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準決勝 第二試合 麗羅vs晃弘

 決戦の場へ向かう通路の奥で、麗羅は静かに瞑目して呼吸を整えていた。


 瞼の裏に浮かんでくるのは幼馴染の生意気な顔。 

 自分でも分かるほど顔が熱い。意識して深呼吸しなければ心臓が爆発してしまいそうだった。


(私は、アイツと────)


 友達のままではいられないのか。

 晃弘の想いを受け入れても、否定しても、どちらを選んでももう友達のまままではいられない。

 それが怖くて答えを先延ばしにして、とうとうここまで来てしまった。


 自分は晃弘の想いにどう答えるべきなのか。

 そんな自問自答をこの一ヵ月繰り返してきたが、結局明確な答えは未だ出ないままだ。


 さらに思い出すのは別れ際に自分を抱きしめてきたシャオロンの言葉。



『僕も負けません。貴女にも、誰にも。絶対に優勝して、貴女が抱える闇を祓ってみせます』



 シャオロンの第一印象は真面目な好青年。そしてどこか神秘的な雰囲気を秘めているようにも感じた。

 実際シャオロンは晃弘とは比べるのも失礼なほどいい奴だったし、過ごした時間こそ短いが、彼と過ごした時間はとても心地のよいものだった。


 過去を失ってから新たに出会った人々の中でも、一番心を許して打ち解けられた男の子だったかもしれない。

 だからこそ、最後のあの言葉がこんなにも深く自分の心に食い込み、惑わせる。

 あの透き通るような瞳に、果たして自分はどこまで見透かされていたのだろうか……。



「さあ準決勝第二試合! 選手入場です!」



 様々な想いが複雑に絡み合い、明確な答えを出せぬまま、とうとうその時はやってきた。

 雑念を頭から振り払い、バシッと頬を両手で挟んで気合いを入れ直した麗羅は、意気込んで決戦の地へと足を踏み出した────。



「よ、よっす……」


「……っ」



 ……は、いいものの、改めて顔を合わせるとやはり気まずい。

 この一ヵ月でまた少し背が伸びただろうか?

 なんだか以前よりも男らしくなったように感じるのは果たして目の錯覚か。


「あー、その……あんときは言い過ぎた。スマン」


「……私の方こそ、ぶったりして悪かったわよ」


 もじもじモニョモニョ。

 なんだこれは。こんなの全然、らしくない。

 歯切れの悪いお互いの態度に二人ともだんだん腹が立ってきて、先に限界が来たのは麗羅の方だった。


「あーもうっ! もじもじもじもじ鬱陶しい! 男ならシャキッとしなさいよシャキッと!」


「あぁ!? お前こそなんだよ、もにょもにょもにょもにょしやがって! 言いたいことがあるならハッキリ言えやコラ!」


「うっさいバーカ!」


「なんだとーっ!?」


 それでも一度火が付けばやっぱりいつも通りで。

 喧嘩しているはずなのに、それがこんなにも心地良いなんて本当にどうかしている。

 そういえば、こうして一対一で戦うのは久しぶりに再会したあの時以来か。


 現世の時間ではあの時からまだ一ヵ月も経っていないのに、随分と長い時を過ごしたような気がする。

 あれから色々な事があって、お互いあの頃とは比べものにならないほど強くなった。


 まったく同じ事を考えているとは知る由もなく、自然と口角が吊り上がっていくのを二人は自覚する。

 ああ、まったく。


「ホント素直じゃねぇ女だな!」

「ホント素直じゃない男ね!」


 あの時は邪魔が入ってうやむやになってしまったが、今度こそどちらが強いか白黒ハッキリさせられる。


((コイツにだけは負けたくない!))



「両者見合って……始めッ!!!!」




 魂 魄 開 放ッ!!!!

 魔 神 転 装ッ!!!!



