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クッキングバトル レディーゴー!

 修行生活五日目。

 

「今日は釣りで遊ぶぞ!」


 と、そんな爺ちゃんの一声もあり、今日は朝から釣り大会だ。

 場所は渓谷を抜けた先にあった大河の岸辺。水平線が見えるほど雄大なこの川は、下っていくと三途の川へと名前を変えて、最終的には地獄へと流れつくらしい。


「こうしてボケーっと水面を見つめて過ごす時間のなんと贅沢なことよ」


 なんて爺ちゃんは言うけど、釣りを始めてもう数時間経つのに俺の竿にアタリは一匹もない。ええい、つまらん!


「……釣れねぇ」


「ガハハハ! そう腐るなって。自分を見つめ直すのも修業の内だ」


「へへっ、また釣れました!」


 同じ場所で釣っているはずなのに、何故かシャオロンだけバカみたいに釣れているのも面白くない。

 いよいよイライラしてきて、「波ぁ!」して川の水をブッ飛ばして魚だけさらってしまおうかと考えだした、その時────


「おっ! おおぉっ!? すげぇ引きだ!」


 俺の竿に魚がかかった。大物だ。

 今にも折れそうなほどしなる竿に強化の魔術をかけて補強し、ついでに糸も切れないように強化して、魚との一騎打ちに入る。


 なるほど。確かに魚の動きを読んで竿を振るのと、仙術の極意は似ているかもしれない。

 どちらも力の流れを見極めてコントロールすることが肝心ってことだな。


 遊びの中に極意が隠されているなんて、流石爺ちゃん。……と、言いたいところだけど、多分本人はただ遊びたいだけで無自覚なんだろうな。



 魚の動きに合わせて竿を振って体力を削って、弱ったところを一気にっ……釣りッ、上げるッ!



「よいしょ────っ!!!!」



 ザッパ―ン! と水柱を上げて巨大な魚影が宙を舞う。

 川岸にドスンと落ちてきたのは、クジラサイズの鮭だった。


「へへっ! 川のヌシ討ち取ったり!」


「ガッハッハ! こりゃえらい大物釣ったなぁ!」


 今日初めての釣果ちょうかをシャオロンに全力で自慢すれば、シャオロンは悔しげに顔をくしゃっとさせてわなわなと打ち震える。

 ハッハー! どーだ! 俺の勝ちだぁ!


「くぅ! ま、まぁ、数では僕の方が上ですし!」


「ハンッ! 総重量は俺の方が上だから俺の勝ちは揺らがねぇよ」


「こんなデカイ魚、どうせ大味に決まってます!」


「なんだとー! だったらどっちの魚が美味いかで勝負だ!」


「望むところです! ただし、調理は自分でしてくださいね! 自分で釣った魚なんですから!」


「へっ、上等だ! 俺のマジカルクッキング見せてやんよ!」



 と、そんな訳で唐突に川辺で野良クッキングバトルが始まった。


 用意します材料は推定一〇メートル以上。クジラサイズの鮭一匹。

 まずはコイツを食べごろサイズまで魔法でカット。鱗は叩くと鉄板みたいな音がするから全部剥ぐ。


 それらの工程を指パッチン一つでパッと終わらせ、余った分は瞬間冷凍して収納空間へ放り込む。

 さて、味見がてた獲れたてサーモンのお刺身いただきまーす。


「おほほほ、うっま!」


 デカイ割に濃厚な味わいに思わず笑みがこぼれる。

 油もたっぷり乗ってるし、弾力もあって食べごたえ十分だ。ああ、醤油とご飯が欲しい!


 決めた。コイツは刺身と塩焼きにしよう。

 鮭と言えば塩焼き! 塩焼きだけは爺ちゃんに極意を叩き込まれたから得意なのだ。それしかできねぇけど。


 塩振って焼くだけとは言っても、火加減や塩加減で味が大きく変わるから妥協はできない。

 逆に言えば塩振って焼けば大抵のものは美味しくなる。シンプルイズベストだ。


 魔法の炎で皮目はこんがりと、身はふっくらジューシーに焼き上げる。

 うーん、すんばらしい香りだぁ!


 すると隣からも美味そうな匂いが風に乗って漂ってくる。

 どうやらシャオロンは川魚を素揚げにして甘酢あんかけを合わせるようだ。

 調理速度が料理漫画みたいにやたらと早いのは仙人修業の成果か。


「できたぜ!」

「完成です!」


「そいつぁ重畳。飯も炊けたし昼飯にしよう」


 ほぼ同時に料理が完成して、爺ちゃんが炊いてくれた飯盒はんごうご飯もほっくりと仕上がった。

 いざ実食! いただきます。


「こ、これは……ッ!」 


 川魚特有の泥臭さがまったくない! 川が綺麗な証拠だ!

