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異端神滅官

 九十九つくも一二三ひふみ。若干男色疑惑のある俺の純情を弄んだクソ野郎がヘラヘラ笑いながらこちらに近づいてくる。


「テメェよくも俺の前に顔出せたなコノヤロー!」


「なんや、まだ風呂場でのこと根に持っとるんかいな。あんなん軽いジョークやんけ。今度メイド喫茶奢ったるから許して―な」


 悪びれもせず馴れ馴れしく肩を組んでくる銀髪糸目エクソシスト。

 ……ほう? メイド喫茶とな。


「……ちなみにここだけの話、その店、麗羅チャンにそっくりな娘がおるんや。おっぱいこーんなボインボインのなぁ。ほれ、オムライス無料券あげるで。な?」


 そう言って九十九氏ソウルブラザーが俺の手にピンク色の紙切れをそっと握らせてくる。

 ……ふむ、ぴゅあメイド喫茶「はにぃますたーど」とな。


 まあ、無料券に罪は無いし、貰えるなら貰っておこう。

 決してやましい意図は無い。無いったら無いのだ!


「嘘だったらナメクジに変えてトイレに流してやるからな」


「おーこわこわ! 堪忍してや」


「ちょっと! 無視しないでください! なぜ貴方がここにいるのですか九十九つくも一二三ひふみ!」


 なにやら知り合いらしいシスターマリアが詰め寄ると、九十九さんは「やれやれ」とわざとらしく肩をすくめた。


「そら教皇から異端神滅官ディサイドの独断専行を止めるよう依頼されたからや。特にマリアチャンの異教徒嫌いは目に余るモンがある言うて教皇のおっちゃんも頭抱えとったで」


「ちっ……あのクソジジイめ! 余計なことを」


「ははは、相変わらず口悪いなぁマリアチャンは。折角の美人さんが台無しやで」


「黙りなさい裏切り者! 神罰の代行者たる異端神滅官ディサイドの職を放棄したゴミカス野郎がッ!」


「ごめんごめん。許してーや。ほれ、飴ちゃんやるさかい」


「いりませんっ!」


 シスターマリアからの罵詈雑言ばりぞうごんもどこ吹く風で、九十九さんはヘラヘラとした笑みを崩さずまったく誠意の感じられない謝罪を繰り返す。

 ……この人実は結構すごい人だったりすのかね?


「なあ、この人誰? ヒロの知り合い?」


「はぁ!? 貴方、九十九一二三の名前を知らないなんてさてはモグリですね!? いいですかこの人はかつて僅か一〇歳の若さで単独で魔王バアルを討滅して聖十字教会が誇る退魔組織『異端神滅官ディサイド』の筆頭殲滅官に任命された天才ですよ!? 本来ならあなたのような異教徒のカスが同じ空気を吸うのもおこがましいレベルの人です恥を知りなさいクズめっ!」


「早口でめっちゃディスられた……」


 元の姿に戻ったマサが涙目になって「しゅん」と縮こまる。

 鋼マッチョメンタルのマサを涙目にさせるなんて……シスターマリア、恐ろしい子!


「……つーか九十九さん、前に戦闘は苦手とか言ってませんでしたっけ?」


「苦手やで? ワイの術はなんもかんも皆殺しにして地獄送りにしてまうからな。それが嫌で異端神滅官ディサイド辞めてエクソシストになったんや。ワイは困っとる人も魂もみんな救ったりたいねん」


「異教徒なんて煉獄で永遠に焼かれればいいんです」


「……な? 部下はこんなんばっかやし。流石に心のひろーいワイでも嫌んなるわ」


 あー、そりゃ納得ですわ。


「それで、九十九さんでしたっけ? なんかさっき気になること言ってましたよね。僕たちがメシアに認定されたとかなんとかって」


 タッツンが折れかけた話の腰を元に戻す。

 ああ、それ。俺も気になってたんだ。なんだよメシアって。そんな大それたものになった覚えないんだけど。


「それな。今魔王がこの世界を侵略しに来とるやろ? ほんでその手先を倒したっちゅーことで君ら全員救世主(メシア)として認定されたんや。せやからこれから聖十字教会は君らに全面協力するで」


「隔離空間には魔法少女以外入れないはずじゃ……」


「入れずとも中の様子を見ることくらいはできるんやで? 地球ぶっ壊すような超戦力と敵対するより、媚び売っといた方が得策やと思われたんやろなぁ」


 なるほど。

 どうやら俺の一撃は意図せぬ内に地球の各勢力に対する派手なデモンストレーションになっていたらしい。


「待ってください! そんなの納得できません! 主は間違いなくコイツは災いの元凶になるとお告げを下しているんですよ!? それなのにコイツに味方するなんて主への反逆です!」