 開幕から全力全開。

 晃弘は背中に光輪を背負った派手な山伏の姿へ。

 麗羅は長い白髪と九本の尾をたなびかせた狩衣風の衣装を纏った魔法少女へと。


 自身の最強形態へ変身した二人が激しくぶつかり合う。



「くはははっ! よく受け流したものだ」


 錫杖とお払い棒が火花を散らしてぶつかり合う中、錫杖に込めた呪いを受け流された山伏が邪悪な笑みを顔に貼り付け嗤う。


「くっ……! アンタ、何者? 一つの魂に二つの意識が混在してる。バカヒロじゃないわね!」


「ほう、敏い娘だ。者共ものども聞けぇ! 我こそは神変大菩薩じんべんだいぼさつおくりなを冠せし大行者、役小角えんのおづぬなるぞ! 地獄の王の帰還であるッ! 頭が高い! 控えおろうッ!」


 凄まじい膂力りょりょくで麗羅を弾き飛ばし、役行者えんのぎょうじゃが手に持つ錫杖を『カッ!』と打ち鳴らし派手に大見得を切る。


 すると闘技場のフィールドが『ゴゴゴゴッ!』と大きく持ち上がり、恐怖に逃げ惑う観客たちをぐるりと見下ろして、役行者が満足げに鼻を鳴らした。



「な、何たることでしょうか! 地獄の覇王が帰ってきましたッ! かつて八熱地獄を凍りつかせ八寒地獄を生み出した張本人! あまりの呪力に地獄の獄卒さえも従え十王に反旗を翻した大罪人は、あろうことか現世に転生して再び現人神となっていた―ッ!?」


「先代からは無間地獄に投獄したと聞き及んでいましたが、やはり自力で転生していましたか……」


 閻魔と役行者、二人の鋭い視線が交わる。


「ククカカカカ! 我を誰と心得る? 輪廻転生のことわりを解き明かした大法師なるぞ! しかしまあ、しばし見ぬ間に父親の後ろに隠れてピーピー泣いておった金魚のフンが随分と偉そうになったではないか! どれ、まずは余興がてら観客どもを血祭りに────させるか馬鹿野郎!」



