ガチの侵略戦争に愛と勇気は通用しない
「……で、なんなのよこのとんちきコスプレ集団は」
第二ふくろう公園の時計台前に集まった俺たちを見て、制服姿のレイラが開口一番げんなりとそう吐き捨てた。
マチョイヌいわく、ゲートの出現予測地点がこの公園の上空とのことで、学校から鍵を使って移動した俺たちは万が一に備えて公園にいた人々をエカテリーナの催眠を使って避難させた。
それから少しでも戦力が多いほうがいいかと思い、逢魔さんに連絡したらレイラが派遣されてきて現在に至る。
「失礼な! マサ以外はちゃんと可愛いだろ!」
「なんだとこの野郎! オレだって可愛いだろうが!」
「どこがだよ!?」
「この女性らしい豊かなバストとか腹筋とかエロすぎだろうが! オラ! もっとよく見ろや!」
「オメーのそれはおっぱいじゃねぇ、ただの胸板だ!」
魔法少女に変身したマサがゴリラも真っ青な大胸筋を俺の顔に押し付けてくる。ぐわぁぁぁ!? 暑苦しい!
赤を基調とした情熱的で大胆なコスチュームに変身したマサだが、体格が元のままなので雑なコラ画像にしか見えない。
ムッキムキの逆三角形ボディーに赤髪ツインテール美少女の小顔が乗っかっていてとてつもなくアンバランスだ。
「ハンッ、二人ともアホですねぇ。この中でなら僕が一番魔法少女っぽいでしょうに」
中性的な青髪美少女と化したタッツンが青い髪をさらりとかき上げて自信たっぷりに俺たちを嘲笑う。
実際タッツンは鵺との戦いで激ヤセしていたこともあり、青を基調とした中性的な衣装を見事に着こなしている。
「けど、青髪ヒロインって不遇ポジじゃん。メインヒロインには絶対になれないからオレの勝ちだな」
「なんてこと言いやがるんですかテメェは!? 全国の青髪ヒロイン推しに謝れ!」
「フンッ! オレは事実を言ったまでだ!」
「上等! 拳で決着つけてやりますよこの筋肉ダルマ!」
「おうかかってこいや! 痩せてイケメンになったからって調子乗ってんじゃねーぞ!」
「やめなさいったらもぉー! まったく、揃いも揃ってアホしかいなくてやんなっちゃうわ……」
ぎゃいぎゃいと取っ組み合いの喧嘩を始めたタッツンとマサを取りなしつつ、エカテリーナがやれやれと首を横に振る。
エカテリーナは見た目の年齢まで大きく変化しており、黄色を基調としたハードパンク風の衣装がよく似合う金髪ロリ戦士へと大変身を遂げていた。
「……で? アンタは何普通に可愛くなってんのよ」
「ふふん! どーだ、そこのイロモノどもと違っておっぱいもちゃんとあるぞ!」
「チッ!」
俺の正統派変身ヒロインっぷりに嫉妬したレイラの舌打ちが耳に心地良い。
ふはは! どうだ羨ましかろう! Gカップはあるぞ!
髪は濃いブラウンのショートカット。
衣装は黒を基本としたカッコイイデザインで、魔法少女と言うよりどっちかと言えばプリ○ュアっぽいけど可愛いから問題ない!
「むきーっ! 誰がイロモノだ! こんな偽乳もいでやる! もいでやるーっ!」
「どーせパッドかなんかで盛ってるに決まってますよこんなデカ乳! 剥いてしまえ!」
「あっ、こら! 何すんだやめろバカ! あっはははは!? くすぐった痛たたたたたたた!? 千切れる! 乳がもげるーっ!?」
スパパパーン!
