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遊園地大パニック!?

 六月のある日のこと。

 夕食後のダイニングテーブルにおもむろに置かれた封筒を前に俺は首を傾げた。


「なにこれ?」


「今度新しくできる屋内遊園地のペアチケット。商店街の福引きで当たったのよ」


 母ちゃんが言うには当てたのは優芽と芽衣らしいが、ペアチケットなので小学生二人だけで行かせる訳にもいかないし、どちらか片方だけ連れて行くのも角が立つ。

 まさかいい年こいたオバハンが旦那と遊園地デートというのも恥ずかしいし、ならばと俺に回ってきた訳だ。


「麗羅ちゃん誘って行ってきなさいよ。どうせ中間テストも終わって暇でしょ」


「まあそりゃそうだけども……」


 と、そんな訳で偶然手に入れたチケットを口実にレイラを電話でお誘いしてみたらやけに食い気味な了承を貰い、今度の日曜日に麗羅と二人でデートに行くことになった。



 ☆



 デート当日。

 午前十時の開園時間に合わせて現地集合しようと約束したものの、なんだか妙にそわそわしてしまい一時間早く現地に付いてしまった。

 今までも二人きりという場面は何度かあったが、こうして予定を合わせて会うのは何気に初めてで意味も無く緊張している。


 今日の服装は火鼠パーカーとジーンズ、靴はお気に入りの青いスニーカー。

 裁縫の神様が仕立ててくれただけあって小春のお墨付きも出るくらいにはバシッと決まっている。……が、念のためもう一度前髪チェック。

 いつもと同じ髪形のはずなのにやけに気になるのは何故だろう。


 と、スマホを手鏡代わりに前髪をいじっていると、バス停に停まったバスからレイラが降りてきた。

 服装は黒のシャツとダークトーンのデニム。足元は白いスニーカーで、頭にはブラウンのベレー帽。白いショルダーバッグを肩にかけており、カジュアルながらも大人っぽいコーデだ。


「よ、よお。早かったな」


 まだ開園まで三〇分以上あるのにこんなに早く来てどうすんだよ。


「お互い様ね。待たせたかしら?」


「いや、今来たばっかだし」


 お互いそわそわしてなんだか落ち着かない。

 そういえば最初に服装を褒めると高感度上がるって小春が言ってたな。


「その服似合ってるな」


 唖然。

 予想外の一言に不意を突かれたといった感じの顔だった。


「……まさかアンタの口からそんな言葉が出てくるとは思ってなかったわ」


「どういう意味だコラ!」


「別に悪い意味じゃないわよ。アンタもちゃんと成長してたんだなって思っただけ」


「あのなぁ……。俺だっていつまでもガキじゃねぇんだぞ」


「小学生レベルのしょーもないギャグで爆笑するくせによく言うわよ」


「誰が小学生だ!」


 いつまでも「うんこちんちん」言っときゃ爆笑できるお年頃じゃねーんだぞ。

 背だって伸びたし下の毛だって生えてんだ。いつまでもガキ扱いされちゃ困る。


「ていうかアンタ最近ちょっと背伸びたんじゃない?」


 俺の横に並んだレイラがお互いの背を比べて「やっぱり」と頷く。


「あ、やっぱ分かっちゃう? そうなんだよ、ゴールデンウイークから四センチも伸びたんだぜスゲーだろ!」


「ふふっ、そこで自慢しちゃうあたりまだまだ子供ね」


「ぐぬぬぬ!」


「そろそろ開園みたいよ。行きましょ」


 レイラに手を引かれ俺は、入り口でチケットを見せて入場ゲートをくぐる。

 ネットで調べた限りじゃ国内最大級のリアル脱出ゲームが目玉らしいが、アトラクションについては開園当日まで完全非公開になっていたため中がどうなっているのか俺もまだ知らない。


 フハハ! バリバリ謎解きしていいとこ見せちゃうぞ!



