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魔界へ

「兄ちゃんたちが攫われた!?」


「ちょっともぉ! なに勝手にいなくなってるのよ、あのおバカ!」


 辰巳たちと合流し現状を把握した小春とエカテリーナの第一声がこれである。

 黒い壁が解除されたことで扉の城への通行も解除され、今は修行部屋に集まって作戦会議の真っ最中だった。


「正確には攫われたのは麗羅さんで、ヒロはその直前に解析不能の大魔法を使った形跡があったので、まぁ十中八九事故でしょうね」


「いやマジで何やってんの兄ちゃんさぁ……」


 妹をしても予測不能な兄の突飛な行動に、その場に集まった全員からため息が漏れた。


「あ、あの~、犬飼くんっていつもこんな感じなんですか~?」


「ええ。アイツちょっと目を離すとすぐ迷子になって事件に巻き込まれるんで、涼葉さんは関わらないほうがいいですよ。バカの菌が移りますからね」


「そ、そんなこと言ったら可愛そうですよぉ~」


 愛しい彼にそんなふうに言われては涼葉も困ったように苦笑いするしかない。

 

 犬飼晃弘。

 能力覚醒から僅か一週間足らずで神へと至り、星を破壊するほどの絶大な力を持つ能力者。

 魔術師協会としては、常に動向を探りつつ、友好的な関係を築いておきたい相手だ。


 事前のプロファイリングでは身内に甘い人物であるとの調査結果が出ており、当初は魔術師協会の副会長で歳も近い涼葉が晃弘の学校に直接転校して色仕掛けで籠絡する予定だった。


 だが、晃弘が通う学校の関係者たちはすでにエカテリーナの支配下にあり、強引な転校による籠絡作戦はあえなく破綻。


 ならばと校外で接触を図ろうにも、聖十字教会に先手を打たれてしまい、にっちもさっちもいかなくなってしまった。

 まさかあの頭の硬い教皇と最高司祭たちが晃弘たちをメシアとして認定するなど、誰が予想できようか。


 だが事態は突然急変して、チャンスが巡ってくる。

 臥龍院から異世界の魔法技術の解析と研究を依頼されたのだ。


 そこでようやく晃弘と顔繋ぎもできたし、そこから接触の機会を増やしていければと思っていたのだが……うっかり運命の王子様(辰巳)と出会ってしまったのが運のつき。

 気付いた時にはすでに自分でもどうにもできないほどに、辰巳のことを好きになってしまっていた。



(辰巳くんは、きっと二階堂家が犬飼くんを利用しようとしていることにも気付いている)

(けど、それでも、こんな私を……ずっと二階堂家のお人形だった私を、一人の人間として対等に扱ってくれた)



 もはや二階堂家(実家)からの命令だとか、協会の副会長の立場とか、もうどうでもよかった。


 どれだけ自分が努力して今の地位を手に入れたのだとしても、周囲はそうは見てくれない。

 天才だから。二階堂の娘なのだからこれくらい当然。

 そんな陳腐な言葉で自分の努力はすべて否定され、あらゆる成功は涼葉自身ではなく、二階堂家の成果として扱われる。


 正直、もううんざりだった。


 だが、辰巳だけは、ありのままの自分を受け入れて、自分の努力を認めてくれた。



(……好き。大好き)

(辰巳くんとずっと一緒にいるためなら、私は────)



