は見ていて気持ちがいい。


「よっし、仕事終わりっと。帰って風呂でも入るか」


 と、俺が自分の部屋へ転移しようとしたまさにその時。

 突如周囲に深い霧が立ち込め、何か巨大な気配が近づいてくるのを感じた。


「祠を直してくれたようじゃの。感謝するぞ人の子よ。おかげで巡りがよくなってここまで来れた」


 一歩先も見えない霧の紗幕しゃまくを突き抜け、巨大な龍の影が俺の前に鎌首をもたげる。

 一口で俺を丸飲みにしてしまえる圧倒的スケール感と霊力量に、俺は言葉も忘れて立ち尽くすことしかできなかった。

 ……なんつー霊力量だよ。コイツの前じゃ俺なんて道端のありも同然だ。存在の格が違い過ぎる。

 周囲を漂う霧の影響か、思うように力が出せない。


「むっ? ほほう、お主、神気を帯びておるのぅ。現人神とは珍しい。昔はそういった者たちも多くいたと爺から聞き及んではおったが、実物に会うのは初めてじゃ」


 まるで珍獣にでも遭遇したような言い草だな。


「どれ、もっとよく顔を見せてくれ」


 鼻息がかかるくらいの距離まで龍がずずいと顔を近づけてくる。

 声音から察するに流石に喰われることはないだろうが、格上の存在にここまで近づかれると流石に怖いものがある。

 俺も強くなったと思っていたが、どうやらまだまだ上には上がいるらしい。


「ほほう、存外可愛らしい顔立ちじゃの。ワシの好みじゃ。伸びしろもまだありそうじゃし、これなら問題なさそうじゃのう」


「おい、さっきから人の顔ジロジロ見て何なんだよ!」


「お主、ワシの婿になれ」


 ……は?


 はぁ!? 婿!? なんで!? 


「いや急にそんなこと言われても!? つーか俺彼女いるし!?」


「ほう、ではその女は第二夫人にでもすればよかろう」


「そういう問題じゃねぇ!」


 などと言い合っている間にも巨龍の影が揺らぎみるみる小さくなって、俺と同い年くらいの女の子へと姿を変えた。

 龍の角と尾を持つ十二単じゅうにひとえを纏った空色の髪が美しい少女だ。


「もうお主はワシのものじゃ。絶対に離さぬぞ。さあ共に参ろうぞ婿殿♡」


 龍の少女が俺の腕に抱きついてきて、レイラとは比べ物にならない大きな双子山がむにゅんと押し当てられる。

 や、やわらかぁい。ってか力強っ!?


「あ、ちょ、コラ離せって! あ────れ────っ!?」


 長い尻尾で身体をグルグル巻きにされ、俺は成す術もなく深い霧の中へと引きずり込まれてしまったのだった。



 ☆



 扉の城の使用人用の休憩室にて────


「龍姫が家出!? なんでまた」


「お見合いが嫌で太陽系に逃げ込んだようです」


 老執事から伝えられた龍姫家出の報に麗羅は目を丸くした。


 りゅうとはりゅうの化身。

 宇宙全体の霊力の流れを管理する種族でもある龍族は、地球においても古くから各地の伝承に登場し、人類の歴史にも深く関わってきた。


 そんな龍族の姫が家出したとあらば、その身一つで宇宙そらを飛び息吹一つで星々を消し飛ばすような怪物たちが姫を探して地球に押し寄せてくる可能性も出てくる。


「それで、見つかったんですか?」


「はい。自分から婿の候補を連れて戻ってきたそうです。ですがその婿が問題でしてな……」


「まさか」


 皆まで聞かずとも事の顛末を察した麗羅が一縷の望みを込めて老執事に確認する。


「晃弘じゃないですよね……?」


「……残念ながら」


「…………はぁ」


 もう呆れて言葉すら出なかった。

 なぜあのバカはこうもトラブルに巻き込まれるのか。


「問題は龍姫のお見合い相手がニーズヘッグの息子だったことです」


「あー、あのドラ息子」


 北欧神話に語られる悪竜ニーズヘッグ。

 悪意の打撃者、嘲笑の虐殺者など、様々な呼び名のあるこの竜は、終末の日(ラグナロク)に翼に死者を乗せて飛ぶという伝承にもある通り、この宇宙において現世と霊界を行き来する魂の流れを管理している。

 

 麗羅も主人の付き添いで件の悪竜とその息子に一度だけ会ったことがあるが、どちらも物騒な二つ名の通り気性の荒い男だった。


「今回の件で相当頭にきたようで、息子が率いる愚連隊が太陽系に向けて移動を開始したと先程龍宮から連絡がありました」


「完全に八つ当たりじゃないですか」


 ニーズヘッグジュニア率いるドラゴン愚連隊は各地の悪竜伝説に連なるドラゴンたちで結成されており、その戦闘力は一晩で百の銀河を破壊し尽くすほどとも言われている。

 だがいずれの竜も、この宇宙を管理する重要な役目を担った竜たちの子息であるため討伐するわけにもいかず、彼らの悪行は野放しにされているのが現状だった。


「その件についてはご主人様が解決にあたるとのことです。私はご主人様が不在の間、地球の防衛を仰せつかりました」


「晃弘を取り戻しには行かないのですか?」


「現状、我々が動いては余計に事態を悪化させかねません。気持ちは分かりますが今は堪えてください」


「……分かりました」


「くれぐれも早まった真似はしないように。私が出ている間、留守を頼みます」


 不承不承頷いた麗羅に苦笑しつつ、老執事は鍵を使いどこかへと出かけていった。


「それで? どうするつもりだ」


 部屋の隅で腕を組み話を聞いていたベルダが麗羅に問いかける。

 魔王が滅びてからこっち、ベルダは臥龍院にメイドとして雇われ、扉の城で生活していた。


「どうするもなにも、いつでも助けに行けるように準備しておくわよ」


「ならば私も手伝おう」


「ありがとう。なら、ベルダには修業の相手をお願いするわ。相手は宇宙最強の種族。今のままじゃ手も足も出ないまま終わりかねないもの」


「承知した」


 かくして麗羅たちも晃弘救出に向けて静かに動き出したのであった。



という訳で龍宮編スタート!


(言えない、更新遅れたのは新作に浮気してたからなんて口が裂けてもry

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