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Aブロック 2回戦 第1試合 VSグレート筋肉マスク

大国主オオクニヌシ選手の太刀を肩で受け止め、ヘラクレス選手、拳で反撃ィ―ッ! 顔面にモロに入りました! あーっと!? 大国主選手立てない! 完全にマウントを取られた! 国津神一の美貌がズタボロにされていく―ッ!」


 応援席から女性たちの悲痛な叫びが響く中、大国主が気を失ったのを見て取った審判がヘラクレスを止めに入った。



 ────そこまでッ! 勝者、ヘラクレス!



「ここでレフェリーストップだァ―ッ! ギリシャの英雄、半神ヘラクレス選手! 圧倒的なフィジカルで二回戦進出です! これでAブロック一回戦の試合はすべて終了! 二回戦へと進む八人が出揃いました!」



 控室のモニターが切り替わり、画面に二回戦へ進出した八人の顔と名前が表示される。



 グレート筋肉マスク


 犬飼晃弘


 素戔嗚尊


 ベーオウルフ


 桃太郎


 カルナ


 孫悟空


 ヘラクレス



「いずれも名だたる英雄ぞろいの中、特別参戦枠の二人にも注目が集まりますッ! それでは早速参りましょう。Aブロック二回戦第一試合です!」



 西方 特別参戦枠。神話の英雄すらも凌駕した恐るべき筋肉モンスター! グレート筋肉マスクゥゥゥゥ!!!!


 東方 特別参戦枠。一回戦では圧倒的なセンスを見せつけ観客の度肝を抜いた期待の超新星! 現人神、犬飼ィィィ晃弘ォォォ!!!!



 一回戦よりもやや巻き舌になった選手紹介を背に浴びつつ、控室を出た俺は闘技場のフィールドへと繋がる通路を進む。

 そういえば、アイツとこうして一対一でり合うのは中学校のとき以来か。


 薄暗い通路を抜けると視界が開け、眩さに少し目を細める。

 視線の先に立つのは、過去最高に身体を仕上げてきたプロレスマスクの筋肉野郎。



「こうしてサシでり合うのは中学以来か」


「さぁ、なんのことやらな。今の俺はグレート筋肉マスクだぜ。お前の幼馴染なんざ知らねぇよ」


「俺は幼馴染なんて一言も言ってねぇけどな」


「ん……? あぁっ!? くっそカマかけたなこの野郎!」


「自分で自爆しただけだろ……」



 ほんと、脳みそまで筋肉だなコイツ。バカなのはヒョロガリだった頃から変わんねぇけど。



「ええい、しゃらくせぇ! ブン殴って忘れさせてやる!」


「ハンッ! 軽く捻り潰してやっからかかってこいや!」


「上等だオラァ!!!!」


 グレート筋肉マスクのオーラが炎のように燃え上がり、それに伴い筋肉が熱した鋼のように赤熱していく。

 中学の頃とは比べるべくもないほど大きく逞しくなったのは認めるが、力推しだけで俺に勝てると思うなよ!



「両者見合って! ────始めッッ!!!!」



 音を置き去りにした拳同士がぶつかり合う。

 一拍遅れて俺たちを中心に足元にクレーターが穿たれ、衝撃波が客席を護るバリアをビリビリと揺らした。


 なんだ今の!? 正面からかち合うつもりなんてなかったのに、俺の拳が引き寄せられた!?


「オラオラどうしたァ! ギア上げてくぞッ!」


 拳を通じて俺の力がグレート筋肉マスクに流れ込み、筋肉がさらに大きくパンプアップしていく。

 拮抗していた力のバランスが徐々に崩れ、グレート筋肉マスクが全身に力を込め拳を殴り抜くと、俺の身体が大きく後ろへ弾き飛ばされた。


「まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」


 瞬間移動じみた踏み込みで俺の上を取ったグレート筋肉マスクが、大斧のように振り上げた必殺の踵を振り下ろす!

 やっば!? 緊急回避ッ!


 上空へ転移してどうにか踵落としから逃れた直後、空振った踵が『ズガァンッ!!!!』と地面を叩き割り、飛び散った石礫が散弾のように宙を舞う。


「ちっ! 避けやがったか」


 土煙の中に立つ影が両目をギラリと光らせゆらりとこちらを振り向く。

 ヤベェなこりゃ。この調子だとエネルギー系の技は全部喰われて無効化されそうだ。


 それなら!


