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俺の答え

「お前の神としての力を使えば暴走した能力を制御して、世界に新たな可能性を示すこともできるだろう」



 走馬灯のように切り替わっていた景色が止まり、夜明け前の校舎の屋上で俺たちは向かい合う。


 宗介の人生を追体験して、人間の本性を見せつけられた。


 本当に心の綺麗な人間なんて滅多にいない。

 いたとしても、環境が、人々の悪意が綺麗なままでいることを許してくれない。


 人々が抱える心の闇と、人が成す邪悪を見せつけられた。


「すでに決定権は俺から離れた。新しい世界の形はお前が決めろ、晃弘」


「……るせー」


「あ?」


「ゴチャゴチャうるせーつったんだこのボケナスがぁぁぁぁ!!!!」


「うおっと!?」


 色々拗らせてるクソバカ野郎の顔面を思いきりグーで殴りかかる。

 体軸を逸らして俺の拳を躱し、そのまま流れるように俺の腕を掴みにかかってきた宗介を振りほどく。

 さらに踏み込んで宗助のボディーへ連打を叩き込む。


 半歩下がった宗助は、俺の拳に手を添えて打撃を逸らし、反撃の裏拳が俺の鼻を叩いた。

 鼻血が吹き出し目の奥に火花が散る。

 アゴ狙いのジャブを腕でガードし、さらに踏み込む。


 踵で宗介のつま先を思い切り踏み抜き、よろけた宗助の腕を掴んで背中側に回り込み、関節をキメて床に押し倒す。

 そのまま背中に馬乗りになってキャメルクラッチの体制を取った。


「人間の悪意だぁ? んなもん俺だって知ってらぁぁぁぁぁ!」


「痛だだだだだだっ!?」


 普通にしててもトラブルの方から寄ってくんだから、むしろ人間の悪意なんざ知り尽くしてるわ!


「みんな腹ン中に何か抱えてるなんて百も承知なんだよ! けどな、実際にその悪意を行動に起こすバカなんざ世界全体から見ればほんのひと握りだ!」


 現実だろうがネットだろうが不愉快な声ほどよく響くってだけで、極悪人なんて実際は殆どいない。


 仮に人類の中に極悪人が一〇〇〇万人いたとしても、それですら日本の人口の一〇分の一以下の数でしかないんだ。


 たまたま身近にドクズが多かったからって、それだけで人類みんな悪だなんて決めつけるのはあまりにも幼稚すぎる。


「お前は人より色々見えて聞こえちまうから悪い方に目が行きがちになってるだけなんだよ。もう大人だろ! いい加減目ぇ覚ませやこの中二病が!」


「目ならとっくに覚めてんだよ! 俺は実際に見てきたぞ! 残酷でむごたらしい人間の悪意を!」


「だからそんなもん少数派だって言ってんだろうが! 世の中の大半はちょっとだけクズい善良な臆病者だ! そうでなきゃ社会なんざまともに機能するわけねぇだろうが!」


 世の中の全員が自分の欲望を満たすために他人を食い物にするような悪人バケモノばかりだったら、そもそも秩序なんて成り立つはずがない。


「そりゃ、誰にだってズルい部分はあるし、みんなそれぞれの正義や信念を持って生きてる。生きてりゃ考えがまるっと変わることだってあるだろうさ。けど、それの何が悪いってんだ!」


 いつの時代も相手の考え方や在り方を認められず、自分自身も満たされていない奴が人を傷つける。


 そしてそれは宗介だって例外じゃない。


「人類の選別とかカッコつけてほざいてたけどよ、ようは腹割って話し合える友達が欲しかっただけなんじゃねぇのかよ!?」


「…………」


 クリカラの力ですでに宗介の身体は小学校低学年くらいにまで小さくなっている。

 ムスッとした顔で黙りこくる姿はまさに子供そのものだ。


「こんなことしでかす前に、俺に相談してくれりゃよかったんだ。大馬鹿野郎が」


 宗介の野郎、もうちょっと賢いと思ってたんだがなぁ。

 まさかここまで拗らせてるとは思ってなかった。



「……で、どうするつもりなのよ」


「来るのが遅ぇよ」



 振り返ると屋上に出入りするドアの前にレイラが立っていた。


「うっさいバカ。で、どうするつもり?」


「ああ」


 俺はねたままの宗介に聞こえないように、レイラに自分の考えを伝えた。


「…………本気?」


「ああ、これくらいなら別に問題ねぇだろ」


 大きくは変えない。

 ただ、世界を今よりちょっとだけ優しくする。それだけだ。

 増えすぎたエネルギーの殆どを俺が背負うことになるが、まあなんとかなるだろ。


「お前が何度でも正気に戻してくれるんだろ?」


「……ふんっ。そんなこと言ったかしらね」


 俺がニヤッと笑って聞き返すと、レイラが「プイ」と顔を逸らして手の中のハリセンを軽く鳴らす。

 いつも通りで逆に安心したわ。


 とうとう赤ん坊になってしまった宗介を抱き上げ、内なる神の力を呼び起こす。

 背中から四本の腕を生やし、そこからさらに無数の枝を大樹のように大きく広げていく。


 宗介が俺の手の中で胎児に戻り、さらに小さくなっていく身体から押し出されるように正方形の白い匣が出てきた。


 とうとう小指の爪ほどまで縮んでしまった宗介を混沌の塊で包み、願いを込めて可能性を収束させていく。

 

 瞬間、宗介を包んでいた光の玉が手の中から一瞬で消え失せた。


 俺が願ったのは宗介の異世界への転生。

 自分が特別過ぎて悩むくらいならそれが普通の世界で生まれ直してこい。

 上手くいってればいいけど、どうなったか確認する方法がないからこればかりは()()()()()()()()に祈るしかない。


 ふつつかな兄ですがどうかよろしくお願いします。







 俺は再び意識を白い匣に向けた。


 こうしている今も匣は激しく脈打ち、手に持っているだけで意識を持って行かれそうなほどの力を感じる。


「……っ、ええいっ!」


 覚悟を決め匣を一息に飲み込む。


「ガァァァァァァッ!? おぞろおぞろべぼばへぬへにまかさらさにまたたたたたたたたた!!!」


「早速かっ!」


 スパァン!


 小気味よいハリセンの音と衝撃が俺の正気を引き戻す。

 あ、危ねえ……。一瞬で意識もぎ取られたぞクソッ。


 集中、集中……。余計なことは考えるな。一つの願いに集中しろしろろろらろろれるひぬしとのむのまなまさかまはなまはのまはなまはなまはのまはかたのやほやはなもはなたさこたかまなまかた!?


「はい集中集中!」


 スパァン! スパァン!


 くっ、頭がクラクラしてきた。

 けど、大まかなイメージは固まったろぬたまのなはまでこまさこここたかまこたかたこやさな!?


「はいそこっ! 集中切らすな!」

 

 スパパパパーン!!!!



 くっ! 集中集中集中!!!!



「これでぇぇぇッ、終わりだァァァァァ────────やはならななたなたなまなまなまなやさなたさかまなたふたのゆやかたほなほねろになまはやほやはなさなはなはたほなほ」


「いい加減にしなさいッ!!」



 スパァ────ン!



 ハリセンの音と重なるように夜が明け、朝日と広がった枝の先に実った光の玉が世界を白く染め上げ────……………………



バイバイ宗介

来世は上手くやれよ


次回第一章エピローグ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に読めちゃいましたね。ギャグが好きですね。バトルも好きですね。ラブコメはまだですか?
[一言] 結論 ただの潔癖だった
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