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人ん家魔改造して家主いぢめるのたーのしい!

 光の届かぬ闇の中、無数の魔眼が放つ怪しげな輝きだけがギラギラと浮かび上がっている。

 魔眼の力で身動きを封じられた麗羅の前に、一人の少女の姿が『ボウッ』と浮かび上がった。


 腰まで伸ばした初雪のように白い髪。

 瞳は紅く、狐の耳と九本の尾を持つ、麗羅と瓜二つの少女。


「クククッ、ようやくこの身体ともオサラバよ」


 麗羅の細い顎をぐいと持ち上げ、魔王が邪悪に嗤う。

 せめてもの反抗とばかりに麗羅が『きっ!』と睨みつけると、魔王は愉快そうにくつくつと笑いを噛み殺す。


「おお怖い怖い。だが、そんな顔をしていられるのも今のうちよ。じきに貴様も我の一部となるのだから」


 魔王がしゅるりと赤い帯を解き、その身を包んでいた白い着物を脱ぎ落す。

 玉のように白い肌と、誰かとは比べるべくもないほど豊満な胸が顕わになる。

 胸囲の格差をまざまざと見せつけられ、麗羅の瞳から光が「すっ」と消えた。


「ひぇっ!? な、なんだ、急に寒気が……」


「…………」


「ええい! そんな目で見るな! 言っておくがこんなもの重いわ蒸れるわで大して得など無いからな!?」


「…………ちっ!」


「舌打ち!? 今舌打ちしたか貴様!? いや、魔眼で動きを封じているのだ。そんなはずは……」


「巨乳なんて滅びればいいのよ(ボソッ)」


「喋った! 今絶対喋ったよね!? おっかしいなぁ……やっぱ身体にガタきてるせいで調子悪いのかしら……」


 慢性的に凝っている肩をトントン叩いて首をひねる魔王。

 嫉妬のエネルギーで一瞬だけ自分の力を凌駕したなどとは、流石の魔王でも気付けるはずもなかった。


「ま、まあいい。どの道貴様の身体は我が貰うのだから。さあ、その身を我に差し出せ!」


 魔王が麗羅の首に手を回し、互いの額を寄せあって麗羅の瞳の奥を覗き込む。

 瞳を通じて魔王の本体が麗羅へと流れ込み、身体の支配権を徐々に奪い去っていく────




 ☆




「まったく、とんだじゃじゃ馬だったわ。予想以上に時間がかかってしまったではないか」


 肉体の支配権を奪い取り、新しい身体の調子を確かめるように魔王が肩をグルグルと回す。

 余計な駄肉の付いていないすっきりとした胸元。

 細いようでいながら、しかし内側にはしっかりと筋肉の力強さが感じられ、日頃から鍛錬を怠っていなかったことが伺えた。


「フハハハ! 実に馴染むぞこの身体! 肩こりが無いだけでもすこぶる気分が良────ぶへぇッ!?」


 平坦な胸を触って満足げに肩を回すと、一瞬身体の主導権を奪われ自分の顔に痛烈なビンタが炸裂した。


「くっ……小娘の思念がまだ少し残っておったのか? ええい、我の強い娘め! いい加減諦めて我が一部とならんか!」


 全身に魔力を行き渡らせて麗羅の自我を黙らせ、飛んだり跳ねたりして身体の調子を確かめる。

 しばらく軽く身体を動かして、ようやく麗羅が大人しくなったことを確認した魔王は「よし」と一つ頷いた。


「究極の肉体を得た今となってはあんな世界など最早どうでもよいわ。さっさと滅ぼしてしまうとしよう……む、玉座に転移できぬ」


 魔王軍全軍に指示を出すため玉座へ転移しようとした魔王だったが、魔王城の防衛結界に弾かれて転移の魔法が発動しなかった。


「ははぁ、さては身体が入れ替わったせいで術式が誤作動したな? ええい面倒な」


 結界の設定を書き換えるには玉座の水晶玉に触れなければならない。

 仕方なく城の正門まで転移した魔王は、歩いて玉座の間を目指すことにした。

 だが────……


「……おかしい。門番のガーゴイルがおらぬ」


 魔王城の門前を守って二万年。いかなる外敵からも城の門を守り抜いてきた無敵のガーゴイルたちの姿がどこにも見当たらない。

 本来閉じていなければならないはずの門は開け放たれており、不気味な静寂が辺りに重く垂れこめていた。


「ふんっ、門番風情が職務放棄とはいい度胸だ。後でバラバラに砕いてやる」


 苛立ち紛れに鼻を鳴らして城内へ魔王が足を踏み入れた瞬間。



 がちっ!



