準決勝 再戦! シャオロンvsメタルサムライ
大地をめくり上がらせるほどの暴風をものともせず、シャオロンが素戔嗚に向かって真っすぐに突き進む。
素戔嗚も必死に風を操りシャオロンを吹き飛ばそうとするが、仙術の極意を得たシャオロンの前では暴風の壁などあって無いも同然だった。
すべてのガードをすり抜けて懐に飛び込んだシャオロンの掌底が素戔嗚のアゴを強かに捉えた。
下から上に大きくかち上げられた素戔嗚は、インパクトの瞬間に流し込まれた霊力に魂魄を激しく揺さぶられそのまま昏倒。
試合開始から僅か五秒での決着だった。
「決まった────っ! シャオロン選手、やはり強い! 素戔嗚選手に手も足も出させませんでした!」
「圧倒的でしたね。元々素晴らしいセンスの持ち主でしたが、一晩で一皮剥けたような印象です」
「やはり昨日の敗北が彼を大きく成長させたのでしょうか!? 敗者復活戦を勝ち上がり決勝ブロックへの切符を手にしたのはシャオロン選手だぁ────ッ!」
敗者復活戦が終わり会場が歓声に沸く中、いよいよ決勝ブロックの対戦表が発表される。
決勝ブロック
劉小龍 VS メタルサムライ
惣流員麗羅 VS 犬飼晃弘
「さぁ、対戦表が発表されたところで早速決勝ブロック第一試合ですッ!」
西方 敗者復活戦を経て怒涛の決勝トーナメント入りを果たしたリヴェンジャー! リィィィウ・シャァァァァァオロォォォン!!!!
東方 Bブロックトーナメントを脅威の科学力で勝ち上がった天才メカニック! ヘパイストスの化身! メタルゥゥゥゥサァァァムライィィィィ!!!!
昏倒した素戔嗚が担架に乗せられて運ばれていくのと入れ替わり、機械鎧の武者が決戦の舞台へ足を踏み入れる。
メタリックブルーのボディは所々改良が施されており、Bブロック決勝の時と少しだけ見た目が違っていた。
歓声の雨を浴びて向かい合う両者。
先に口を開いたのはメタルサムライの方だった。
「なんとなく、こうなるんじゃないかって予感はありましたよ」
「今度こそは勝たせてもらいます。決勝で会おうって約束したのでね」
その約束の相手の気配が朝から感じられないのも、恐らく準決勝を前に最後の調整を行っているからに違いない。
この一ヵ月を共に過ごしたからこその信頼。
彼は必ず決勝戦まで勝ち上がり、自分の前に立ちはだかる。そんな確信にも似た予感があった。
「そうはイカのキ●タマ。微妙にキャラ被りしてるポッと出の新キャラに出番食われてたまるかって話です」
「何の話ですか?」
「分かんねぇなら黙ってろ爽やか野郎!」
『ビッ!』と中指を立てて悪態をついたメタルサムライにムッとするシャオロン。
互いに戦闘態勢に入り、場の空気がピンと張り詰めていく────
「両者見合って…………始めッ!!!!」
開始の合図と同時、メタルサムライの肩パーツが展開して、闘技場の四隅で透明化して控えていたロボットたちを起点に、フィールド全体を包み込む広範囲の停止結界が作動した。
前回の反省を踏まえ、効果範囲を地面の中にも広げると共に、発動までにかかる時間も三〇パーセント短縮されている。
直後、遥か上空からその様子を見下ろしていたメタルサムライの本体が地上へ向けて真っ逆さまに叩き落された。
各種センサーが遅れて警告を発する中、メタルサムライは即座に停止結界を解除して地面に着地、続けざまに振ってきた踵落としを紙一重で躱す。
激震。
狙いの逸れた踵が地面を蹴り砕き、立っていることすらままならないほどの揺れが地獄全体を大きく揺るがした。
反応速度を越えた超スピードによる一撃。躱せたのはほぼ偶然。
そこまでを一瞬で分析して、メタルサムライは迷わず切り札を切った。
「魂 魄 開 放ッ! 招来、デウス・エクス・マキーナ!!!!」
機械鎧が変形し歯車を背負った機神へと姿を変え、刹那、世界が色彩を失い、すべてが停止する。
鼻先数ミリの位置で止まったシャオロンの拳。一拍遅れて、ヘパイストスの額から嫌な汗がドッと噴き出した。
「危なかった……。時間を停められるとはいえ、僕自身は超スピードで動けるわけじゃないですからね」
それもやろうと思えばできなくはないが、それはさておき。
「時間さえ停めてしまえばこっちのもんです」
虚空から取り出した刀に手を添え、ヘパイストスが居合斬りの構えを取る。
鞘に仕込んだ電磁加速装置と機械鎧による補正でどんな体勢からでも神速の抜刀を可能とした自信作。銘を『超電磁刀【雷斬】』。
「今度は楽に終わらせてあげますよ」
匕首が紫電を放ち刀身が一気に音速を越えて加速する。
停止世界で超加速した刃は時を遡り、因果の逆転した不可避の斬撃となって襲い掛かる────────はずだった。
「同じ手は通用しませんよ」
