ᗷブロック決勝 シャオロンVSメタルサムライ
Aブロックを勝ち進み決勝トーナメントのチケットを手に入れた俺は、選手用の特別観戦席でBブロックトーナメントを観戦していた。
「いよいよBブロックも決勝戦! 激闘を勝ち抜いた選手たちの入場ですッ!」
西方、前大会チャンピオンの弟子、ここまで無傷で勝ち上がってきました美貌の仙術使い! 劉小龍!
東方、特別参戦枠、試合ごとに性能が上がる脅威の機械鎧でこちらも無傷で勝ち上がってきました! 謎多き科学の使徒! メタルゥゥサムラァァァイ!
巻舌すぎて若干聞き取れない選手紹介を受け、ここまで勝ち残った2人が闘技場の中央へ進み出る。
「絶対に負けられないのでね。勝たせてもらいますよ」
「……話し方といい、微妙に僕とキャラが被るんですよねぇ。キミ」
「……なんのことです?」
「敬語キャラは二人もいらねぇってことですよ爽やか野郎!」
タッツn……もといメタルサムライが刀を八相に構えた。
それに対してシャオロンも手足を前後に大きく開いたカンフーの構えで向かい合う。
「両者見合って! ……始めッ!!!!」
メタルサムライの腰についたサブアームが展開して、バルカン砲が火を吹いた。
刀で斬りかかると見せかけての銃撃。機械鎧の特性を生かした先制不意打ちだ。
シャオロンは蛇のように滑らかな動きで銃火の嵐を掻い潜り、飛び交う銃弾の運動エネルギーを仙術で奪いさらに加速。
メタルサムライの懐へ滑り込んだシャオロンがメタルサムライの胸部装甲に必殺の掌底を叩き返す。
「その動きは予測済みです」
インパクトの寸前、メタルサムライの胸部装甲が開いて毒霧が噴射された。
顔に毒霧を食らい一瞬だけシャオロンが怯んだ隙にメタルサムライが半歩下がり、構えていた高周波ブレードを振り下ろす。
「甘いよッ!」
真剣白刃取りで高周波ブレードを受け止め刃をへし折り、周囲からかき集めた力を乗せたシャオロンのカウンターパンチが炸裂した!
「こ、これはどうしたことだ!? 激しい近接戦の末、シャオロン選手の拳が決まったように見えましたが、両者まったく動きません!」
「仙術を使い一連の動きで発生したすべての運動エネルギーを相手の体内へ向けて叩き込んだシャオロン選手に対して、メタルサムライ選手は装甲の一部を切り離してギリギリ回避したようですね。高度な一瞬の攻防でした」
シャオロンの拳を受けてビー玉サイズまで圧縮された装甲の一部が地面にコロリと落ちる。
「……やりますね」
「ふひー、危ない危ない。危うく肉団子になるところでしたよ。そろそろ毒が全身に回ってきたんじゃないですか? このまま眠らせてあげますよ」
機械鎧の隙間から先の尖った細い管が蛇のようにしゅるりと伸びて、シャオロンに突き刺さる。
「この程度!」
シャオロンが息を「フッ!」と短く吐くと、シャオロンの腹の底で霊力が渦巻き体表からオーラが沸々と湧き上がる。
「撥ァッ!!!!」
「かはッ!?」
突き刺さった管を掴んでメタルサムライを強引に引き寄せたシャオロンは、鋭い膝蹴りで相手の身体を宙に浮かせ、目にも留まらぬ連打を叩き込む。
仙術によりメタルサムライの体内へ向けて集約した運動エネルギーが金属のボディーを瞬く間に細く小さく圧縮させ、針金のように細くなったボディーを鋭い回し蹴りが叩き折った!
「内功を極めれば毒なんて効きません」
「ぐ、が、ギギギ……! なるほど、随分と応用の効く能力のようですね。参考になりましたありがとう」
次の瞬間、折れて真っ二つになったメタルサムライの身体を起点に半球状の黒いドームが展開して、シャオロンがドームの中に閉じ込められた。
あれはまさか「絶無氷獄」!?
あの野郎! 俺の術盗みやがったな!?
