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Aブロック 第2試合 VSマスクド・マジカル

 闘技場のフィールドへと続く通路で、俺は静かに目を閉じ呼吸を整える。

 コンディションは万全。今朝はウンコのキレが良かった。だから大丈夫。


「っよし!」


 両手で頬をバチンと叩き気合いを入れて、俺は光射す通路の出口へと足を踏み出した────



「さぁ続きましてAブロック第二試合です!」



 西方、特別参戦枠での参加、現世に生まれし新たな現人神にして前大会チャンピオンの孫! 犬飼晃弘!


 東方、こちらも特別参戦枠、仮面の下にキュートな笑顔を隠した魔法少女! マスクド・マジカル!



「……お前小春だろ」


「な、なんのことでござるか!? 拙者はどこにでもいる普通の魔法少女でござる!」


「いや、ござるて……」



 見覚えしかないピンクのフリフリ衣装に紫のパピヨンマスク。

 一応髪形はツインテールに変えているし、声音も意識して若干低くしているようだが、その程度の変装でなぜバレないと思ったというレベルだ。


 なぜ小春がこんなところにいるのかは謎だが、どうせ臥龍院さんが絡んでいるに違いないから考えるだけ無駄だろう。

 悪いが妹と言えど手加減は無しだ。本気で勝たせてもらうぞ!



「両者見合って! ……始めッ!!!!」



 刹那、俺の体重が何千倍にも膨れ上がり、俺の両足が地面に大きく沈みこんだ。

 そこへ光の楔が俺の手足を縫い止めるように打ち込まれ、ダメ押しとばかりに漆黒の鎖が俺の身体を雁字搦がんじがらめに縛り上げる。


 くっ……! 霊力を封じられた!?


「これでもう動けないっしょ! 悪いけど勝たせてもらうから!」


 マスクド・マジカルがステッキの先端を俺に向けた。

 アレがくる……っ!



「グラビティバスタ────ッ!!!!」



 ハート型の飾りがステッキの先端から切り離され、超荷重魔法により漆黒の重力球へと変じたそれが周囲の空間を歪めながら俺へと迫る。


 ブラックホールで相手の防御力を無視して押しつぶす、魔王軍四天王【鉄壁】のグラーギすら葬り去った小春の必殺技。


 ただでさえ凶悪だった技はあの戦いからさらに成長し、封印術で転移系の脱出手段を封じ、絶対に回避不可能な理不尽極まりない究極技として完成したようだ。


 確かに並の相手なら抵抗すらできず、そのままスパゲッティ状に引き伸ばされて終わりだろう。



 ────けど、成長してるのはお前だけじゃねぇんだよ!



「なんのこれしき!」



 仙術の極意は周囲の力を利用すること!

 俺の力を封じたところで無駄無駄無駄無駄ァ────ッ!!!!



「おおーっと!? マスクド・マジカル選手が放ったブラックホールが犬飼選手の周りをぐるっと回って跳ね返っていくぞーっ!」


「はぇっ!? ちょ、待って待って待って! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬきゃ────っ!?!?!?」



 ドッッカァァァ────────ン!!!!



 ぐるりと小春へ跳ね返ったブラックホールが大爆発を起こす。

 観客席を守る結界がビリビリと震え、破滅的な衝撃波のすべてを吸収して、やがて震えがピタリと止まる。


 爆炎が徐々に晴れていくと、ボロボロになったマスクド・マジカルが「ケホッ」と煤けた息を吐き出し、力尽きたようにバタンとその場にブッ倒れた。



 マスクド・マジカル戦闘不能!


 勝者、犬飼晃弘!



 爆発のせいで頭がアフロになってしまったボロボロのマスクド・マジカルが担架で運ばれていく。


 ここは死後の世界なのでどれだけ大怪我をしても死なないし、仮に肉体が完全に消滅しても元通りに再生してくれるらしいので安心して全力を出せる。



「いやぁ、大迫力のバトルでしたね! 閻魔様は今の戦いをどうご覧になりますか」


「犬飼選手は『力』のコントロールが上手いですね。自身の霊力を封印された状態でもまったく怯みませんでした。マスクド・マジカル選手も短時間であれほどの魔法を組み上げる腕前は見事でした。並の仙術使いでは力を御しきれずにそのまま押しつぶされていたでしょうね」