 ☆



「クククッ、何も知らない仔兎たちがやってきたネ」


 無数の監視モニターに映し出された人々の姿にピエロがニヤリと不吉な笑みを浮かべた。


 東京ドーム三つ分の敷地面積を誇る国内最大級の屋内遊園地『ドリーミーランド』。

 しかしてその正体は、狂気に取り憑かれたとある富豪が生み出したデスゲームの舞台装置だった。


「さァ、楽しいお遊戯の時間だヨ☆」


 ────彼はまだ知らない。

 一般人に紛れて現人神やべぇやつが紛れ込んだことを……。



 ☆

 


 ゲートをくぐり建物の中へと入るとエレベーターホールがあり、エレベーターに乗って地下へ下りると巨大な迷路が俺たちを出迎えた。


『死の迷宮へよぉこそ。君たちは果たしてこの迷宮を無事に攻略できるかナ?』


 迷宮の入り口に設置されたモニターに映し出されたピエロを無視して先へ進むと金属製のドアがあった。


「おっと」


 ドアを開けると同時、部屋の仕掛けが作動して大きな斧が俺の脳天に降り掛かった。

 ……が、所詮は安全なアトラクション。避けるまでもなく鼻息を『ふんっ』と吹きかけると斧は軌道を変えて逆に天井に突き刺さった。


「やっべ、力加減間違えた」


「後で係員さんに謝っときなさいよね」


 部屋の中には絵柄の描かれたタイルと鍵の掛かった箱があり、どうやらタイルを動かして絵柄を合わせれば箱が開くようになっているらしい。


『十手以内に絵柄を揃えてネ☆ 十手以上使ったら箱が大爆発! 制限時間は一分。早く解かないと天井に押しつぶされちゃうゾ〜!』


 ピエロの声が部屋のルールを説明し終えた次の瞬間、天井が結構な速さで下がり始めた。

 焦らせて失敗を誘おうという魂胆のようだが、一分もあるなら余裕のよっちゃんだぜ!