すると東側ゲート近くの空間が揺らぎ、透明になっていたメタルサムライの本体が姿を現す。
「くっくっくっく……。ヒロの魔法を参考にやっつけ仕事で組み込んだ仕掛けでしたが、上手いこと起動してくれましたね」
「まさかまさかの展開であります! なんと今までメタルサムライ選手だと思っていたのは精巧に作られたロボットだったーっ! 本人は光学迷彩で隠れてずっと試合を観察していたようです! これは一対一のルールに反するのでは!? そこのところどうなんでしょう閻魔様!」
「ロボットはあくまで武器の一つです。よってルール違反にはあたりません。分身の術を使う選手だっているんですから今更でしょう」
「閻魔様からお許しが出ました! 試合続行です! さあシャオロン選手。あらゆるエネルギーの停止した結界から一〇カウント以内に脱出できるのでしょうか!?」
審判がカウントダウンに入った。
一〇……九……八……七……六……
会場全体が手に汗を握り固唾を飲んで試合の行く末を見守る。
五……四……三……二……一……
誰もがもうダメだと思い、メタルサムライが勝利を確信して気を緩めた、その瞬間────!
ズッドォォォォォォ────ン!!!!
地面を突き破って飛び出たシャオロンのアッパーカットがメタルサムライの顎を強かに捉えた!
「なんということでしょう! シャオロン選手、結界に捕らわれる前に地面にトンネルを掘って回避していたーッ!」
「土竜拳とは随分とマイナーな拳法を修めていますね。気が緩む一瞬を狙って息を潜めていたのも高評価です」
シャオロンの拳を受けて空き缶のように潰れた頭から火花を散らし、メタルサムライが爆発四散。爆発と同時に白煙が『ボフンッ!』と広がり、闘技場の様子が何も見えなくなった。
「……できれば決勝まで隠しておきたかったんですがね。あなたはちょっと強すぎる」
魂 魄 開 放
シャオロンが身体を回転させて竜巻を起こし白煙を吹き散らすと、異形の神の姿が顕わになった。
バチバチと紫電を散らす胸元のコアを中心に構成された機械の身体。
大きな歯車を背負い、右手には大きな鎚を持ち、燃え盛る左目を黒いレザーの眼帯で封じている。
「何ということでしょうかッ! Aブロックに続いてこのBブロックにも神の転生体が息を潜めていたようです! ギリシャの神ヘパイストス様だぁーッ!」
「彼は神話の時代以降、純粋にモノ作りを楽しみたいからと、ずっと人間に転生していましたからね。あの奇妙な姿も度重なる転生で積み上げた研鑽の結果に他なりません。これは強敵ですよ。ワクワクしますね!」
目をキラキラさせて拳を握りしめる閻魔様の解説を他所に、ヘパイストスの記憶と力を引き出したメタルサムライが手を掲げ、朗々と唄いだす。
「踊れや踊れ我が剣。廻れ廻れよ歯車よ。我が鉄床より生まれし機械仕掛けの神。その鋼の心臓に火を灯そう」
────招来 機械仕掛けの時空神
刹那、世界は色を失い、すべてが完全に停止した。
時空の裂け目から巨大な機械の腕がずるりと下りてきて、動かないシャオロンの身体を無造作に握り潰す。
機械の腕が時空の裂け目に去ってゆき、停止した世界が再び動き出し────……
────ブシャァァァァァ!!!!
噴水のように血を撒き散らし、潰れたシャオロンがビクビクと痙攣を繰り返す。
うげぇ!? 地獄だからああなっても死ねないのか。可哀想に。
あれではもう動けまい。勝負ありだ。
シャオロン選手戦闘不能! 勝者、メタルサムライ選手!
「こ、これはいったい何が起きたのでしょうか!? ヘパイストス選手が手を掲げたと思ったら次の瞬間にはシャオロン選手が潰れたトマトみたくなっていたーッ! 催眠術や超スピードなんてチャチなもんじゃ断じてない、恐ろしい何かの片鱗を垣間見た気がしますッ!」
「時間停止攻撃ですね。果たして今の一撃を認識できた猛者がこの会場にどれほどいたでしょうか」
元の機械鎧の姿へと戻ったメタルサムライが俺に視線を向けてくる。
あの野郎、第二段階を完全に制御してやがった……!
「時間停止攻撃とはまた恐ろしく画面映えしない攻撃ですね! 何が起きたかまったくわかりませんでした! ともあれBブロック決勝戦を制したのは、恐るべき技術力の結晶! メタルサムライ選手だぁーッ!」
「敗れてしまったシャオロン選手も、まだ敗者復活戦で勝てば決勝戦進出のチャンスはありますからね。二人の健闘に盛大な拍手を!」
悔しさをバネに敗者復活戦から決勝戦入りって熱いよな!




