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Welcome to Hell!

プロローグだから短め

 家族が全員寝静まったのを確認し家を出た俺は、重く雲の垂れ込めた星明り一つない夜空を西に向かって飛んだ。

 目指すは夜鳥羽市と隣町を隔てる冥道山。その峠道にある小さな祠だ。


 冥道山には巨大な鍾乳洞の洞窟があって、そこは古くからあの世の入り口と信じられ、祀られてきた。

 洞窟へと通じる藪道やぶみちを塞ぐように建てられた祠の前に降り立つと、やぶの奥から一匹の蛇がしゅるりと這い出て来た。


 時刻は〇時ちょうど。

 約束の時間だ。


「ちゃんと一人で来たようだな」


 蛇の身体が青白い炎に包まれ、長い白髪を後ろで束ねた痩躯そうくの鬼へと変わる。


「そんで? こんな夜中に何の用だよ」


「閻魔様がお呼びだ。付いてこい」


「付いてこいって……地獄へか?」


「他にどこがある」


 やっぱり地獄行きじゃないっすかやだー!


「帰ってこれるんだろうな」


「それは閻魔様次第だ。俺に聞くな」


 なんか嫌な予感がしてきた。


「…………帰るっ!」


「逃がさん」


 転移で逃げようとした俺に鬼が手を向けると、藪の奥から黒い鎖が何本も飛び出してきて、俺の魂を縛り上げ藪の奥へと引きずり込んでいく。


 くっそ、転移できねぇ!?

 引きずり込まれるッ!


「魔神転装!」


 と、最強九尾モードに変身したレイラが突然木の影から飛び出してきて、俺に絡みついていた黒い鎖を炎の剣で断ち切った。


「おまっ!? なんでここに!」


「アンタ隠し事するとき露骨に目を逸らすからすぐ分かるのよ!」


「えっマジ?」


「いいから逃げるわよ!」


「逃がさん!」


 鬼が指先に霊力の炎を宿しこちらに向けた掌を『グッ』と握りしめる。

 すると家に置いてきたはずの木札が目の前に「フッ!」と出現して、墨で描かれた模様がゾワゾワと不吉な気配を強めながら蠢きだす。


 次の瞬間、足元に現れた地獄の門が開き、無数の亡者たちの手により俺たちは暗い地の底へ引きずり込まれた。



 うわぁぁぁぁ────…………



 ★



 あ、そーれ♪ ワッショイワッショイ♪ ワッショイワッショイ♪


「ねぇ、なんで私たちお神輿みこしに乗せられてるの……?」


 亡者の手に引かれて闇の底へ引きずり落とされたのも束の間、いつしか俺たちは大きな神輿に乗せられワッショイワッショイ担がれていた。


「俺が知るかよそんなこと」


 辺りを見渡せばグツグツと煮えたぎる血の池の向こうに、赤く燃え盛る空を貫く針の山が見えて、ここが地獄だと一目で理解できた。

 まさしくそのままの意味で地獄絵図そのものだな。


 神輿はそのまま朱塗りの柱が立ち並ぶ宮殿へ入り、鬼火の明かりに照らされた廊下を進み、真っ暗な最奥の間にたどり着く。


 担いでいた神輿を下ろした亡者たちがそそくさと部屋から出ていくと、闇の奥に鬼火が灯り地獄の裁判官の姿が浮かび上がる。


「やあ、来たかい。突然呼び出して悪かったね」


「アンタが閻魔大王……?」


「アハハ、やっぱり威厳が足りないかな。三〇年くらい前に代替わりしてね。こんなナリでもボクが当代の閻魔大王で間違いないよ」


 自らを閻魔大王と名乗ったのは、まだ歳若い男装の麗人だった。

 見た目は二〇歳前後くらいで、少女漫画の世界から出てきたんじゃないかと思うほどのキラッキラのイケメンだ。


 けど、俺の目は誤魔化せないぜ。

 性別くらい魂の波動を探ればすぐ分かる。


「その新米閻魔様が俺に何の用で?」


「ちょっと地獄の増築工事を手伝ってほしくてさ。無論、お礼はするから」


「増築工事って……具体的には?」


「君の魔神としての権能を使って、ダンジョンのモンスターを作って欲しいんだ」


 閻魔様が言うところによれば、現世の人口増加に伴い、地獄の機能を新たに追加することになったらしい。

 だが地獄増築のためのリソースが足りず、現在工事は中断しているのだとか。


 そこで残りの工事を終わらせられるだけの力を持つ者をピックアップした結果、俺に白羽の矢が立った。と、そういうことらしい。


「でも、なんでダンジョン?」


「奥に進めば進むほど魂が浄化される仕組みなのさ。やっぱり罪人には自発的な反省を促したいからね」


 なるほど。確かにごもっともだ。


「じゃあコイツだけでも現世に返してやってくれませんか。コイツ、俺に巻き込まれてここまで来ただけなんすよ」


「ああ、全部見てたから知ってるとも。でもそのまま帰るのもつまらないだろ? どうせだし地獄観光でもしていきなよ。生きてる内に地獄に来るなんて滅多にない機会なんだしさ。ここで徳を積めば魂の格もグッと上がるよ?」


 閻魔様がにこやかにレイラに微笑みかける。

 男装の麗人のイケメンスマイルに少し頬を赤くして「じゃあ、せっかくだし」とレイラがモニョモニョ返事を返した。


 コイツ、こういうタイプが好みなのか。ふーん。へぇー。あっそう。


「……何よその顔」


「別に何でもねぇよ!」


「何なのよムカつくわね!」


「二人ともいい加減素直になっちゃえばいいのに」


 舌を引っこ抜くための大きなペンチをカチカチさせてニコニコ笑う閻魔様。いやこえぇよ!?

 ……だいたい素直になるって何にだよ。

 別にコイツが誰とくっつこうが俺には関係ねぇし。……ねぇし!


「ふふふ、君たち二人は本当に見ていて飽きないね。ここは現世より時間の流れがずっと早いから、好きなだけいてくれて構わないよ。新しく生まれ変わった地獄は見どころいっぱいだからね」



お2人様地獄へごあんなーい!

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[一言] 男装の麗人とは予想外
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