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閻魔様はすべてお見通し

 目を覚ますと俺は布団の上に寝かされていた。

 畳張りの和室。部屋の四隅で揺らめく紫の鬼火が妖しく周囲を照らしている。


「んん……」


「うぉっ!?」


 ふと、急に横から寝ぼけたレイラが俺の胸にしがみついてきた。

 なんで同じ部屋で寝かされてるんですかねぇ!?


 少し顔を動かせばキスできてしまいそうな距離感。

 はだけたままの胸元から少し汗ばんだ鎖骨がチラリと見えて危うい。

 ……くそっ、シャンプーのいい匂いさせやがって。

 胸無いくせになんでこんなに柔らかいんだチクショー!


「くっ……! ガッツリ掴んでやがる」


「やだ……やだぁ……ぐすっ……」


 白い頬を一筋の雫が伝う。

 きつく握りしめられた手は小さく震えていて、温もりを求めるようにレイラが俺の胸に顔を埋める。

 どうやら悪夢にうなされているらしい。


「ぐすっ……やだ……忘れないで……私はここに……」


 『忘れないで』。その一言にズキンと胸の奥が痛んだ。

 つい最近まで忘れてしまっていた。その事実が俺の胸を締め付ける。



「……二度と忘れてやるもんかよ」



 今度こそは、何があっても絶対に。


 あの日の俺は無力で、何もできないまま奪われて、気付けばすべてが終わっていた。

 何かを失ったはずなのに、それが何だったのかさえも思い出せず、わけも分からず涙を流した苦い記憶が蘇る。


 もう誰にも奪わせない。

 神だろうが悪魔だろうが、俺から何かを奪おうとする奴は全員ぶっ飛ばしてやる。

 それができるくらい、もっと強くなろう。


 しばらくじっとしていると、やがてレイラが静かに寝息を立て始め、俺のシャツを掴んでいた手から徐々に力が抜けていく。


 やっと寝たか。ったく、とんでもねぇ寝言聞いちまった。


「……しっかしまぁ」


 こうして改めて近くで見ると、コイツ本当に……


「……綺麗だな」


「っ!?」


 長い黒髪にそっと触れ、思わずポツリと漏れ出た本音に、胸の中でレイラがビクッと反応した。

 うぇっ!?


「…………お、起きてる?」


「………………んぅ」


 レイラがムニュムニュと寝返りを打ち、安らかな寝息を立てる。

 ど、どっちだ……?


「……顔でも洗ってくるか」


 なんとなく居たたまれなくなった俺は、音を立てないよう静かに部屋を出た。



 ☆



 晃弘が部屋を出てゆき、廊下から足音が聞こえなくなったころ。


「~~~~~っ! ~~~~っ!」


 麗羅は1人、布団の中で悶絶していた。


(やらかしたやらかしたやらかした! 何やってんのよ私のバカ────ッ!? っていうかなんで!? なんで同じ部屋で寝てるの!? おかしいでしょ絶対!)


 つい癖でお気に入りのぬいぐるみと間違えて抱き付いてしまった。

 それだけでも恥ずかしいのに、酔った勢いでパーになってしまい、普段では考えられないようなことまでしてしまった。


(寝言で変なこと口走ってないわよね私!? 大丈夫よね!? あーもぉ! 完っ全にやらかしたー!)


 寝言うんぬんについては本人に記憶が無いのがせめてもの救いか。

 それにしたって胸元を開けさせて、よりにもよってアイツの膝に飛び込むなんて、普段なら死んでもやらない。やるわけがない!



(ありえない! ありえないから! アイツだけは絶対にないから!)



 チビでスケベでバカで、欠点を上げればキリがない男だ。

 子供の頃から喧嘩ばかりしてきた犬猿の仲で、今まで異性として意識したことなど一度もなかったのに。


 意外にもガッシリとした身体つきと、男らしいゴツゴツとした手の感触。耳元で不意に囁かれたあの一言が頭から離れてくれない。

 布団に残る幼馴染のニオイと少し熱いくらいの体温が、どうしようもなく異性を意識させるのに、それが晃弘のイメージと結びつかないのが妙にむず痒かった。



(あんな一言で何を動揺してるのよ!? 私そんなチョロい女じゃないもん!)



 男の子と付き合ったことなんて一度もないけど、それでもあのバカの一言で心を乱されるなど己のプライドが許さない。

 だからこの胸のドキドキも、絶対に何かの間違いなのだ。



(知らない知らない! あんなバカ、全然好きでも何でもないもん!)



 否定すればするほどドツボに嵌っていっていることにすら気付かず、麗羅は枕に顔をうずめてしばらく唸り続けるのだった。




 ☆



 あれからしばらくして、どうしても謝罪がしたいという閻魔様に呼び出された俺たちは鬼に案内されて地獄の宮殿へと向かった。



「いや~すまなかったね。まさかお出しする飲み物がお酒とすり替わっていたなんて。現場にしっかり目が行き届いていなかったボクの不注意だ。本当に申し訳ない」



 執務机から腰を上げた閻魔様が申し訳なさそうに頭を下げる。



「お詫びと言ってはなんだけどこれを渡しておくよ」



 と、手渡されたのは二枚の木札だった。

 表面には『地獄リゾート永久無料券』とある。



「実は近々、三界一番の強者を競う大きな武闘大会を開く予定でね。天界や仙界からやってくる来賓たちを迎えるためのリゾート施設を作ったのさ。それはそこの無料券だよ」


「へぇ、武闘大会っすか」


「開催は地獄時間で一ヵ月後。優勝者にはどんな願いも一つだけ叶えられる権利が与えられる。よかったら君たちも出場してみたらどうだい?」


「どんな願いもって、本当にどんな願いでも叶うんすか?」


「もちろん。『その願いは私の力を越えている』なんて、ケチなことは言わないから安心してくれたまえ」



 そのネタ地獄でも通用するのか。



「無論、参加は自由だし、このまま帰るというならボクは引き留めないけど、どうする?」


「「やります」」



 俺とレイラの声が重なった。

 今の俺なら大抵の願いは叶えられるけど、叶えられないこともある。

 それに強くなるって決めたからな。いろんな世界のつぇぇ奴らと戦えるなら、俺にとっても間違いなく糧になるはずだ。



「君たちならそう言うと思っていたよ。あ、そうそう。工事を手伝ってくれたお礼だけどね、君、倶利伽羅剣を持っているだろ? 不動明王の手から盗まれて随分と経つからね。切れ味も力もだいぶ落ちているだろうし、地獄の炎で鍛え直してあげるよ」


「え、いいんすか? そのまま俺が使っても」


「もうその剣は君を主と認めているからね。今更元の持ち主に返したところで主と認めないだろうさ。お嬢さんもあちこち回って色々と獄卒たちのお手伝いしてくれたみたいだし、魔導霊装を地獄仕様にパワーアップしてあげよう」


「ありがとうございます!」



 閻魔様に倶利伽羅剣とステッキをそれぞれ預ける。

 またな相棒。強くなって帰ってこいよ。



「大会までには届けさせるから、それまでリゾートで羽を伸ばすなり、迷宮地獄で修業するなり好きにするといいよ」


「わっかりました! よっしゃー! リゾート行くぞリゾート!」


「あ、コラ! 待ちなさいったら!」



 と、そんなわけで俺たちは早速、地獄のリゾート地へ向かった。ひゃっほう!

閻魔様「ふふふ、2人とも可愛らしいですね」


閻魔様はすべてお見通し()

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[一言] さっさとくっつけばいいのに
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