 が、やはりシスターマリアは納得できないらしく、俺たちを睨みながら九十九さんに食い下がった。

 ったくおっかねぇなぁ。異教徒に親でも殺されたのかこの子。


「そのお告げ、本当に神サンが下したものなんか? 神サンに成りすました魔王の囁きやないって誰が証明できんねん」


「私の信仰心こそが証明です! 私が悪魔の囁きになど惑わされるはずがありません!」


「んなもん証明にもならんわアホ!」


 鋭いチョップがシスターマリアの脳天に落ちた。


「痛いっ!? 何するんですか!?」


「ごめんなぁ、この子根は素直なエエ子なんやけど、ちょっとアホやねん」


「なんですかアホって! 謝罪を要求します!」


「ほんじゃ改めまして、ワイはエクソシストの九十九一二三や。二人ともよろしくな」


「ども、熊谷雅也っす」


「富岡辰巳です」


「ちょっと! また無視ですか! 流石に泣きますよ! ねぇったら! おーい!」


 シスターマリアが俺たちの周囲をチョロチョロ動き回るのを無視して初対面の三人が簡単に自己紹介を済ませる。

 するとここでエカテリーナから俺のスマホに電話がかかってきた。


『もしもーし。まだ生きてるかしらー?』


「おう。まあなんとかな。そっちはどうだ?」


『とりあえずボーヤの家の周辺でウロウロしてた怪しい奴は全員捕まえて大人しくさせたわ』


「サンキュー。ああそれと、なんか俺らがメシア認定されたらしくてな。とりあえず聖十字教会は敵じゃなくなったっぽいわ」


『はぁ!? 何、俺らってまさか私も含まれてないでしょうね!?」


「ちょいと電話借りるでー」


 俺たちの通話を横から聞いていた九十九さんが俺のスマホをひょいと掠め取り電話を代わる。


「もしもーし、エカテリーナか」


『うげぇ!? その声まさかヒフミ・ツクモ!?』


「うげぇは流石に傷つくわ。あ、そうそう。お前さん、今回の件を受けて正式に宵闇の天使『Yekahtevhrinaエカテフリーナ』として聖典に名前が刻まれることになったでよろしく頼むわ」


『はぁ!? 人の名前に勝手に変な四文字付け足さないで! なんで私が人間風情の守護者にならなきゃいけないのよ! 今まで散々勝手に因縁つけて追い回してきたくせに!』


「まあそう言うなや。代わりにお前さんを異端神滅官ディサイドの討伐リストから永久除外するそうや。もう誰にも追われず堂々とできるで」


『ふざけんな! 今更そんなことされて納得できるわけ────』


 エカテリーナが電話越しに長年の不満をぶちまけようとした、その時だった。


「あれ? もしもし? もしもーし。切れてもうた……」


「っ!? 九十九さん、アレ!」


 何かに感づいたシスターマリアが教会の屋根の上に飛び乗り町の中心部の方を指差す。

 俺たちも屋根の上に飛び乗ってシスターの指差した方向へ視線を向けるとそこにあったのは……。


「なんやアレ……!?」


 夜鳥羽市をすっぽりと覆いつくす巨大な半透明のドームと、色彩の反転したドーム内の街並み。そして……。


「ふむ、ゴードが暴れたにしてはやけに被害が少ないと思っていたが、やはり別位相の疑似空間を展開していたか。だが、こうして封じてしまえばどうすることもできまい」


 ドームの上に立つ漆黒の鎧を纏った騎士が兜の下で紅い瞳を「ギラリ」と輝かせ、隣町に向けて手をかざす。……まずいっ!


「うぉぉぉぉおおおおお!! 間にあえ────ッ!!!!」



 魔法少女に変身して一気に上空へ飛び出した俺は、漆黒の騎士が隣町へ向けて放った半透明の球体をステッキで遥か上空へとカチ上げる。

 と、次の瞬間。



 ────ッドォォォォォォォオオオオオオオオオオッ!!!!



 夜空に特大の火球が出現して夜の闇が打ち払われ、凄まじい爆圧が周囲の雲を遥か彼方まで吹き散らした!


「ほぅ……。その魔力、どうやら貴様がゴードを屠った戦士で間違いなさそうだな」


「テメェも魔王の手先か!」


「いかにも。吾輩は魔王軍四天王『鉄壁』のグラーギ。魔王様の命を受けこの世界を頂戴しに参った。我らが軍門に下るがよい、異世界の戦士よ。ゴードを屠るほどの実力とあらば魔王様も重用してくださるだろうよ」


「ふざけんな! 誰が侵略者なんぞに下るかバーカ!」


「ふん、所詮は異世界の下等種族か。ならばここでその命散らすがよいわッ!!!!」



禁じ手 ご都合主義封じ!




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