表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/144

Hello new world

「あ、起きた」


「遅ようお兄ちゃん」


 気がつくとまず五芒星と北斗七星の描かれたベッドの天蓋てんがいが目に入る。

 扉の城の一室。

 ベッドの横の椅子に腰掛けて座敷童に絵本を読み聞かせていたレイラがこちらに向けた。


 なんだ、エクストリーム金太郎って。


「……どれくらい寝てた?」


「丸一週間。部屋の外じゃまだ一分も経ってないわよ。どこか痛んだりとかはない?」


 俺が聞くと、レイラからそっけない返事が返ってくる。


 身体を軽く動かしてみるが、どこにも異常は感じられない。

 腕も二本に戻ってるし、むしろ前より調子がいいくらいだ。


「お姉ちゃんね、お兄ちゃんが全然起きないからもう目を覚まさないんじゃないかって心配して泣いてたんむぐぅ~!?」


「こ、こら! 余計なこと言わないの!」


 座敷童が側によって俺にひそひそと耳打ちすると、レイラが真っ赤な顔で座敷童の口を塞いて慌てたように俺から引き離す。


「……な、なによその顔は!」


「べっつに~?」


 なんだよ、可愛いとこもあるじゃんかよ。

 普段からそれくらい素直ならいいのに。


「……心配かけんな、バカ」


 俺に背を向けながらボソッとレイラが呟く。


「……悪い。おかげで助かった。ありがとな」


「……ふん。お礼なんていいわよ。…………友達なんだから」


 つっけんどんな返事の最後に付け足された蚊の鳴くような声を俺の耳は聞き逃さなかった。


「あー、お姉ちゃん顔真っ赤むぐぅ~!?」


「だーかーらー! 余計なこと言わないの!」


 ホント昔から変わんねぇな、そういうとこ。

 …………ん? あれ、思い出せる!

 小学校の頃の思い出も、修学旅行のときのことも。全部。

 なんでだ? 神になったからか?


 あのときはレイラの呪符で幽霊を見えるようにしてもらって俺たち四人で大悪霊に挑んだけど、ボロ負けして、それで……。


 悪霊に首を絞められ霞む視界に映った、朧げな悪魔の姿。


 ……契約ってそういうことかよ。

 くそっ、一人で無茶して全部背負い込みやがって。


「おいレイラ」


「な、なによ」


「なんかあったら俺を頼れ! お前に借り作ったままとか気持ちわりーんだよ! いいな! 絶対だかんな!?」


「っ! アンタ……!」


 しーらね。俺はなんも知らねぇぞ。

 小学生のころまったく同じこと言った気がするのは多分気のせいだ。


「……ふっ。なによそれ。意味分かんないわよ」


 しかし、そう返す声はどこか嬉しそうで。

 小学生のときもまったく同じことを言われた気がするのは絶対気のせいだ。


 助けてもらった礼なんか言わねぇからな。

 一人で全部背負い込みやがってバーカ。


「ところでタッツンとマサはどうしたんだよ」


「アイツらならもう逢魔さんから報酬貰って帰ったわよ。アンタならほっといてもその内目ぇ覚ますだろって」


「ケッ、薄情なやつらだぜ」


 まあ、あんまり心配されてもそれはそれでキモいけどな。

 アイツらとの距離感はこれくらいでちょうどいい。


「んじゃ、そろそろ帰るわ」


「待ちなさい。ほら、今回の報酬」


 ベッドのわきに置いてあったアタッシュケースをレイラから渡される。

 開けてみると札束がギッシリ入っていた。


「……多くね?」


「世界を救った報酬なんだからむしろ少ないくらいよ」

 

「いや、こんな大金貰っても管理できねぇよ」


「じゃあこっちで専用の口座開いて運用しておくから、まとまった額が必要になったら逢魔さんに連絡して」


「お、おう。助かる」


 レイラにアタッシュケースを預けて何やら寂しそうに俺を見つめる座敷童の手を引く。


「ほら、帰るぞ」


「帰るぞって……いいの?」


「何言ってんだよ。お前もウチの子だろうが。つーかいつまでも名前無いのも不便だな……お前名前とか無いの?」


 一瞬ポカンとして、それから嬉しそうに「にやー」っと笑った座敷童が俺を追い越しドアの外に出て、くるりとこちらに振り返り、


「にひひ、教えてあーげない!」


 いたずらっぽい笑みでそう答えた。



 ☆



 世界の命運をかけた戦いから早くも一週間が経った。


 あの夜の戦いの痕跡は臥龍院さんと逢魔さんの手で完全に消し去られたようで、ニュースとして騒がれるようなこともなかった。


 優芽と座敷童は翌朝にはウチの末の双子姉妹()()()ことになってた。


 元々霊的感能力が高かった優芽ゆめは、長い間座敷童に憑依されていたことで座敷童と同じ能力がいつの間にか開花していたらしい。


 座敷童は新たに犬飼芽衣いぬかいめいという名前を得て、今では優芽と一緒に毎日仲良く小学校に通っている。


 戸籍なども最初からそうであったかのように存在したので、法律的にも本当にウチの子だ。

 ランドセルや服は連休の最終日に俺が家族に内緒でこっそり買ってあげた。




 それはそうと、今世間では人類全体に起きたある変化についての話題で持ちきりだった。


 共感力の進化。

 人類が元々持っていた他人に共感する力が、ある日突然大きく進化したのだ。(いったい何者の仕業なんだ)