「ぶわっぷ!? な、何事だ!? ぬおぉぉぉっ!?」


 足元の罠スイッチを迂闊にも踏み抜いた魔王の頭上からヌルヌルの液体が『だばぁー』と降り注いだ。

 さらに連動した仕掛けが作動して床が斜めに大きく傾き、ヌルヌルの粘液に塗れた魔王の身体がつるつると奈落の底へ滑り落ちていく。


「な、なぜだ!? 魔法が発動せぬ! ええい小癪なァ!!」


 魔王が背中から悪魔の翼を生やして空中へ逃れると、今度は感知センサーが発動して天井が一気に落下してきた。


「ぬわぁ────っ!?」


 落下天井の罠に奈落の底へ叩き落された魔王を待ち受けていたのは、くぱくぱと収縮を繰り返して口を開ける肉の床。

 なにやら卑猥な動きのそれに絡め取られて『ちゅるん!』と吸い込まれた魔王を無数の細かい触手の群れがこちょこちょと襲い始める。


「ぶわははははははっ!? やめ、やめろ────っ!? ふひひひひ!? ひぃん!? うひゃひゃひゃひゃひゃ!?」


 全身をくすぐられ揉みくちゃにされながら肉のトンネルの中をされるがままに突き進み、やがて出口に辿り着いて『ブリッ!』と外に吐き出されれば、そこは巨大なプールだった。


 ぼっちゃーん! ガコン! ずごごごご!!!!


 魔王がプールの水面に叩きつけられた直後、巨大な栓が抜けたような音がして、プールの水が渦を巻き底の方へ向かって激しく流れだす。


「おぼぼぼぼぼ!?」


 便所に流される大の気分を味わいながら水流に呑まれた魔王は、水道管の中をぐるぐると駆け巡り、大量の水と一緒にゴールへ押し流される。


 そこは吐く息も凍る地獄の冷気漂う大螺旋回廊。

 押し流された水は一瞬で凍りつき、勢い余った魔王がツルツルに凍った床を滑って螺旋回廊を下へ下へと滑り落ちていく。


「あばばばばば! 寒い寒い寒い寒い!」


 濡れた身体に冷気を浴びせられ奥歯をガチガチ鳴らして震える魔王。

 くすぐり、水攻め、冷気ときて、次に魔王を待ち受けていたのは……


「ぶへっ!? 熱っちゃちゃちゃちゃ!?」


 疑似太陽が照らす熱々に焼けた砂の山。

 焼けた砂の上で魔王が奇妙な踊りを披露すれば、砂山を保っていた微妙な均衡が崩れ、地獄の流砂が魔王を飲み込んでいく。


 流砂に呑まれて流れ落ちた先は、魔王城最下層玉座の間。

 焼けた砂の中から這う這うの体で抜け出せば、ニヤニヤとほくそ笑む晃弘が魔王の玉座に足を組んで座りこちらを見下ろしていた。


「よう魔王。俺のアトラクションは楽しんで貰えたかよ」


「ぜぇ……はぁ……かひゅ……っ、ふぅ、ふぅ、き、貴様ァ……! 我の城に何をしふがっ!? ゲッホゲホおぇ……」


 鼻の奥に砂が入りむせ返る魔王。

 悪辣な罠に弄ばれ身も心もボロボロになり、すでに悪魔の王の威厳などどこにもなかった。


「なに、ちょっとばかし城の権限を変更して、楽しいアトラクションに改造させてもらったのさ」


「痴れ者がっ! そこは貴様のようなゴミが座ってよい場所ではない! 我を愚弄した罪、万死に値する!」


 魔王の怒りに共鳴した玉座の間が『ズゴゴゴ』と震え、天井の破片がパラパラと落ちてくる。

 城の機能を使い様々な権能を封印し、罠で弱らせても、そこはやはり魔王。

 四天王たちの数百倍にも上るそのエネルギー量だけでも、晃弘にとっては十分な脅威たりえた。


「ま、厄介な能力を封印できただけよしとすっか。力比べのゴリ押しなら絶対に負けねぇからな!」


 轟ッッ!


 晃弘がステッキを構えると神力が爆発し、眩い光が玉座の間を煌々と照らし出す。

 次の瞬間、光が『バシュン!』と弾け、六つの腕を持つ褐色肌の美しい女神が現れた。


 腕にはそれぞれ凄まじい力を秘めた宝具が握られており、そのグラマラスな肢体を踊り子の衣装のような甲冑が煌びやかに飾り立てている。


「あーっ!? それは我が集めてた秘蔵の宝具コレクション!? 返せドロボーッ!」


「やーなこった。ああ、ついでに城の中にいたお前の配下は全員俺の養分けいけんちになってもらったからヨロシク!」


「ひ、酷い……! 人の城を勝手に改造して、宝まで盗んで! 心が痛まないのか貴様はァ────ッ!?」


「ぜーんぜん」


 小指で鼻をほじりながらやる気なく答える晃弘。


「ゆ、許さん! 貴様だけは絶対に許さんぞ────ッ!!!!」


 魔王と外道、二人のエネルギーがさらに高まっていく。

 世界の命運と魔王のプライドをかけた戦いが、今────始まる!


もうどっちが悪者かわかんねぇなコレ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 超強化版ホー○アローンだなw
[一言] 麗羅てきには、胸の大きい方が敵だから、外道が悪でいいんでね?
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