変態にかける情けはない
お待たせしました!
鉄壁のグラーギを倒し通常空間に戻ってきた俺たちは、郊外の教会で九十九さんたちも交えて今後の対策について話し合いの場を設けた。
今回のように隔離空間を封じられたら俺たちは本気で戦えない。
敵も今回の件でそれを学んだだろうから、次からはもっと狡猾にこちらの弱点を攻めてくるだろう。
早急に対策を練らなければ戦闘の余波で地球がぶっ壊れて人類絶滅、なんてことにもなりかねない。
なお、エカテリーナはまだ体調が戻らないのと教会に入りたくないという理由から不参加である。
「つーわけでだ。隔離空間の使い方教えてくれるよね? クソマスコット君」
マチョイヌの頭をアイアンクローで締め上げとびっきりの笑顔でお願いする。
この野郎、小春に危ない役目を押し付けておいて自分だけ安全な場所に逃げやがって。
お兄ちゃん絶対許さないゾ☆
『痛だだだだだだ!? 嫌マチョ、それまで教えたらマチョ完全にいらない子になっちゃうマチョ~!』
「マスコットキャラなんて魔法少女に変身アイテム渡したらもうお役御免だろうが! お前なんて別に可愛いわけでもないんだからとっとと情報よこして失せろやボケが!」
『酷いマチョ! 小春からもなんとか言ってほしいマチョ!』
「ごめん。ずっと言おうと思ってたんだけどさ……。毎晩私のパンツ使ってコソコソなにかやってるでしょ。普通にキモイから」
『マ、マチョーッ!? な、ななななんのことマチョ!? ちゃんと洗濯して元の位置に戻してあったはずマチョ! ……ハッ!?』
墓穴を掘った変態マスコットにその場の全員から白い視線が向けられる。
ふーん? へぇー、あーそうですか。なるほどねぇ。
『ち、違うマチョ! これには理由があるマチョ! 断じて変態行為には使ってないマチョ! プロンテイ側との定時交信に必要な魔力を補うために仕方なかったマチョ! 魔法少女が一日身に着けていた肌着には魔力が染み付いてるからちょうどよかったってだけマチョ!』
「……私見たもん。マチョが私のパンツのニオイ嗅いで「うへへ」って言ってるとこ」
『マ、マチョーっ!? 違うマチョ、違うマチョ! マチョは無罪マチョ! 仮にマチョが変態だったとしてもそれは変態と言う名の紳士マチョ! 決して美少女JCの脱ぎたて生パンツに興奮するなんてそんな性癖マチョには無いマチョ!』
「そこっ!」
『痛ぁっ!? ……うっぷ!? おえぇっ!』
弁明すればするほど墓穴を掘って旗色が悪くなっていく変態マスコットに、何かを見抜いたレイラが鉄の針を投げつける。
すると変態マスコットの尻に刺さった鉄の針が何らかのツボを刺激したのか、マチョイヌが口から白い布の塊のようなものが吐き出して「べちょっ」と床を濡らした。
『あ…………』
涎でベトベトになったそれは、どこからどうみてもおパンツ以外の何物でも無かった。
「…………殺れ、影友さん」
「あいよブラザー」
『マ、マチョ────ッ!?』
ぱくり。バリゴリグチャベキ、ごっくん。
影友さんが一口で変態マスコットに喰らいつき、よーく噛み潰してから飲み込むとそれっきり声は聞こえなくなった。
【EXスキル『隔離結界』習得】
【称号『鬼いちゃん』獲得】
『鬼いちゃん』
妹のためなら心を鬼にできるシスコン野郎に送られる称号。
妹が近くにいるときあらゆる能力が一〇倍になる。
「よかったのか? 情報聞き出す前に殺っちまって」
今までずっと空気椅子をしていたマサが額の汗を拭い、メガネのズレを直して何事もなかったかのように聞いてくる。
お前はいつでもマイペースだな。
「問題ねぇ。術式そのものは今覚えたからな」
『まったく、いきなり食い殺すなんて酷いマチョ。スペアが無かったら死んでたマチョ』
「「!?」」
振り返ると死んだはずのマチョイヌがそこにいた。
ちっ! 殺しても別個体に記憶を移し替えて復活するタイプか!?
「殺れ、影友さん」
「あいよ」
『わぁー!? やめるマチョ! 死ななくても痛いものは痛いマチョ! 死にたくない! 死にたくなーい! ぎゃあーっ!?』
ボリゴリグチョムシャ。ごっくん。
『ひ、酷い目にあったマチョ……』
と、今度は椅子の下からひょっこり顔を出す変態マスコット。
くそっ、キリがねぇ。
「そのまま死ねばよかったのに」
「女性の下着を狙うなんて最低です。地獄に落ちろゴミムシ」
『おっふ……♡』
レイラとシスターマリアから絶対零度の視線を向けられゾクゾクと身体を震わせる変態マスコット。
なにちょっと感じてんだよ気色悪いな。
「九十九さん、コイツ封印してもらっていいっすか」
「よっしゃ任せとき。一万年は出られんようにしたるわ」
『わー!? 困るマチョ! なんでもするからそれだけは許して欲しいマチョ!』
「ほな向こうの世界の技術で知っとること洗いざらい話してもらおか」
『そ、それは流石に……』
「んん~? 今何でもする言うたやぁん」
自分で掘った墓穴に嵌って逃げ道を失う変態マスコット。
お前営業マン向いてないよ……。
こんなアホしか送り込めないところを見るに、プロンテイとやらは相当疲弊しているらしい。
「ところでずっと気になってたんだけど、そのメイドさん、もしかして兄ちゃんの彼女?」
「「ち、違うから!」」
「そうなの? なんか距離感が友達ってよりウチのお父さんとお母さんみたいだったから、そうかなーって思ったんだけど」
突然何を言い出すのかねこの子は!?