 こんな短時間で作ったのに小骨の処理にも手抜きがまるでない。外はカリっと、中はフワフワに仕上がっているッ!

 白身魚特有の淡白ながらも上品な味わいを、野菜たっぷりの甘酢あんかけがトロリと優しく包み込み、更なる次元へ昇華させている!?


「うーまーいーぞーっ!!!!」


 あまりの美味さに服が弾け飛んでしまった。

 くっ、完敗だ! 小魚をこんな短時間でここまで美味しくなんて俺にはできねぇ!


 隣を見ればシャオロンも俺の焼いた鮭の塩焼きを一口食べて、『くわっ!』と目を見開く。

 ついでに服も『スパァンッ!』と弾け飛ぶ。


「っ! あんな巨大魚なのに、まるで細胞の一粒一粒にまで旨味が詰まっているかのような濃厚な味わいッ! 皮目はパリッと、それでいて身はふっくらジューシー! 火加減が完璧なんだ……! それを絶妙な塩加減がさらに引き立てている!? ……か、完敗です」


 饒舌な食レポを語り真っ白に燃え尽きるシャオロン。

 どうやら食材の良さに助けられたようだ。


「うん、どっちも美味い! 飯も酒も進むなぁこりゃ。この勝負引き分け!」


 爺ちゃんがおかずと一緒にご飯をモリモリかきこんで、瓢箪酒ひょうたんざけをぐぴっとあおる。

 ほんと幸せそうに食うよなこの人は。作った甲斐があるってもんだ。

 料理って意外と楽しいかもしれない。



「へへっ、やるじゃねぇか。けど、次こそは勝つ!」


「望むところです。僕だって食堂の息子だ。実家の看板にかけて負けませんよ!」



 互いの健闘を称えガッチリと握手を交わし、美味い飯を囲みながらの昼下がりは穏やかに過ぎていく。

 







 それから、楽しい修業の日々はあっという間に過ぎていった。


 ある日は山を登り不死鳥の巣を一日中観察したり、また別の日は巨大な恐竜を相手に素手だけで狩りをしたり。

 天気のいい日は海や森へ行って自然を楽しみ、雨の日は読書をしたり、瞑想しながら新しい魔法を作ったりして過ごした。


 シャオロンとの毎朝の組手はすでに日課へと変わり、料理勝負以来、毎食の準備を手伝うようになってからは、俺の料理の腕もメキメキと上がりつつある。



 そうして仙界各地を巡りのんびりと羽を伸ばしつつも着実に仙術の極意を身に付けてゆき────……


 いよいよ大会を明後日に控えた今日、俺たちは大河を下り地獄へとたどり着いた。



 ☆



「それで、お爺さんと再会した嬉しさのあまり、お使いも忘れてこの一ヵ月遊び回っていたと。……楽しかったですか?」


「ご、ごめんなさい」


 地獄に到着するや否や、閻魔様から呼び出された俺は、お説教を食らっていた。

 にっこにこの笑顔が逆に怖い!


「はぁ……。結果的に神々相手に阿漕あこぎな商売をしていた賭場も摘発できましたし、天照アマテラス様との約束もありますから、お使いをすっぽかしていた件と賭場でのイカサマは特別に不問とします」


「ほっ……」


「ただし! 素戔嗚スサノオ様がチップに出した宝具以外はすべて没収。元の持ち主に返します。文句はありませんね?」


「うす……すんませんっした」


「よろしい」


 ふえぇ、閻魔様怖いよぅ……

 そうして手に入れた宝具の殆どは没収され、手元に残ったのはこの三つだけとなった。



 『天羽々斬』

 素戔嗚尊スサノオノミコトの愛刀。ボロボロに刃こぼれしている。力も殆ど感じない。粗大ゴミ。


 『火鼠の皮衣』

 地獄の炎でも燃えず熱さも感じなくなる綺麗な朱色の皮衣。何故か婆ちゃん家のタンスのニオイがする。


 『聞き耳頭巾』

 被ると動物の声が聞こえるようになる頭巾。率直にダサイし臭い。



「くっそ微妙……」


 あまりに微妙過ぎるラインナップに、思わず顔がくしゃっとなってしまう。

 どういうことだオイ。ほぼゴミしか残ってねぇぞ。

 さては素戔嗚スサノオ様、蔵のゴミ整理ついでに遊んでたな?


「由緒ある神具になんてことを。あ、そうそう。刀匠のイッポンダタラが倶利伽羅剣のことで話があると言っていましたので、後で鍛冶場に顔を出してあげてください」


「あ、はい」


 なんだろう、話って。

 閻魔様に一礼して宮殿を出た俺はその足で地獄の鍛冶場へと向かった。



美味いもん食ったら服が弾け飛ぶのは常識だよね!()

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[一言] 麗羅ちゃんバージョンを所望する
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