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大三千世界一武闘会

 ここは地獄の一丁目。

 大通りから道を一本外れた所に鍛冶場はあった。


っつ……すんませーん。閻魔様に言われて来たんすけどーっ!」


「あぁ!? おう来たか!」


 金槌の音に負けないくらいの大声で人を呼べば、一つ目一本足の妖怪がこちらを向く。イッポンダタラだ。

 アゴをしゃくって俺を奥へと招いたイッポンダタラが、作業台の上に置かれていた布を広げて、開口一番、俺に頭を下げた。


「すまんっ! 閻魔様から預かってた兄ちゃんの剣なんだがよ、打ち直してる途中で炉の炎が凍っちまって、温度差でバラバラに砕けちまったんだ」


「えぇーっ!?」


 広げた布の上には粉々に砕けた我が愛刀の無残な姿が。

 ああ、そんな! こんな姿になっちまうなんて!

 ごめんよ相棒……。俺がもっと強ければ、あんなクソジジイに身体の主導権を明け渡したりしなかったのに……ッ!


「こりゃ全部溶かして打ち直しても、元の性能は発揮できねぇだろうなぁ。何か繋ぎになりそうなすげぇ謂れのある武器か、伝説の金属でもあれば話は別なんだがよ……」



 繋ぎになりそうな謂れのある武器?

 …………あるじゃん。お誂え向きの強化素材(粗大ごみ)が!



「じゃあ、これとかどう?」


 俺はボロボロに欠けた抜き身の刀をイッポンダタラに見せた。


「そ、そりゃ天羽々斬か!? けど、いいのか? この世に二つとねぇ貴重なもんだぞ」


「いいんだよ。元の持ち主が賭場のチップにしちまうくらいのボロだし。それにどうせこのままじゃ大して役にも立たないだろ」


「……わかった。神代の名剣を潰すんだ。最高の一振りに仕上げてやる。ただし、時間はかかるぞ」


「どれくらい?」


「大会中にギリギリ完成するかどうかってところだな」


「わかった。楽しみにしてる」


「おう、任せとけ!」


「あ、そうだ。ついでにコイツをイイ感じに仕立て直してくれそうな職人がいたら紹介して欲しいんだけど」


 婆ちゃん家のタンスのニオイがする火鼠の革衣と、ダサい上に臭い聞き耳頭巾をイッポンダタラに見せる。


「ほぉ、こりゃまた立派な革衣だ。頭巾も強いまじないが織り込まれてやがる。こんなもんどこで手に入れた?」


「賭場の景品だよ。天照様に頼まれて、素戔嗚スサノオ様がチップにしたのを俺が取り返したんだ」


「元は高天原の秘蔵品って訳か。これだけのモンを仕立て直せるとなれば少彦名スクナビコナ様しかいねぇな。けど、気まぐれなお方だから、今どこにいらっしゃるか分かんねぇぞ?」


「よんだ?」


「「うおっ!?」」


 俺たちの会話に割り込むように、手のひらサイズの女の子がクソダサ頭巾の隙間からぴょこっと顔を出す。


「こ、こりゃ少彦名スクナビコナ様じゃねぇですか! そんなとこに隠れてらしたんですかい」


「なおすよ!」


 少彦名様がちっちゃなリュックから針と糸を取り出すと、目にも止まらぬ速さで火鼠の革衣と聞き耳頭巾が縫い合わされ、仕立て直されていく。


「できたよー!」


「おおっ! カッケー!」


 あっという間に仕立てが終わり、二つの宝具はフード付きの赤いパーカーへと姿を変えた。

 これなら普段使いしても違和感なく着れそうだ。

 変な臭いも消えたし肌触りも良い。


「バイバーイ!」


 俺の反応に満足したのか、少彦名様はニコニコとリュックを背負い『とててて』と火事場から出ていってしまった。

 かわいいなぁ。


「兄ちゃん運がいいぞ。あのお方はあの通りっせぇから、探そうと思ってもそうそう見つからねぇんだぞ」


「へへっ、日頃の行いがいいんだよ。んじゃ、倶利伽羅剣のこと頼んだぜ」


 イッポンダタラに天羽々斬を渡して、俺は火事場を後にした。



 ☆



「ではこれより、大三千世界一武闘会を開催します!」


 選手控え室のモニターに閻魔様の姿が映し出される。

 開催宣言に会場が『ワッ!』と沸き立ち、歓声に円形闘技場の壁がビリビリと震えた。


 今からいよいよ、天界、地獄界、仙界の三つの世界で一番強い奴を決める武の祭典が始まるのだ。


 へへっ、ワクワクしてきたぜ!