「凍っちまえ筋肉野郎ッ!」


 魔神の権能を開放し、新たな魔法を即興で組み上げていく。

 効果は対象の持つエネルギーの消失。範囲は指定対象を中心に半径五メートルに設定。


絶無氷獄アブソリュート・ゼロ!!!!」


 魔法が発動し、グレート筋肉マスクを中心とした半径五メートルの範囲からあらゆるエネルギーを消失させるドーム状の檻が形成された。

 光、重力、熱、霊力、運動エネルギー、すべてが発生した側から消失する暗黒領域だ。これだけやれば流石にもう動けねぇだろ。


「あらゆるエネルギーを消失させる魔法とは考えましたね。あれでは身動き一つ取れないでしょう」


「なんとグレート筋肉マスク選手、恐るべき魔法の牢獄に捕らわれてしまったぁーッ! このまま決着してしまうのかー!?」


 会場全体が固唾を飲んで状況の行く末を見守る中、グレート筋肉マスクは動きを見せない。

 しびれを切らした審判が一〇カウントに入った。


 一〇……九……八……七……



 魂 魄 開 放 



 『バキンッ』と暗黒のドームに亀裂が走り、内部から燃え盛る劫火の光が溢れ出す────!

 ば、バカな! 俺の魔法でも消しきれない熱量だと!?



「この火天の炎を消そうなんざ、そりゃ思い上がりってなもんだぜ」



 闇のドームを突き破り、燃え盛る髪を逆立て劫火を背負った炎神の雄々しき姿が顕わになる。

 ……その可能性を考えなかったわけじゃない。

 ただ、俺でもまだ完全な制御には至っていない力を、アイツが習得できているはずがないと心のどこかで侮っていたのだ。



「第二段階……ッ! お前も到達してやがったか!」


「……ああ、そうだ。全部思い出したぜ。オレは退屈が嫌で記憶を消して輪廻の輪に乗って転生してたんだ。やっぱ下界ってのは面白れぇなァ! 神話の時代が終わっちまってずっと退屈してたが中々どうして今の世も刺激的じゃねぇかよハハハハッ!」



 火天が喜びも顕わに腕を大きく広げれば、『轟ッ!』と背中の炎が揺らいで周囲が灼熱地獄へと様変わりしていく。

 どうやらアイツもまだ前世の人格を御しきれているわけではなさそうだ。

 なら、付け入る隙はそこにある……ッ!



わりぃけどその身体はダチのもんなんだわ。返してもらうぜ!」


「オイオイそりゃねぇだろ! これから楽しくなるってときによォ! そうだな、まずは手始めに現世に出て美味いモンたらふく食うのも悪くねぇな!」


「させるかバカ野郎! お前が地上に出たら地球が燃え尽きちまうわ!」


「ンなもん燃えちまう弱っちい奴が悪い! 派手にBBQと行こうやヒィーハァーッ!」



 くそっ、これだからインド神話の神は!



「これはなんということでしょう! グレート筋肉マスク選手の正体は火天アグニ様であらせられたーッ!」


「深淵から記憶と力を呼び起こすとは無茶なことを。というか、人の身で神の炎を扱えるとかヤバいですねぇ。ちょっとウズウズしてきちゃいました」


「これには閻魔様も興奮を隠しきれないご様子! さあ真の力を解放したグレート筋肉マスク選手改めアグニ選手に犬飼選手はどう立ち向かうのか―ッ!?」



 アグニが天地上下の構えを取ると、それに呼応するかのように炎が轟々と渦を巻きさらに温度を上げていく。

 火鼠パーカーが無かったらとっくに黒焦げになってたな。地獄の最下層より熱いとかどうなってんだ!



「へぇ、いい服持ってんじゃんよ。そりゃ火鼠の革か。オレの炎でも燃えないたぁ大したもんだぜ」


「かわいい神様お手製の特注品だよ。本気で行くぜ……ッ!」



 神力全力開放! 変身、混沌魔神モードッ!!!!