 世界だって敵に回してみせる。自分を縛るしがらみを壊して……例え家族を殺すことになろうとも。

 ただ辰巳の幸せのために尽して、いつまでも添い遂げたい。

 それが偽らざる涼葉の本心だった。


「…………さん、涼葉さん?」


「ひゃわぁ!?」


 少しボーッとして油断していたところに辰巳の美貌がぐいっと迫り、驚いた涼葉が素っ頓狂な声を上げる。


「大丈夫ですか? 話聞いてました?」


「うん~、大丈夫。これから時空移動船で魔界へ乗り込むんだよね」


 ぼんやりしているようでしっかりと話の要点だけは抑えている辺り、どこかの筋肉バカとは脳の作りが違う涼葉であった。


「ええ、どこぞの筋肉バカは魂魄開放の反動で動けないので置いていきます」


「邪魔しちゃ悪いもんね~」


「くそっ、僕だってまだ涼葉さんとキスなんてしたことないのに……!(ボソッ)」


「……辰巳くんがしたいなら、後で……する?」


「っ!」


 辰巳の手を取り、しっとりと微笑む涼葉。

 なにやら急にムーディーな感じになり、小春は「うひゃー」と真っ赤になった顔を手で隠す。

 指の隙間からガッツリ二人の様子を見ているのは思春期ゆえのご愛嬌だ。


「ちょっとぉ、不純異性交遊はセンセーの見てないところでヤリなさいよぉ」


「わぁ、不良教師」


「だってそもそも教員免許持ってないもの私」


 小春のツッコミにしれっととんでもないことをカミングアウトする闇の神祖。

 長生きしているだけあり知識量は豊富なので、小粋なジョークを交えた雑学がためになると、授業の評判はすこぶるいいのが絶妙にタチが悪い。


 余計なヤジが入って雰囲気をぶち壊されてしまった二人は少し照れたように顔を逸らした。


「と、とにかく! 休憩はこれくらいにしてさっさと行きますよ!」


 辰巳が鍵を使い研究室の地下にある建造ドッグへ移動すると、銀色の翼を持つ平べったい形状の乗り物が四人を出迎えた。

 ステルス戦闘機を思わせるそれは、時間と空間を飛び越える時空移動船。


 今回はこれを使って魔界へ直接乗り込み、晃弘たちを回収する作戦だった。

 キャットウォークから伸びる橋を伝い操縦席に乗り込んだ辰巳がメインシステムを立ち上げていく。


「各種システム正常。次元境界面展開!」


「ほえー、ロケットの操縦席みたい」


 操縦席の後ろから船内を見渡して、小春の口から見たままの感想が零れた。


「ロケットよりも凄いですよ。全員シートベルトはしましたね? 行きますよ! 次元移動船『天鳥船あめのとりふね』発進!!」


 船の周囲の空間がぐにゃりと歪み後方へと遠ざかっていく。

 直後、白銀の船は世界の壁を突き抜け、血のように赤い魔界の空に飛び出した。



 ◇



 六本腕による途切れることのない連撃を、魔王は踊るようなステップと華麗な身のこなしでひらりひらりと躱していく。


「どうしたどうした! 宝具があってもその程度かァ────ッ!」


 『ドバァン!』と魔王の魔力が爆発して腕を強引に押し返され、がら空きになった俺の胴に絶大な魔力が込められた拳が叩きつけられる。


 大きく後ろへブッ飛ばされた俺に一瞬で追いついてきた魔王の蹴りを空中で身体をひねり紙一重で躱す。


 そのまま腕一本で身体を支え、独楽こまのように『グルン』と脚を回して魔王を振り払い、追撃の魔力波を武器の先からブッ放す。


 魔王はすかさずバリアを張ってそれを防ぐと、指先すべてに魔力を集めてビームを撃ってきた。


 俺は石の床を踏み割って盾にすると、魔王の背後へ転移して宝具の一つを開放する。



「轟け『爆儒羅ヴァジュラ』!!」



 宝具が紫電を帯びて光り輝き、次の瞬間、幾本もの稲妻の槍が魔王目掛けて降り注いだ。


 バリアを貫き魔王に突き立った稲妻の槍が一層強く輝き、その身に宿る邪悪な魔力を焼き尽くしていく。


「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」


「そのまま焼かれて消えちまえ寄生虫野郎が! ……ガハッ!?」


 突然胃の奥からこみ上げてきた熱いものを吐き出せば、真っ黒に腐った俺の血がビタビタと床を濡らした。

 俺の腕や脚が指先からボロボロと腐り落ちていく。


 うげぇ、なんじゃこりゃ!?