「いい加減にしなさいっ!」
「「「サーセン」」」
レイラのハリセンが炸裂して俺たちは正気に戻った。
女体化してちょっとテンションがおかしくなっていたようだ。
「ねえアナタこっちの学校に転校してこない? 私だけじゃこのおバカさんたち制御できる自信ないわぁ」
「ぜーったいにイ・ヤ! 護衛任務はアンタへの罰でもあるんだから我慢してやりなさい!」
「うぅ~! 意地悪ぅ~!」
涙目で縋りついてくるエカテリーナをレイラが嫌そうな顔で引き剥がす。
おいコラ、人を罰ゲーム扱いすんじゃねぇよ。
「それで、アンタがプロテインだかなんだかっていう異世界の住人?」
『プロンテイマチョ! 君からも素晴らしい魔法少女の才能を感じるマチョ!』
「あんまり嬉しくないのはなんでかしらね……」
タッツンから受け取った魔法のステッキを手の中でくるくると弄びながら、レイラがジト目をこちらに向けてくる。
なに見てんだよ!
「……まあいいわ。これでないと対抗できないって言うなら使ってやるわよ。マジカル★チェンジアップ!」
レイラの全身が光に包まれ、身体の各所で光が「パチンッ!」と次々弾けて、翼飾りの付いた白いフリルドレスへと変化していく。
最後は長い黒髪を靡かせてカッコよく決めポーズ!
なんだかんだノリノリじゃねーか。
あと、やっぱりちょっとプリ○ュアっぽいのな。奇しくもブラックとホワイトが揃ってしまった。
『そろそろ来るマチョ! みんな備えるマチョ!』
全員の顔に僅かに緊張の色が混ざる。
カウントダウン……三……二……一!
瞬間、見上げた空に亀裂が走り、鋭い爪を持つ巨人の手が亀裂をミシミシと押し広げていく。
『今マチョ! 隔離空間展開!』
世界の色彩が反転すると同時、亀裂が強引にこじ開けられて、夥しい数のモンスターたちがこちら側になだれ込んできた。
瞬く間に空は飛行型モンスターたちの影で真っ黒に覆いつくされ、地上に降り立った陸生型モンスターたちが開戦の雄たけびをあげる。
『戦い方は魔導霊装が教えてくれるマチョ! 閉鎖空間内での破壊は現実世界に適応されないから思う存分暴れまくるマチョ!』
「うおぉぉぉぉッッ!! 唸れッ、オレの筋肉ゥゥ────ッ!!!!」
スカイツリーに匹敵するほど巨大化したマサが腕を薙ぎ払うと、それだけで暴風が巻き起こり、上空の敵が乱気流に飲まれて血煙と化した。
クソッ! マサのアホが巨大化したせいでカッチカチの尻とクマさんおぱんちゅが地上から丸見えだ! 全然嬉しくねぇ!
「そのままヘイト集めといてくださいよ! コピー術式展開! 全砲門解放! インフィニティ・フルバーストッ!!!!」
タッツンの背後に大量の魔法陣が現れ、そこから機関銃のような勢いでミサイルが次々と炎の尾を引いて空へ向かってカッ飛んでいく。
すると爆炎が空を塗りつぶし、巨大化したマサに群がっていた小型の飛行モンスターが木端微塵に消し飛んだ。
「闇に呑まれて消えなさい」
エカテリーナが魔法のステッキを指揮棒のように振るうと町全体を飲み込むように闇が足元に広がり、地上で暴れ回っていたモンスターたちが闇の中へ沈み込んでいく。
すると「バリバリゴリゴリ」と悍ましい咀嚼音と断末魔があちこちから上がった。
「ほう、異世界人も多少はやるようだな」
空に開いた亀裂に指をかけていた巨人がゆっくりとこちら側に顔を出す。
緑色の肌に黄金の瞳。
頭には三本の角があり、口元には長い牙が上向きに生えている。
巨大化したマサのさらに三倍はあろうかという巨体が、ついにこちら側の大地を踏んだ。
「配下どもでカタが付くならそれまでと思っておったが、なかなかどうして骨のある戦士もいるではないか。貴様らの奮戦に免じて我が直々に戦ってやろう」
巨人が背中に背負っていた大剣を鞘から引き抜き、世界を割らんほどの大音声で名乗りを上げた。
「我が名は魔王軍四天王『剛力』のゴード! この世界に破滅を齎す者の名をその魂にとくと刻むがよいッッ!!!!」
※本来なら魔法少女歴1週間の少女が戦うはずだった軍勢と四天王。敵の殺意高すぎィ!!!