「こ、これはーっ!? 犬飼選手の姿がみるみる禍々しく変貌していきます! 六本の腕と悪魔の翼、髑髏の王冠と二本のねじれ角を頭に頂く姿はまるで鬼神か魔王のようであります!」



「魂 魄 解 放!!!!」



 そこから更にギアを一段階引き上げ、姿形はそのままに全身を光り輝く神力の塊へと変えていく。

 一瞬で変身を終えた俺はアグニへ向けて無数の光の剣をマシンガンのように撃ち出した。


「ハッハァ―ッ! こんなもんかよォ!」


 アグニが牙を剥き両手を無造作に振えば、紅蓮の焔が渦巻いて光の剣を燃やし尽くしていく。


「かかったなアホめ!」


 光の剣が炎に巻かれた直後、俺は指を鳴らして密かに組み上げていた魔法を発動した。


「────ッ!?」


 瞬間、光の剣が周囲で燃え盛る炎を『ギュルンッ!』と吸収し、極寒の冷気へと変換しながらアグニへと突き刺さる。

 熱で真っ赤になったアグニの身体がみるみる冷えてゆき、自らの熱量で芯から白く凍りついてゆく。


「ぐ、ががががっ!? なんの、これしきぃぃぃぃぃッ!!!!」


 アグニの瞳が『カッ!』と輝き、全身に走った亀裂から眩い光が溢れ出す。

 野郎! 強引に術式ごと燃やし尽くすつもりか!?


「これで終わりだッ! カァァァァ────ッ!!!!」


 裂帛の咆哮に乗せて超高温の大火球が俺に迫る。


「いいや、お前の負けだよ」


 俺は最後の決め手に用意していた魔法を発動した。



深淵門アビスゲート!!!!」



 アグニの背後に深淵へ通じる大穴が開き、この場に存在するあらゆるものを轟々と吸い込み飲み込んでいく。


 勢いを削がれ熱量を奪われた火球はまるでロウソクの火のように掻き消え、客席を護っていた結界すらも吸われて消え去り、会場から狂乱の悲鳴が巻き起こる。


「こ、これ、まずくないですか閻魔様!?」


「深淵の入り口を開くとは無茶をしますね! 私、俄然ワクワクしてきました!」


「だめだ聞いちゃいねぇこのバトルジャンキー!? 皆さん! 逃げてください! ここは危険です! 逃げてーッ!」


「深淵に還れ! 火天アグニッ!」


 俺は六つの掌から魔法の鎖を飛ばしてグレート筋肉マスクの身体を巻き取り、こちら側へ『グイッ!』と思い切り引っ張った。

 すると深淵に吸い寄せられたアグニの神格がグレート筋肉マスクの身体から引き剥がされて、昏い穴の底へと落ちていく。


「ぐおぉぉぉぉッ!? おのれぇぇぇぇ────────…………」


 『ガオンッ!』と大穴が閉じ、気を失ったグレート筋肉マスクがどさりとその場に倒れ込む。

 柱に掴まりどうにか耐えていた審判がよろよろと立ち上がり、倒れ伏したグレート筋肉マスクへと近づいていく。

 そして完全に気を失っていることを確認して、審判は「うむ」と頷いた。



「グレート筋肉マスク選手戦闘不能! 勝者、犬飼晃弘選手!」



話のテンポの都合で本編にぶち込めなかった設定集 その1


※興味ないねって人は読み飛ばしてちょんまげ


深淵とは


深淵とは輪廻転生を繰り返す魂の情報保管庫である。

深淵には過去・未来・現在、ありとあらゆる魂が現世で得た情報が収められている。


通常、新たに転生する魂は魄を洗い流され、まっさらな状態で新たに生まれ変わる。

稀に前世の記憶を持って生まれてくることがあるが、これは魂魄の魂に記憶が深く刻まれているため。

(魂は永久不変の核、魄は生命活動によって蓄積されていくオーラのようなもの。記憶、経験とも言い換えられる)


魔術師などはこの性質を利用し魂に直接記憶を刻み込んで記憶を保持したまま転生する。


深淵は無限の容量があり、神々が下界へ転生する際には記憶と一緒にその権能をここに収めて転生する。

魂魄解放第2段階は、この深淵に収められた力と記憶を引き出すことで劇的なパワーアップを果たす秘奥義である。


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