魔神領域
臥龍院さんにブッ飛ばされて魔神の口内へ侵入した俺たちは、予想に反する光景に言葉を失っていた。
眼前に果てしなく広がる暗黒の世界。
無数の星々が散らばる無限の宇宙がそこにあった。
臥龍院さんが俺を試すのは毎度のことだけど、今回はまた一気にレベルが上がったな。
「つーかよ、この中から核を探さなきゃいけないんだろ? ……無理じゃね?」
マサが珍しくまともなことを言って、全員に絶望的な事実を叩きつける。
確かに、ヒントも何も無しに探すとなれば一生掛かっても探しきれないだろう。
「いや、ヒントならある」
「マジか!?」
「ああ、かなり遠いけど気配を感じる」
「私も感じるわぁ。いっそ気のせいかってくらい微かにだけどね」
多分、神としての本質が似てるのかもしれない。
エカテリーナもほぼ闇しかない宇宙空間で闇の神祖の力が強まったのか、俺と同じ気配を感じているようだ。
「なんにせよヒントがあるならやりようはあります。空間転移すればゴールまであっという間ですよ」
俺とエカテリーナの感覚を元に、タッツンがデータを手入力して、スイッチを押す。
すると前方に強く引っ張られるような感覚があり、次の瞬間には外の星々の配置が大きくズレていた。
「あ、かなり近づいたわぁ。これだけ近ければ肉眼でも見えるんじゃないかしら」
「あ! あれじゃない!?」
小春が指差した窓の外へ視線を移すと、惑星規模の真紅の核と、土星の輪のように核の周囲を取り巻く悪魔の群れが見えた。
天鳥船に気づいた悪魔たちが獲物に群がる蟻のようにザワザワと動き出し、こちらへ近づくほどにその数を倍々に増やして壁のように押し寄せてくる。
「来たわよ!」
レイラの声にそれぞれステッキを構えた俺たちは、魔法少女に変身し、身体の周りにバリアを張って宇宙空間へと飛び出した。
ベルダさんも腰の魔剣を引き抜き、黒い雌獅子へ変身して俺たちの後を追う。
「ここまで来たら出し惜しみは無しです! 魂 魄 解 放ッ!」
船から飛び出した俺たちの後ろで天鳥船が『ガシャンガシャン』と人型の巨大ロボへ変形した。
「カモン! グレードタイザンオー! ソウルフュ────ジョン!!!!」
さらにそこへ鎧武者のような巨大ロボが現れ、身体が腕・胴・脚のそれぞれに分裂。人型に変形した天鳥船と合体していく。
「超神機スサノオ合体完了ォ────ッ!!!!」
最後に二つのカメラアイが『ギンッ!』と輝き、謎のカラフル粒子を背後で爆発させて厳めしくも神々しい機械の神が顕現する。
か、かっけぇ────っ!!!!
なにあれなにあれーっ!? すごい! つよそう!(小並感)
「いくぞ皆ァ! 総力戦だ! 全員でヒロを核まで届けろ!」
『応ッ!!!!』
「まずはドデカく一発ブチかましますよ! 滅魔剣アメノムラクモ、起動!!!!」
マサの鬨の声に全員が力強く応え、超神機スサノオが背中に担いだ幅広の大剣を抜き放つ。
『ガゴンッ!』と中心から二つに割れて開いた刀身から青い光の刃がどこまでも伸びてゆき、それを超神機スサノオが横薙ぎに振り払う。
青い光が螺旋を描き、大量の悪魔を巻き込み魔神の核に真一文字の傷を刻み込む。
直後、魔核の周囲を取り巻いていた悪魔たちが連鎖的に爆発して、暗黒空間に無数の爆華が咲き誇った。
その隙に俺たちは一塊になって魔神の核に向かい流星のように突っ込んでいく。
核が『カッ!』と輝くと、核の表面に付いた傷から、大量の悪魔たちが間欠泉のように湧き出て、こちらに向かって津波のように押し寄せてきた。
「アハハハッ! 殆ど闇しかない宇宙で闇の神祖に勝てると思ってるのかしらぁ!」
俺たちの前に躍り出たエカテリーナが両手を大きく広げると、悪魔たちの身体がじわじわと黒く塗りつぶされ、身の毛もよだつような断末魔をあげて宇宙の闇に呑まれて消えた。
「さあ、道は開けたわよ!」
「行ったれ兄ちゃん!」
小春のマジカルシュートを足場に魔神の核まで一気に近づいた俺たちは、そのまま重力に引かれて濃密な魔力の大気が渦巻く地表へと落下していく。
すると今度は核の裂け目から山のように巨大な炎の悪魔が噴き出して、俺たちの行く手を灼熱の業火が阻む。
「ここは私に任せて先に行ってくださ~い!」
涼葉がステッキを一振りすると、瞬く間に上空に分厚い黒雲が立ち込めてバケツをひっくり返したような大雨が降り注ぎ、炎の悪魔がみるみる小さくなっていく。
滝のように降り注ぐ雨に後押しされて核の裂け目に飛び込んだ先に待ち受けていたのは、雨滴も煙と化すほどの暴風域。
嵐の悪魔が腕を巡らせれば、それだけで俺たちの身体は木の葉のように吹き散らされた。
「ここは強引にでもッ!」
「押し通すッ! 魂 魄 開 放!!!!」
燃え盛る狒々に変身したマサが熱線を吐いて嵐の悪魔を蹴散らし、俺とレイラを背に乗せた漆黒の雌獅子が風の隙間を雷光のように駆け抜けていく。
いよいよ核の中心部が迫ってくると、魔力の濃度がさらに上がって身体を覆うバリアにべっとりと絡みつき、俺たちが前に進もうとするのを阻んでくる。
「ぐぅぬッ! なんの……ッ、これしきィィィ!!!!」
コールタールのように絡みつく魔力を押しのけ、ベルダさんが牙に紫電を纏わせ大きく吼える。
すると左右に稲妻の柱が乱立して、最深部へ続く道が開けた。
「うおぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」
稲妻の柱が切り開いた道を漆黒の雌獅子が駆け抜け、後ろの方から悪魔を片付けたタッツンたちが追いかけてくる。
そして俺たちはいよいよ核の最深部、紫黒に輝く光に触れ────……
◇
「……ここは?」
気が付くと俺たちは円形に切り取られた大地の上に立っていて、普段の姿に戻っていた。
向かって奥には離れ小島が浮かんでいて、その小島の上で髑髏型の魔神の核が禍々しい紫黒の輝きを放っている。
俺が一歩前に出ると、核を守るように八体の影が地面からぬるりと起き上がり、徐々に色彩を得て形が鮮明になっていく。
「……最後の敵は俺たち自身ってわけか」
俺たちの前に立ちはだかる、浅黒い肌の影たち。
姿形、感じる気配、すべてがそっくりそのままで、そして恐らく強さもまったく同じなのだろう。
影たちは無言のまま全力の姿へと変身して、それぞれ武器を構える。
「来るぞっ!」