「ホイ、クリアっと!」


 俺の灰色の脳細胞があっという間に答えを導き出し、箱が開いて天井の仕掛けが停止した。

 箱の中に入っていたのは真鍮製の鍵が一本。部屋の奥にある扉に使ってみると鍵はピタリとはまり扉が開く。


「なるほど。こうやって謎を解いて進んで行くんだな。中々スリルがあって面白そうじゃん」


「どんどん行きましょ。最初の完全制覇者として殿堂入りしてやるわ!」


「なんか景品とか出るんかね」


 俄然やる気を見せ始めたレイラと一緒に、俺は迷路の奥へと足を踏み入れた。



 ☆



「……おかしいな。振り子が壊れてたのかナ」


 モニターに映った不自然な軌道を描く斧を眺めてピエロが白いアゴに手を振れて首をひねる。


 普通なら脳天をカチ割られて記念すべき初スプラッタとなるはずだったのだが、いかんせん相手が悪かった。

 あまりにもレベルが違い過ぎて本人たちはまだこれが本当のデスゲームだと気付いてすらいない。

 パズルもかなりの難易度に設定したはずだったのだが余裕でクリアされてしまった。


「面白くナい。これは面白くナいヨ……!」


 男が見たかったのは極限の状況下で暴かれる人間の醜い本性と、命をすり減らすようなギリギリの謎解きだ。

 断じてこんな緊張感の欠片も無いバラエティー番組みたいな映像ではない。


「仕方ない、彼らには消えてもらうとしよう。異物は排除しなきゃネ!」



 ☆



「よっ! ほっ! はっ! 結構身体も使うんだなこのアトラクション!」


「そうね。いい運動だわ」


 四方八方から飛んでくるボウガンの矢を二人息を合わせてバク転で躱し、全身をバラバラに引き裂く軌道で迫る回転ノコギリを僅かな隙間に飛び込んでギリギリ回避する。


 罠だらけの廊下を駆け抜け謎解き部屋へ飛び込む。

 部屋の中央にはモニターが置かれており、俺たちが部屋に入った瞬間電源が付いて問題が表示された。



 とある村で殺人事件が起きた。

 容疑者はAとBとCの三人。この中の誰かが犯人だ。

 容疑者の供述を元に三分以内に犯人を当てよ。ただしこの中には嘘つきが複数混じっている。


 Aの供述。

「私は昨夜は家で寝ていたよ。寝ていたからBとCが何をしていたかも知らないね」


 Bの供述。

「僕は昨夜は友人と二人で酒を飲んでいたよ。AとCは見たかもしれないけど酔っていたから確かじゃないよ」


 Cの供述。

「俺は昨夜はAに用事があってAの家に行ったな。何度戸をノックしても出てこなかったからAは怪しい」



 問題文がすべて表示されたところでタイマーが起動し部屋にガス臭が漂い始める。中々凝った演出だ。

 普通に考えたらAが一番怪しい。

 だが、この問題のミソは嘘つきが複数混じっている部分にある。


「どう思う?」


「意地悪問題よねこれ」


「やっぱりか。じゃあ答えは一つだな」


 俺たちは頷き合い息を合わせて答えを言った。


「「全員の共犯」」



 ────正解!



「「よっし!」」


 ガスの流入が止まり天井の換気扇が回り始め、床から鍵の置かれた台座がせり出してきた。

 嘘つきが複数いるということは誰の証言も信用できないということになる。

 そして問題文で犯人がこの中にいると明記されており、誰が嘘をついているか三人の証言だけでは分からない以上、答えは三人とも怪しい。つまり全員の共犯となるわけだ。


「結構進んできたけど、今俺たちどの辺にいるんだろうな?」


「分からないけど、割と順調なんじゃない?」


「かもな」



 ☆



「あああああああああああっ!!!! 罠がッ、全部ッ、通じないッ!」


 ピエロがモニターの前で頭を掻きむしり奇声を上げる。

 二人を殺すために罠を作動させまくったせいで、他の挑戦者たちは罠の作動した後の安全な迷路を散策するだけになっているのもいただけない。


 それでいて肝心の二人は未だ無傷なのだから、デスゲームのゲームマスターとしては発狂したくもなるというものだ。

 大体なんなのだ、あの二人の異常な身体能力は。

 まるで野生の獣みたいな身のこなしで罠を回避してしまうのだから、罠を仕掛けた側としては徒労感しかない。


「こ、こうなったらアレを出すしかないか……」


 ピエロがポケットからリモコンを取り出しドクロマークのスイッチを『ポチッ』と押す。

 罠以外の方法で殺すのは主義に反するが、ゲームを台無しにされるよりはマシだ。


「ヒヒヒッ、もう助からないゾ♡」



 ☆



 遊園地のアトラクションにしてはハードな量の罠を掻い潜り、謎やパズルをサクサク解いて迷路を踏破していくと、背後からタイヤが擦れるような音が聞こえてきた。


「うぉぉっ、なんだアレ!?」


 キレッキレなコーナリングで廊下の角を曲がって姿を現したのは全長三メートル弱はある人型二足歩行ロボットだった。

 両腕に取り付けられたガトリング砲の銃口がこちらに向けられる。

 おいおいおい、流石に遊園地のアトラクションにしちゃやりすぎじゃねーのか!?


 ────ブォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!


 瞬間、法螺貝のような銃声と共にガトリング砲が火を噴いた。

 咄嗟にレイラを庇うように前に出た俺は仙術の極意を発揮して銃弾の運動エネルギーをすべて自分の力に変えて吸収した。

 運動エネルギーを失った銃弾が空中でピタリと停止し重力に引かれてカラカラと床に転がる。


「おい、この銃弾本物だぞ!?」


「薄々変だとは思ってたけどやっぱりコレ、普通のアトラクションじゃなさそうね」


 銃弾を撃ち尽くしたロボットがガトリング砲をパージしてサブウェポンのアームブレードを展開する。いちいちかっけぇなチクショウ。

 まあ、襲ってくるなら容赦なくぶっ壊すけどなァ!