 饒舌に語る役行者の口を、背中から生えてきた第三第四の腕がぶん殴って強引に黙らせた。


「ええい邪魔をするな小僧ッ! いい加減に我が意思に下れ!」


「ざけんな俺の身体だぞ! テメェこそ一度負けたんだから大人しく俺に力を貸しやがれ!」


「ぬかせっ! あんなものは負けでもなんでもないわッ! ええい小癪な小僧め!」


「こっちのセリフだ目立ちたがりのクソジジイめ! 大人しく引っ込んでろッ!」


「あっ、コラ! 何をするやめ────……」


 自分の腕と殴り合いの喧嘩を繰り広げ、アゴに一発クリーンヒットを貰った役行者がぐらりと揺らいで押し黙る。



「……あーくそ痛ってぇ。ようやく大人しくなりやがったかクソジジイめ」


「アンタ、晃弘……よね?」


「おう、何ビクビクしてんだ。まだ試合は終わってねぇぞ!」


 直後、麗羅に機関銃の如き霊力弾の集中砲火が襲いかかる。

 一発一発が必殺の威力を持つ爆裂弾が幾度となく弾け、闘技場の中心に紅蓮の華が咲き乱れた。

 すると爆炎がみるみる中心部に向かい収束して、炎の中から麗羅に代わって一体のわら人形が姿を現し────


「人がせっかく心配してやったのにアンタってやつはっ!」


 わら人形に火が付いて障子紙のように『バッ!』と燃え尽きると、晃弘の全身が粉々に弾け飛んた。


「くかかかかっ、及第点をくれてやる。が、まだまだ甘い!」


 砕け散った肉の塊を空中から見下ろし、晃弘(?)が邪悪に嗤う。

 弾け飛んたはずの晃弘の身体は、いつの間にか蠢く蛆虫の塊と入れ替わっていた。


「呪詛返し! しまっ────!?」


「そら、お返しだ」


 晃弘(?)が前に向けた掌を『グンッ!』と握りしめる。

 直後、麗羅の背後に痩せこけた鬼神の影が現れ、大きな腕でその身体を上から押さえつけると、鬼火の灯った呪いの釘を次々と全身に突き刺していく。


「喝ッ!!!!」


 一〇八本の釘を全身に突き立てられた麗羅がハリネズミのようになったところで晃弘(?)が印を組み法力を送る。

 瞬間、麗羅の魔導霊装が粉々に弾け飛び、噴水のように全身から血が吹き出した。


「がはっ……!」


「フン、装備が殆ど肩代わりしたか。だが、もう貴様を護るものは何もない」


 いつの間にかまた意識の表層に浮上してきた役行者が、嗜虐の愉悦に口の端をニタリと歪め、膝をついた麗羅に掌を向けた。


「手始めに小僧の心を折ってやろう。懸想けそうする娘を惨たらしい肉塊へ変えたらどんな顔をするか、さぞや見ものだろうて!」


 役行者が五指の先に霊力の炎を揺らめかせ、麗羅に手を伸ばそうとした、その瞬間────


「……ゴフッ!? な……んだ、これは!?」


 役行者の目や口からドス黒い血がゴポッと溢れ出し、ビタビタと地面を濡らす。


「ふふっ、引っ掛かった」


 口から溢れた血を袖で拭いながら、麗羅が悪い顔で嗤い返す。


「装備を贄に見立てた報復術式!? 馬鹿な! この程度の呪詛に我の追儺の加護が破られるはずが……いや、なるほど。これは一本取られたようだ」


「惚れた方が悪いのよ」


 人の好意は負の感情へ転じやすく、負の感情こそが呪いの源となるのは呪術の基本中の基本だ。

 心は二つでも魂は一つ。

 ならば自分に惚れているらしい晃弘の心を利用すれば、間接的に役小角にもダメージが入るというわけだ。


「くっははははは! 小僧の想いすら利用するとは、恐ろしい小娘よ。これだから女は侮れん」


「私はバカヒロと戦ってんのよ! 邪魔者はすっこんでなさいッ!」


 麗羅が素早く印を組み、メイド服の袖に忍ばせていた鉄の針を投げつける。

 針は役行者の胸に吸い込まれるように突き刺さり、黒い血を吹き出しながら役行者の身体がボコボコと膨れ上がっていく。


「く、ははは……! よかろう。今は小娘の覚悟に免じて引いてやる。だが覚えておくがいい! 我は常に貴様らを深淵の底より覗き返していると────!」


 ────バンッ!


 と、まるで水風船が弾けるように膨れ上がった肉塊が爆発して、撒き散らされた肉片がビチビチと周囲を汚す。

 すると今度はビデオの逆再生のように肉片が寄り集まって、晃弘の身体が再構築された。


「怖っ! 陰湿! 流石に引くわ……」


「う、うっさい! 戦いに卑怯もクソもないわよバカッ!」


 惚れた弱みにつけ込んで、自責の念で自爆させたのは流石にやり過ぎだったかもしれない。

 というかそんな汚い手、使わずに済むなら使いたくなかったに決まっているではないか。


「くそっ、あのジジイ、しれっとバラしやがって……」


 晃弘がバツが悪そうに頭を掻いて麗羅から目を逸らす。

 本当は優勝して願いを叶えてからそれとなく伝えようと思っていたのに、あんな形でバラされては合わせる顔がなかった。


「……えぇい! しゃらくせぇ! 忘れろビーム!」


 羞恥と後悔の狭間で悶々として、結局考えるのが面倒になった晃弘は、力技で解決することにした。


「きゃーっ!? ……あれ、私何してたんだっけ……?」


 不意打ちで放たれた忘却の魔法がビビビと直撃して、麗羅がぽかんと間抜けな顔を晒す。


「とーどーめーだぁぁぁ! 波ぁぁぁ────ッ!!!!」


「はぁ!? えっ、ちょっ、まっ────!?」


 ゴォッ!!!! と、呆然としていた麗羅が極光に飲み込まれる。


 光が消え去ると、ボロボロの黒焦げアフロになった麗羅が「ケホッ」と焦げた息を吐き出して、そのままバタンキューと気絶した。



 そ、惣流院選手戦闘不能! 勝者、犬飼晃弘選手!



「……えーっと、我々はいったい何を見せつけられていたのでしょうか。怒涛の展開にツッコミが追いつきません」


「近年稀に見る酷い決着でしたね」


「と、ともあれ、これでいよいよ本大会も決勝戦を残すのみとなりました! 頼むから最後は真面目にやってくれ!」

えぇ……(ドン引き)

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[一言] 戦いというか、漫才?
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