「続きまして前回大会の優勝者よりトロフィーの返還が行われます!」



 司会者のアナウンスがあり、前回の優勝者────爺ちゃんが大きなトロフィーを掲げて闘技場の中央へと進み出る。


「爺ちゃん前回の優勝者だったのかよ! 聞いてねぇぞ!?」


「えっ!? 僕はてっきり師匠から聞いているものだとばかり」


 と、逆に驚いたような顔をするシャオロン。

 なんでいっつも肝心なことばっかり言わねぇかな、あの人は!



「今トロフィーが返還されました! レジェンドに盛大な拍手を!」



 トロフィーが返還され、会場を万雷の拍手が満たす。



「続きまして、いよいよ皆さんお待ちかね。対戦表の発表です!」



 ここで画面が切り替わりいよいよ対戦表が表示される。

 俺はAブロックで、シャオロンはBブロック。レイラはCブロックか。

 三人とも順調に勝ち進めば決勝ブロックで当たるわけだ。


「へっ、熱い展開じゃねぇか」


「決勝ブロックで会いましょう」


「おう!」


 再開の約束を交わし、拳を突き合わせてそれぞれの控え室へと移動する。


 ……つーか、さっきからレイラの姿が見あたらないけど、どこにいるんだアイツ。

 トーナメント表に名前はあるから出場はしてるんだろうが……トイレか?



「さぁーっ、それでは早速Aブロック第一試合と参りましょう!」



 西方、グレート筋肉マスク!


 東方、ケルト神話の英雄、クーフーリン!



 司会に紹介された二人が闘技場のゲートから姿を現す。


 赤鬼のプロレスマスクに真っ赤なブーメランパンツの変態が肉体美を誇示するように両腕を天高く掲げる。

 すると全身からオーラが湯気のように立ち昇り、背中の筋肉が隆起して鬼のかおかたどった。


「あーっと! これはすごい! 背中の筋肉がまるで鬼の貌のようです!」


 確かに凄い筋肉ではあるんだが……なーんか見覚えのあるんだよなぁ。

 ここにいるはずのない幼馴染の筋肉バカの顔が脳裏をよぎる。

 負けじと蒼い鎧を纏った美青年が長槍をくるくると翻し見事な演武を披露すれば会場の熱気は最高潮に達した。


「クーフーリン選手も素晴らしい演武を披露してくれました! これは試合の結果に期待が高まります!」


「両者見合って……ッ! 始めッ!!!!」


 審判の合図と、クーフーリンの手から槍が投げ放たれたのは同時だった。


 必中の槍ゲイボルグが空中でやじりの弾幕と化して、グレート筋肉マスク目掛けて雨のように降り注ぐ!



 ────が、しかし。



「ブワハハハハ! 効かねぇ効かねぇ!」


 マスクの隙間から一瞬、巨大な獣の牙が『ガオンッ!』と閃く。

 すると無数のやじりと化したゲイボルグが忽然と消え失せてしまったではないか。


 瞬間移動じみた跳躍で距離を詰めるグレート筋肉マスク。

 とっさに距離を取ろうとしたクーフーリンの動きを足の甲を踏みつけて封じ、顔を挟み込むように強烈なビンタが炸裂する!


 一撃で鼓膜を破られぐらりとその場に崩れ落ちそうになったクーフーリンを抱え込んだグレート筋肉マスクは、そのまま万力のような力で背骨をへし折り神話の英雄を真っ二つにしてしまった。



「あぁーっと!? 一瞬で決着がついてしまったぁーッ! 鯖折りで真っ二つです! ランサーが死んだ! この人でなしーッ!」


「お、俺は死んでねぇ……ぐふっ」



 クーフーリン戦闘不能!


 勝者、グレート筋肉マスク!



 審判の勝利宣言にグレート筋肉マスクが「うおぉぉ!」と吼えて拳を突き上げれば、会場に歓声が溢れた。

 真っ二つになったクーフーリンが担架に乗せられ鬼たちに運ばれていく。


「今の勝負をどうご覧になりますか。解説の閻魔様!」


「そうですね。丹念なゴリ押し、といったところでしょうか。汎用性の高い異能で相手の武器を封殺し、圧倒的なフィジカルで押し切る。シンプルであるがゆえに攻略法も存在しない。これは意外なダークホースかもしれません」


「なるほど! つまり純粋に力量で勝らない限り倒されないというわけですね! 一瞬の決着に実況が追い付かなかったことが悔やまれてなりませんが、気を取り直して次の試合へと参りましょう!」

グレート筋肉マスク いったい何者なんだ……()

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