「ぐぅ……! クハハハ、苦しかろう! 我の魔力は適性の無い者の肉体を腐らせる! 生きたまま腐って死ぬがよいわ!」


 くそっ、殴られたときに撃ち込まれてたのか。厄介な!

 呪いじゃなくて単純にそういう魔力の性質だから『呪殺耐性』では防ぎきれなかったようだ。


 魔力を打ち消すには同等以上の密度の魔力で相殺するか、反魔法の力で消し去るしかない。


「だったら、自爆すりゃあいいだけだろうが────ッ!!!!」


「なっ!? 貴様正気かッ!? や、やめろ────ッ!!!!」


 全身に超密度の魔力を行き渡らせ、あえてそれを暴走させて盛大に自爆する。

 ヒャッハー! たーまやー!



 カッ────!!!!



 ◇



 魔界の赤い空を白銀の翼が切り裂いて進むその前方に、峻険な岩山の山脈が見えてくる。

 標高にして五〇〇〇メートルは下らないその急峰の中にそびえる禍々しい漆黒の城があった。


「アレです! あそこの地下から魔導霊装の反応が……」


 辰巳が『天鳥船』の操縦席から、魔王城を指差した、その直後────!



 ドッッカ────────ン!!!!



 凄まじい爆豪を轟かせ、周囲の山々すら削りながら巨大な火球が弾け、その衝撃が『天鳥船』の船体を激しく揺らした。


「「きゃーっ!?」」


「何!? 何が起きたのよ!?」


 小春と涼葉が悲鳴を上げて、エカテリーナが船の揺れに顔を青くしてヒステリックに叫ぶ。

 辰巳は操縦桿を握りしめて船の姿勢をどうにか維持させ、全面に表示された各種データに目を走らせる。


「ヒロの魔力反応!? あんのバカ! また何かやらかしましたね!?」


 外に目をやれば、山々の間から巨大なキノコ雲が立ち上っていた。

 爆心地付近の映像を拡大すると、そこにはボロボロになって地面から這い出てこようとする麗羅の姿が。


「ねぇアレ麗羅さんじゃない!? よかった無事だったんだ! 早く助けに行こうよ!」


「いや待ってください! 何か様子が変です」


 慌ててハッチから外へ出ていこうとする小春を辰巳が止める。


 画面に映る麗羅の頭には悪魔の角、背中には漆黒の翼が生えていた。

 ボロボロの身体が修復されていくにつれて、玉のように白かった肌が邪悪な黒へとみるみる置き換わってゆき、真紅の瞳が『カッ!』と輝やかせ、黒煙を吐き出す大穴の底を睨みつける。


「よくも……よくも我の身体を傷つけてくれたな下郎がぁぁああああああああ!!!!」


「お前の身体じゃねーだろこのぎょう虫魔王が! とっととレイラから出てけ!」


 刹那、黒煙が『轟ッ!』と吹き飛んで、六腕の褐色女神が大穴の底から飛び出してきた。


「フンッ! 城ごと吹き飛ばしたのは悪手だったな。おかげで我が権能は徐々に戻りつつある。もはや貴様に勝ち目はないぞ!」


「そう思うんならそうなんだろうよ。お前ン中ではな! ぶっ飛ばしてやんよ!」


「ほざけ三下女神風情がァァァ!!!!」


魔王城は爆破するもの

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一切の躊躇いもなく自爆する敵とかゲームとかに出てきたらやだわぁ。さらに自爆しても死なないとかムリだろ(ヾノ・∀・`)
[一言] どんどんカップルができていく 躊躇なく自爆したなぁ 僕の友達は、魔王城は塩振りかけてかじるものだって言ってた。
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