「波ァァァァァ────────ッッ!!!!」


 ブレードを構えてホイールの回転数を上げて突っ込んできたロボットを霊力波で一気に消し飛ばす。


「こっちは終わったぞ」


「こっちも見つけたわ」


 バッグから取り出した呪符を構えて何かを探っていたレイラが、手に持っていた呪符を床に投げつける。

 するとレイラの影がぐにゃりと伸びて、そこから小太りのピエロを咥えた化け狐がズルンと顔を出した。


「うひっ!? な、なんだこれ!? どうなってんノ!? 僕ちんのロボは!?」


 状況が呑み込めず目を白黒させているピエロの胸倉を掴んでメンチビームでご挨拶。よくも初デートを台無しにしてくれやがりましたねぇ。


「テメェが黒幕か。この落とし前どうつけてくれんだコラ」


「ひ、ヒヒヒッ、こんな……こんなことってある? 人生の半分をかけて準備してきた計画がサ、突然出てきたよくわかんない化け物に蹂躙されるなんテ、こんなことあっちゃいけないヨ……」


「うるせぇ反省しろ馬鹿野郎ッ!!!!」


「あぴゃっ!?」


 問答無用のグーパンチを顔面にお見舞いしてやると、ピエロは舌を「んべっ」と垂らして気絶した。

 ったく、身勝手な計画で人様に迷惑かけてんじゃねぇよボケが。




 それからレイラが式神を使ってモニタールームから施設の罠をすべて解除し、ピエロは普通に警察に逮捕された。

 幸いにして俺たちが先行して罠を解除していたおかげで死傷者は出なかったらしい。

 こんなくだらねぇ計画で死人が出なくてよかった。


「なんか大騒動になっちまったな」


 バスの窓から流れゆく景色をぼんやり眺めるレイラに話しかける。


 時刻は一四時過ぎ。

 遊園地は結局封鎖になり、警察の事情聴取を終えた俺たちはこのまま帰るのも消化不良ということで今は近くのデパートのフードコートへ移動中だ。


「ホント、トラブル体質よねアンタって」


「俺に平穏な日常は無いのか……」


「なんだかんだ楽しんでたじゃない」


 だってまさか本当にあれだけの大舞台を用意してデスゲームやろうとするバカがいるなんて思わないじゃん。

 今になって思い返してみればドア開けて斧が降ってきた時点で気付くべきだったか。


 それからしばらく気怠い無言の時間が続き、バスを降りた俺たちはデパートのフードコートでハンバーガーを注文し、遅めの昼食を摂った。

 それから二人でデパートの中にあったゲームセンターで時間を潰した。


「今日は悪かったな。あんなことになっちまって」


 UFOキャッチャーで獲った大きなぬいぐるみを渡しつつ、俺はレイラに謝った。


「別にアンタのせいじゃないでしょ」


「そりゃそうだけどさ、誘ったのは俺だし……」


「気にしすぎよ。あ、そうそう。これ、ぬいぐるみのお返し」


 と、レイラがバッグから可愛くラッピングされた紙袋を取り出して俺に渡してきた。


「……これは?」


「この前神様に貰ったのよ。片方は私からアンタに渡せってね」


 袋を開けてみると白い石英の勾玉の首飾りだった。レイラが首からかけている黒い勾玉と対になっているらしい。

 なるほど、確かに厳かな霊力が伝わってくる。

 首にかけてみると実にしっくりと馴染み、自分の霊力が高まったのを感じた。


「ペアネックレスとか大分ハズいな」


「言うな! 私だってちょっと恥ずかしいんだから……」


 照れたようにレイラがぷいっとそっぽを向く。

 互いの勾玉が共鳴してお互いの存在をより近く感じ取れるのもなんともこそばゆい。


「ありがとな。大事にするわ」


「ふ、ふん。最初から素直にそう言いなさいよ。……今日は誘ってくれてありがと。また二人でどこか行きましょ」


 俺が渡したぬいぐるみを愛おしそうに抱き締めレイラが微笑む。

 ……ま、この顔見れただけでも誘った甲斐はあったか。


「おう。もうすぐ夏だしな! イベントにゃ事欠かないだろ」


「ふふっ、そうね。楽しみだわ」


 梅雨の長雨が晴れたら、いよいよ夏が来る。



 ────この時の俺はまだ知らない。

 春とは比べ物にならないほど激動の日々が待ち受けていることを……。


(ゲームマスターが)大パニック


脱出系デスゲームにインフレチートキャラをぶち込んではいけない。

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