 それにより人は他人の心を自身の肉体的な感覚で捉えられるようになった。

 相手がプラスの感情を持っていれば快感を、マイナスの感情なら痛みを。

 さらに想像力の大幅な発達により画面の向こう側にいる人の痛みや喜びも感じ取れるようになり、相手が伝えようとしてることを一切の齟齬なく読み取れるようにもなっている。


 結果、世の中はちょっとだけ他人に優しくなった。

 みんな痛い思いはしたくないし、させたくもないから当然だろう。


 SNS上からは誹謗中傷や無意味なマウントの取り合い、勘違いを原因とする攻撃的なやり取りがパタリと消え、代わりに日常の喜ばしい報告や、励ましや応援のコメントが増えたように思う。

 ニュースによれば世界の一部地域では戦闘を中断して、完全な終戦に向けた話し合いが近日中にも行われるらしい。


 宗介が汚いと断じた世界は、今急速に変わりつつある。

 確かに人間はみんな自分勝手だし、中には死んだ方がマシなクズがいるのも確かだ。

 けど、そればっかりでもないことを俺は知っている。

 だから俺は人の可能性に賭けた。


 その結果がどうなっていくかは、神の一柱としてこれからじっくり見ていこうと思う。


「なにニヤニヤしてるんです? 気持ち悪いですよ」


「すっげぇスケベな顔してたな」


 朝、普段よりも少しだけ雰囲気の良くなった教室を見渡して頷いていると、タッツンとマサが声をかけてきた。


「オメェらは相変わらず変わんねぇな。少しは神を敬えよ」


「それ言ってるのヒロだけですからね?」


「お前が神ならオレはスーパーゴッドだっつの」


 失礼な。ステータス画面にもちゃんと書いてあるんだぞ!

 ほれこの通り、ステータス!




犬飼(いぬかい) 晃弘(あきひろ) レベル一(☆)


 

 戦闘力一〇垓


 保有ソウル(端数省略)

 五垓(MAX)/六垓(NEXT LEVEL)



 保有スキル

『不滅の身体Ex』『超霊闘気Ex』

『霊力波Lv一〇(MAX)』

『払魔闘術Lv八』

『霊力弾Lv一〇(MAX)』

『精神防壁Lv七』『霊力探知Lv四』『霊力察知Lv七』

『呪怨封緘Lv八』『飛行Lv八』


 新スキル

『空間移動』『混沌の種』


 獲得称号

『ゴーストバスター』『カリスマ除霊士』『波ぁッの人』

『急成長』『人間卒業』『幽霊物件クラッシャー』

『死を乗り越えし者』『ほぼ不死身』『超人類』

『デビルスレイヤー』『都市伝説殺し』

『ジャイアントキリング』『呪怨払滅』『魂の救済者』

『呪いがナンボのもんじゃい!』『重力からの解放』

『ナマ言ってすんませんでした』



 新称号


混沌神カオス』『現人神あらひとがみ



混沌神カオス


 無限の可能性を司る神の証。

 あらゆる可能性の中から任意の可能性を掴みとることができるが、確実ではない。

 また、想像力の外側にある可能性は掴めない。



現人神あらひとがみ


 人でありながら神へと至った者の証。

 あらゆる能力が劇的に向上し、神としての権能を振るうことが可能となる。




「ほらな? ステータス画面にもちゃんと書いてあるじゃねーか」


「それ見えるのヒロだけですからね? 妄言も大概にしろって話です。それより、今日から来る新しい先生の噂、もう聞きました?」


「ああ、そう言えば谷塚やつかちゃんの代わりに新しい人来るって言ってたな。すげー美人なんだって?」


 谷塚やつかちゃんとは俺たちの担任教師である。

 現在妊娠中で今週から出産と育児のために休暇に入った。


 その代わりに今日から新任の教師がやってくるらしいのだが、なんでも噂によるとその教師がとんでもなく美人らしい。


「なんでも新任の先生は語学堪能な金髪美女らしいですねぇ」


「……なーんか嫌な予感がするのはオレだけか?」


 と、ここでチャイムが鳴り教室の前の戸が開き、教室中から息を飲む声が上がった。


「はぁい、みんな席に着きなさぁい。私が今日からこのクラスの担任になるエカテリーナ・ツェペシュよ。担当教科は前任のミセス谷塚やつかと同じく英語を担当するからよろしくね♡」