確かにウチの父ちゃんと母ちゃんも割としょっちゅうしょーもないことで喧嘩してるけども!
「べ、べべべ別にコイツはただの友達だし!? だいたい彼女にするならこんなやかましい女じゃなくて、もっとお淑やかな子にするっての!」
「はぁーっ!? 私だってこんなバカでスケベでデリカシーゼロなチビ助なんて願い下げよ!」
「な、なにをーっ!? よくも言いやがったなこのまな板女!」
「うっさいバーカ! チビ! シスコン!」
「お前こそファザコンじゃねーか! つーかあれから親父さんとはどうなったんだよ!」
「おかげさまでうまくやってるわよ! 今度の休みにお母さんとも会ってくるわ!」
「それはよかったな!」
「ええ、よかったわよ!」
「「ふんっ!」」
「ぷっくく……っ。すでに喧嘩でもなんでもないやん」
九十九さんのツッコミではたと我に帰る。
……なんで喧嘩腰のまま近況報告してるんだ俺たちは。
これじゃあまるでホントに夫婦みたいじゃ……ぬわぁぁぁぁ!
「あの二人は何を悶えているんでしょう?」
シスターマリアの純粋無垢な視線が痛い。
やめて、そんな目で見ないで死んでしまいます。
「ぷっくく……分からんなら黙って見ときや」
「爆発すりゃいいんだクソが」
「激しく同意ですね」
「ヤバイ、この二人ちょー面白いんだけど」
『ぺっ! イチャイチャしやがって、やってらんねーマチョ』
チクショウ! どいつもこいつも好き勝手言いやがって!
「おい変態! 不貞腐れてねぇでさっさと洗いざらい吐けコラ!」
『先に話題を脱線させたのはそっちマチョ!? 八つ当たりはやめて欲しいマチョ!』
「うっさい! パンツ食べるような変態に人権なんて無いわよ! なんなら頭に針打ち込んで無理やり喋らせてもいいのよ!?」
『ひぇぇーっ!? 全部話すから勘弁してくれマチョ!』
レイラが鉄の針を変態マスコットの鼻先に突きつけると、変態が悲鳴を上げて尻から光る玉を「ポロっ」と産み落とす。
「口で説明してたら何百年かけても終わらないマチョから、ここにマチョの知るすべての情報を込めたマチョ。解析するなら勝手にやればいいマチョ」
「光るウ●コ手渡すなよ汚ぇな」
『ウ●コじゃねーマチョ!』
「ほれタッツン、パス!」
「うえっ!? ちょっと! ウ●コ投げないでくださいよ! マサ、パス!」
「やめろよ汚ぇな。ほーれヒロ、受け取れっ!」
「ぎゅぷっ!?」
マサの全力投球が俺の顔面に突き刺さった。
ま、前が見えねぇ……。
「「やーい、顔面ウ●コマン! えーんがちょ!」」
「上等だテメェら……ぶっ殺してやんよ表出ろやゴラァ!!!!」
『だからウ●コじゃねーって言ってるマチョ!?』
逃げるバカ二人を追いかけ俺は教会の外へ飛び出した。
待てやコラァーッ!!!!
☆
魔王城 玉座の間
「よもやグラーギまでやられるとはな……」
手元の水晶玉に映し出された映像を眺め、魔王が僅かに怒気を孕んだ声を漏らす。
「ベルダ!」
「はっ! お呼びでしょうか魔王様」
魔王の呼びかけに応えて、四天王「魔剣」のベルダが即座に魔王の御前に現れて跪く。
「貴様に殲滅師団全軍の指揮権を渡す。次の侵攻にてかの地を落とせ」
「っ!? はっ! このベルダ、魔剣の名にかけて必ずや魔王様のご期待に沿って見せましょう!」
魔王軍殲滅師団。
伯爵級魔人以上の精鋭のみを集めた、総数五〇〇〇からなる魔王軍最強の師団である。
総数の一〇分の一も投入すれば高度に発達した文明すら一夜にして滅ぼすほどの戦闘力を誇る殲滅師団の全軍指揮権を移譲するあたり、魔王の本気が伺えた。
「ゴフッ!? ゲホッ、ゲホッ! ……ぐぅっ」
ベルダがその場を去ったあと、魔王が血混じりの咳をして低く唸る。
(……くっ。そろそろこの身体も限界が近いか。なんとしても見つけるのだ、余の器たり得る究極の肉体を……!)
魔王様、焦る。




