VS 鉄壁のグラーギ!
夜鳥羽市を封鎖していたバリアが内側から破られ、世界の色彩が広がるように反転していく。
いったい何が起きたんだ?
この光がグラーギを弱体化させているのは間違いなさそうだが、九十九さんが何かやったのだろうか。
空から降り注ぐ光から隠れるようにグラーギが自らの周囲に幾重にも防壁を重ね合わせ、一切の光を通さぬ漆黒の八面体が完成した。
「おのれ小癪なマネを! この程度の結界で吾輩を滅せるとでも思っ────」
刹那、グラーギの言葉を遮るように真下から巨大な質量が凄まじい速度で漆黒の八面体に激突。
そのまま空高く突き上げられた漆黒の八面体が夜鳥羽市を囲っている八角形の結界の天井にぶつかり、「ゴォォン!」と鐘のような音が響き渡った。
「兄ちゃーん!」
「おーい! 二人とも大丈夫ですかー?」
と、魔法少女に変身した小春とタッツンがそれぞれ別の方角からこちらに向かって飛んできた。
あれ、エカテリーナは?
「あ、なんか家の近くにいたお姉さんから伝言。この光のせいで気分悪いから今回はむりーって言ってた。マチョも巻き込まれたら死ぬからってお姉さんと一緒に影の中に隠れちゃった」
あのクソマスコット、小春だけ矢面に立たせて自分だけ安全圏に逃げるとはいい度胸だ。あとで影友さんのおやつにしてやる。
「なんか九十九さんの術みたいですよコレ。なんか『ヘキサ・サンクチュアリ』とか、最高司祭の承認がどうたらみたいなこと言ってシスターマリアが驚いてましたけど」
「なにそれカッケェ」
よく分かんないけど多分コレ、アニメとかでよく見る偉い人の承認が無いと発動できない系の大規模術式だ。
不覚にも少しときめいちゃったじゃん。そういうのもう卒業したと思ってたのに。
「それでどうすんだよアイツ。さっきの攻撃でもビクともしてねぇみたいだけどよ」
マサが指差す先に目を向ければ、小春の不意打ちを受けてもなお無傷の漆黒の八面体があった。
するとどこからともなく狐を模った炎が現れて、漆黒の八面体の周囲で踊るように跳ね回り、一匹、二匹と徐々にその数を増やしていく。
やがて狐の数が九匹になると炎の色が一斉に紫へと変わり、狐から髑髏へと形を変えた炎が次々弾けて消えていく。
と、次の瞬間――――
「ぎぃゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
身も竦むようなグラーギの絶叫と共に、漆黒の八面体が揺らいでボロボロと崩れ落ちていく。
「まったく、揃いも揃ってゴリ押しするしか頭に無いの?」
「あ、レイラ」
声に振り返ると魔法少女に変身したレイラが呆れ顔で腕を組んでそこにいた。
「……何したのお前」
「ちょっとご主人様から教わった呪いをかけてやったのよ。なんにせよ一発で決まってくれてよかったわ。聖八角封陣結界の影響下だからかしら」
「いやちょっとってレベルじゃねーだろアレ」
大量の呪符が貼られたステッキをグラーギに向けてレイラが「ふん」と鼻を鳴らす。
当のグラーギはと言えば鎧の隙間から黒い血をドバドバ噴き出して悶え苦しんでいた。怖っ!?
お前のステッキ、死にかけのバッタみたいに小刻みに跳ねてるけどホントに大丈夫なのソレ? 突然爆発したりしないよな?
「キィィサァァマァァァァァァッ!!!! 吾輩の身体に何をしたァァァッ!!!!」
「わざわざ説明してやる義理もないわね。とっとと消え失せなさい侵略者!」
レイラがステッキを振りかざすとグラーギの頭上に魔法陣が現れ、特大の火球が流星のごとく降り注ぐ。
グラーギも障壁を次々と展開して火球を受け流すが、明らかにさっきよりも障壁の強度が落ちているのが目に見えて分かった。
やっぱり弱体化って有効な戦術なんだな。
「ほら、ボサっとしてないでアンタらも畳み掛けなさい!」
「「「アッハイ」」」
「ねぇ、兄ちゃんこの人知り合い?」
「後で話す! 行くぞ小春!」
「あ、うん」
肉体を霊力に変換して現人神モードへ変身した俺は、グラーギの背後へ回り込んで渾身の正拳突きに乗せて超圧縮した霊力を解き放つ!