 大きく胸元を開いたスーツ姿の金髪メガネ美女が「バチーン♡」とウインクをかます。

 数人の男子どうていが鼻血を吹いてブッ倒れ、残りの全員が一撃で女教師の魔性の色香に魅了された。


「みんな耳を塞ぎなさーい」


 俺とマサとタッツン以外の全員がぼんやりした顔で耳を塞ぐ。


ぬえのセクシーお姉さん!? なんでここに!? つーか吸血鬼が昼間から出歩いて大丈夫なのか?」


「ふっふーん、ボーヤのおかげで闇の神祖になっちゃったからもう太陽もへっちゃらなのよ。っていうか、ミスター逢魔からメール届いてないの?」


「あん?」


 スマホを確認すると一時間以上前に逢魔さんからメールが届いていた。

 やっべ、朝バタバタしてて見落としてた。


『日頃お世話になっております。

 先週は幽霊大発生事件の解決に尽力していただき誠にありがとうございました。

 報酬の運用についてはわたくしが責任を持って行わせて頂きますので、ご入用の際は私めにお申し付けくださいませ。


 さて、話は変わりますが、本日より当家の新しい使用人エカテリーナ・ツェペシュを犬飼様の護衛として派遣いたします。


 詳しくはエカテリーナよりお話させて頂きますので、よろしくお願いします』



 護衛だぁ……?

 なんでまたそんなもんを。



「早い話がスカウト避けと暗殺の護衛よ。今ボーヤは世界中の霊能者たちの注目の的になってるのよ」


「暗殺!? なんでまた」


「あなたの能力はいずれ臥龍院尊に届きうる。先の一件で宇宙全体のパワーバランスを崩しかねない存在として認識されたのよ。水面下では聖十字教会と魔術師協会がすでにあなたを巡って動き始めてるわ」


 ひぇぇ、なんか知らない間に色々動き始めてるよぉ。

 やばたにえんの無理茶漬け。


「で、今回の件の罪を臥龍院から見逃してもらう変わりにメイドになって、ボーヤの護衛に任命されてやってきたってワケ」


「ホントに信用して大丈夫なのかコイツ?」


 マサが疑わしげな視線を向ける。

 そう言えば地下洞窟で吸血鬼の足止めしてたって言ってたっけ。


「……正直、宗介を殺したことは今でも許せないわよ。まあ、裏切ったらその瞬間に臥龍院の呪いで消滅させられちゃうから私の気持ちなんて関係ないんだけどね」


 エカテリーナが紅い瞳を潤ませ俺を睨む。


 確かに俺は宗介の罪をみそいで、異世界に転生させた。

 一人の人間をこの世界から消したという意味では殺したのと何も変わらない。


 殺伐とした沈黙が教室を満たす。

 ひりつくような緊張感が肌を焼き、ほほを一筋の冷や汗が伝った、その時だ。



 世界の色彩が反転して、俺以外の全員がその場から消えた。



「…………は?」


「お、おいヤバイぜブラザー! うまく言えねぇけどとにかくここはヤバイ! 早く逃げた方がいいって!」


 俺の影で息を潜めていた影友さんが珍しく顔を出して警告してくる。

 瞬間、巨大なドラゴンのあぎとが窓側の壁を大きくブチ破り、紅蓮の業火が視界を埋め尽くした!


「熱っちいなクソがっ! 制服燃えちまったじゃねーか! 波ッ!」


 消し炭から再生した俺は全力の霊力波をドラゴンの鼻っ面にお見舞いする。

 ドラゴンの身体が消し飛び、吹き抜けになった壁の穴から色の反転した不気味な空がよく見えた。


「ちっ、なんだったんだアイツ」


「油断すんな! まだ死んでねぇぞ!」


「なっ!?」


 影友さんの声に校庭に目を向けると宙に浮いた真っ赤なコアらしきものがボコボコとうごめき、ドラゴンが元通りに再生した。


 すぐさま追撃の霊力波を放つが、コアだけは消し去ることができずまたドラゴンが再生する。

 くっそ! なんなんだよアイツ!?


 ドラゴンが大きく口を開き、灼熱の炎が再び俺に迫る。



「エンチャント・シールド!」



 目の前を覆い尽くすように突然水の膜が現れ、ドラゴンのブレスを受け止め水蒸気が視界を覆い尽くす。

 なんだなんだ!?


「マジカル────ッ、シュ────トッ!!!!」


 巨大な何かが振り下ろされたような音。

 次の瞬間、凄まじい衝撃波が吹き荒れ、俺を巻き込んで校舎がバラバラに消し飛んだ!



 ぎゅぴぃッ!?





「よしっ! 間に合った!」


『危なかったマチョ! もうちょっとでリアルワールドに出ていくところだったマチョ!』


「ぶー! いいじゃん結果的に間に合ったんだからさー」


『良くないマチョ! コハルはもうちょっと危機感持つマチョ!』


 衝撃波が収まり瓦礫の隙間から這い出ると、喋るぬいぐるみに説教されているピンクのフリフリドレスを着た少女がそこにいた。


 あいつか! デタラメやりやがったのは!? 文句言ってや…………













「……っ小春!? なんでこんなとこに!?」


「は……? えっ!? に、兄ちゃん!?」


『ま、マチョー!?』

 


 俺のピンチに駆けつけ、俺ごとピンチを消し飛ばしたのは……。




 魔法少女になった妹だった。




はい、つーわけで魔法少女編はっじまっるよー★


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 作品としての属性モリモリィ!だがそれが良し!
[一言] 混沌神か ピッタリすぎやん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