「っ!?」
しかしシャオロンの首を断ち切るはずだった刃は、その本人の指に抓まれピタリと受け止められてしまった。
瞬間、刀が持っていた莫大な運動エネルギーが柄へと逆流し柄が爆発した。
とっさに刀を手放すことができたのは、時の停まった世界でも動けるデタラメな老人との戦闘経験があったからだ。
その経験が無ければ今の反撃で全身が爆散していただろう。
ヘパイストスが一瞬で干上がった喉をごくりと鳴らす。
「……まさかたった一晩で停止世界へ入門してくるとは思ってませんでしたよ」
「気合いと根性さえあれば何事もなんとかなるもんですよ」
足を前後に大きく開きカンフーの構えを取ったシャオロンに対し、ヘパイストスは全身のパーツを切り離し一回り小さくなってから、まったく同じ構えで応じた。
余計なパーツを取り払い外見的には随分とほっそりしたが、その全身から漂うただならぬ気配にシャオロンは警戒を最大にする。
「ま、それには大いに同意しますがね。一晩で強くなったのは君だけじゃないんですよッ!」
刹那、二人の拳が激突し、大地に巨大なクレーターが穿たれた。
すべて相手へと跳ね返るはずだったエネルギーが意図せず下へ逃げたことにシャオロンは僅かに目を見開く。
「君の能力を解析した格闘戦仕様の特別製です。一晩で仕上げた割には中々の完成度でしょう?」
「……恐ろしいな君は。たった一晩で僕の数年の努力を再現してしまうのかい」
「それが科学ってもんです。分析して、数値化して、デザインして、それまで個人の技術だったものを誰もが使える道具にする。人類はそうやって発展してきたんです!」
嬉々として語るヘパイストスの顔は、まるで憧れのスポーツ選手について語る子供のようで。
その瞳に宿る情熱に、かつて師の技に見惚れて弟子入りした自分の姿が重なり、シャオロンはふっと笑み崩れた。
「……なるほど。方向性は違うけど、根っこのところは似た者同士みたいだ」
「だから言ったでしょう。微妙にキャラが被るって」
「そうかもね。けど、だからこそ────」
「「お前にだけは負けたくないッ!!!!」」
互いの蹴りが交差して、その衝撃が小指の先ほどの一点でせめぎ合う。
こうなればあとはもう単純に、操れる力の総量が大きい方が勝つ。
互いの力量はほぼ互角。
高まり過ぎたエネルギーが二人の制御を離れて上空へと突き抜け、空が爆ぜた。
息つく間もなく打撃の応酬が始まる。
躱し、躱され、受け流されては反撃し、反撃しては受け流す。
達人同士の格闘戦はまるで最初から示し合わせた演武のように軽やかに、淀みなく続いていく。
元々シャオロンの動きを分析して機械鎧で再現したものなのだから、実力が互角なのは当然だった。
「だったらこれならどうですか!」
「くっ!?」
ヘパイストスの背部装甲が大きく開き、人間には存在しない第三・第四の腕が現れ猛攻撃が始まった。
流石のシャオロンも急に手数が倍になっては反撃もままならず防戦を強いられる。
ヘパイストスは更に腕を増やしてシャオロンを追い詰めていく。
だが────
(おかしい。これだけの手数で押しているのに攻めきれない……? っ! ま、まさか!?)
そのピンチが逆にシャオロンを急成長させていた。
相手の動きを観察し、瞬き以下の時間でその情報を肉体の動きにフィードバックさせる。
いったいどれほどのセンスがあればそんな芸当が可能となるのか。
一方的に押していたはずの戦況は再び互角に戻され、今度は逆にヘパイストスが防戦一方に押し込まれる。
成長し続ける人間と、一度作ったらそれまでの機械。その差がここにきて如実に現れ始めていた。
「くそっ! 機械に人間が勝つなんてそんなのアリですか!?」
「成長できない機械を作った時点で君の負けですよッ! 覇ァッッ!!!!」
六本にまで増えた腕の猛攻を掻い潜り、シャオロンの拳が胸のコアに突き刺さる。
機械鎧の表面に罅が入り、直後、機械鎧がガラスのように粉々に砕け散った。
鎧を失ったヘパイストスが血反吐を吐いて、どさりとその場に倒れ込む。
停止していた時が再び動き出し、審判が魂魄解放状態の解けた血まみれの少年に駆け寄りジャッジを下す。
メタルサムライ選手戦闘不能! 勝者、劉小龍選手!
「────っと、こ、これはどうしたことでしょう!? 凄まじい揺れがあったと思ったら、メタルサムライ選手が全裸でぶっ倒れていた────ッ!?」
「いやぁ、いいもの見させてもらいました。二人の激闘に拍手を!」
「何を見たんですか閻魔様!? えー、何があったのかものすごーく気になりますが、ともあれ、Bブロックでの雪辱を見事果たしたシャオロン選手、決勝戦進出ですッ!」
もうコイツが主人公でいいんじゃないかな