「必殺! 『超破霊拳!』」
【スキル『超破霊拳Lv九』を習得】
瞬間、ソニックブームを発生させながら、くの字に折れ曲がったグラーギの身体が地上に向かってブッ飛んでゆき、拳に乗せて打ち込んだ霊力が地表で大爆発を起こし大地に巨大なクレーターが穿たれた。
すると土煙の紗幕が「轟ッ!」と吹き飛び、八面体の障壁で守られた魔核が現れ────
ピシ……ッ!
今まで何をやっても傷一つ付かなかった障壁に罅が入り、ガラスが砕けるように障壁が割れて魔核が剥き出しになった。
チャンスだ! やるなら今しかない!
高密度に圧縮した徹甲霊力弾でグラーギの魔核を狙い撃つ。
だがグラーギは肉体を瞬く間に再生させ、霊力弾を片手で弾き飛ばした。
漆黒の鉄仮面の奥で紅い瞳が炎のように揺らぎ、上空にいる俺を見上げたグラーギが兜の奥でニヤリと嗤う気配。
な、なんだ……? 嫌な予感がする。
「……認めよう。貴様らは強い。吾輩が全力を以て相手をせねばならぬほどにだ……!」
グラーギが力を込めると、鎧がボロボロと朽ちて全身から剥がれ落ちていく。
鎧の下から黄金の角とコウモリのような翼を持つ屈強な純白の悪魔の肉体が現れ、グラーギの気配が何十倍にも膨れ上がった。
「光栄に思え。この姿を見せたのは魔王様を除いてお前たちが初めてだ。吾輩のすべての防御能力を攻撃面へ転換した超攻勢形態の力、とくと味わうがよい!」
グラーギを中心に空間が震えるほどの魔力が集まっていく。
「全員備えr」
「マジカルゥゥゥゥッ! シュ────────ト!!!!」
俺が言い切る前にグラーギが魔力を解き放ち、爆発的に広がった魔力の壁と小春のマジカルシュートが激突。
衝突によって生じた衝撃波が聖なる結界を粉々に打ち砕き、大地に巨大な亀裂が走り、そこから噴き出した溶岩が地表を焼き尽くしていく。
「甘いわッ! 喝ァ────ッ!!!!」
グラーギの魔力がさらに上がり、小春のステッキが徐々に押し返されていく。
「オレの魔力を使ってくれ小春ちゃん!」
「僕のも貸しますよ!」
「負けないで小春ちゃん!」
小春の後ろにいたマサたちが小春の背中に手を置き魔力を譲渡する。
三人から魔力を受け取った小春のステッキがさらに重量を増してグラーギの魔力を押し返していく。
「いっけぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
「ぬぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 嘗めるなぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
グラーギの魔力がさらに上がって、超パワー同士の激突に耐えきれなくなった地球が崩壊し始めた。
すると突然、超巨大化したハート飾りの表面に亀裂が走り、グラーギの魔力が小春のステッキを一気に押し返していく。
まずい!? ステッキが魔力の負荷で崩壊し始めた!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 受け取れぇぇぇ────ッ!!!!」
混沌神モードへ変身した俺は、ありったけの混沌エネルギーを小春のステッキに向けてブッ放す。
玉虫色に輝く混沌エネルギーがステッキの亀裂に吸い込まれてゆき、ハート飾りが激しい光を放って内側へ向かい崩壊し始め、小規模なブラックホールが形成された。
「ぬぐぉおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ブラックホールはそのままグラーギと地球を飲み込みながら猛スピードで直進し続け────……!
太陽系の外までブッ飛んでいったブラックホールが爆発!
煌めく星屑を撒き散らし、鉄壁のグラーギはこの世界から完全に消滅した!
【レベルが 一三 上がった】
_人人人人人人人_
>結局ゴリ押し!<
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