「なるほど! いやはや素晴らしい勝負でした! 二人に盛大な拍手を!」



 客席からの拍手の雨に手を振りつつ、俺はバトルフィールドを後にした。



 ☆



「ふふふ、見違えたわね」


「男子三日会わざれば刮目して見よですな」


「小春も晃弘相手によく健闘したもんだ。流石俺の孫たちだぜ」


 円形闘技場を見下ろす特別観覧席で三人の強者たちが満足げな笑みを浮かべ、たった今行われた試合の感想を口々に述べあう。


「しっかし、アンタは俺の孫をどうするつもりなんだ」


 一転、晃助爺さんの瞳に剣呑な光が宿り、和やかだった場の空気がピンと張り詰める。

 事と次第によっては力の行使もいとわない。そんな意志を秘めた強い視線。


 英雄の素質を兼ね備えて生まれてくる人物は稀にいるが、死後にその素質を大きく開花させここまで強くなったのは長い人類史の中でもこの爺さんだけだった。


「別に取って食ったりはしないわよ」


 しかし喪服の女主人は老爺の視線を受けても余裕の笑みを崩さず答えをはぐらかすばかりだ。


「答えるつもりはねぇと?」


「まだそのときではない。どこで誰が聞いているか分からないもの」


「アンタに気づかれずに盗み聞きできる奴なんざそうそういねぇと思うがな」


 つまり彼女が想定している『敵』はそれほどの相手ということか。


「彼にはもっと強くなって貰うわ。なんとしても、ね……」


 強い意志のこもった言葉に、晃助爺さんは腕を組み「フンッ」と不満そうに鼻を鳴らした。


「しっかし、アンタらはちっとも変わらねぇな。俺なんかこんなシワシワになっちまったってのによ」


 これ以上の回答は得られないと悟り、晃助爺さんは話題を変えた。


 この喪服の女主人たちと出会ったのは五〇年以上前。

 山奥で燃料切れを起こしエンストして途方に暮れていたところを、屋敷に一晩泊めてもらったのが最初の出会いだ。

 それ以降も何度か偶然出会い、不可解な事件の解決を手伝ったことも一度や二度ではない。


「あなたこそいつまでも若々しくて羨ましい限りだわ。いつまでも心を若く保つ秘訣を是非ともご教授願いたいのだけど?」


「ケッ、嫌味かよ」


 喪服の女主人は本心からそう思っていたが、半世紀前とまったく姿の変わらない怪物に言われても嫌味にしか聞こえなかった。




「さぁどんどん参りましょう! Aブロック第三試合です!」




 西方、高天原きっての破天荒男! 素戔嗚尊スサノオノミコト


 東方、特別参戦枠! マスクド・ダークネス!



 実況の声に闘技場のフィールドへ目を向ければ、派手な着流しを着崩したゴロツキ風の男と、扇情的な黒いドレスを身に着けた仮面の女が東西のゲートから出てきたところだった。


「ヒューッ! 姉ちゃんイイ身体してんじゃねぇのよ。試合なんざすっぽかしてちょっと俺っちと遊ぼうぜ」


「私、チャラい男って嫌いなのよねぇ。見苦しいから一瞬で沈めてあげるわぁ」


「ハッハー! 心外だなぁ。俺ってば意外と一途なんだぜ?」


 素戔嗚スサノオが嵐の気配を纏ってニィと牙を剥く。

 身体の周囲で風と雨雲が渦巻き、バチバチと紫電が迸る。


「はぁ……御託はいいわ。────とっとと終わらせてあげる」


 マスクド・ダークネスが気怠げに溜息を吐き両腕を広げると、その足元から濁った闇の塊がザワザワと湧き上がり────


 

「両者見合って! ……始めッ!!!!」



 猛り狂う雷雲の塊と、すべてを飲み込み喰らう闇が真正面から衝突した!



 ☆



 次の試合までの暇つぶしに、俺はマスクド・マジカルを見舞うため医務室へと顔を出した。

 医務室には奥の方までずらりとベッドが並んでいて、それぞれがベージュのカーテンで仕切られている。


 入り口の近くには診察台と診療机があり、お札で封印された薬棚の中には、漢方薬の材料らしき怪しげな根っこや目玉が瓶に詰められて所狭しとならんでいた。



「はーいくっつけますよ~。痛かったら叫んでくださいね~。多少は気が紛れますから」


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁ────────ッ!?」



 クーフーリンの地獄のような絶叫が木霊する中、ベッドを端から覗いて行くと身体のあちこちに湿布をペタペタ貼られたパピヨンマスクの少女を見つけた。


「よぉ、大丈夫か小春」


「……拙者はマスクド・マジカルでござる」


「まだその設定続けるのか」


「設定言うな! で、ござる! 痛たた……うぅ、薬くしゃい」


 小春が仮面の下で顔をくしゃっとさせて涙目になった。

 確かに湿布からは薬草を潰したような独特の臭いがツンと漂っている。

 あれだけの大爆発に巻き込まれたのにこの程度の怪我で済んでいるのは、魔導霊装の防御機能のおかげか。


「どうせ臥龍院さんに焚きつけられて参加したとかそんなとこだろ」


「な、何のことやら。えーっと……そう! 拙者たちはミセス・ドラゴンの世界征服の野望を叶えるために現世から送り込まれた悪の大幹部ナリよ!」


 マスクド・マジカルが露骨に目を逸らしさらに余計な設定をブッ込んでくる。

 いやミセス・ドラゴンて……まんまやんけ。

 どうせ優勝したらどんな願いも一つだけ叶うって言われてホイホイついてきたんだろうな。我が妹ながら分かりやす過ぎる。


「語尾が不安定だなぁ」


「う、うるさいうるさい! 見世物じゃないでござる! とっとと出てけーっ!」


「はいはい、お大事にー」


 枕を投げつけられ、俺は思わず苦笑して医務室を後にした。



マスクド・マジカルはかわいい(確信)

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